オンラインの体験によって、オフラインの暮らしや心を豊かにする

事務局長対談

村瀨龍馬さん(株式会社MIXI 取締役CTO)
長田新子(渋谷未来デザイン 事務局長)

SNS「mixi」やスマホゲーム「モンスターストライク」、そして近年では、子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」などのサービスでも知られるMIXI。これらのサービスはオンラインで提供されるものでありながら、リアルのコミュニケーションにフォーカスした設計がなされているのだといいます——

街なかのリアルな「つながり」の魅力

長田 まずは、MIXIさんの事業の特徴というとどんなところでしょうか?

村瀬 弊社は「コミュニケーション」を軸にしたサービスをずっと展開しています。SNS「mixi」から始まり、スマホゲーム「モンスターストライク」も休み時間にみんなで集まってやる設計にしていたり、「家族アルバム みてね」のようなサービスで家族間のつながりを良くしたりと、人と人が何かをするときの間にあるような事業を行なっています。

長田 いわゆるオンラインコンテンツだけでなく、たとえばスポーツ事業を支援されていたり、オフラインのリアルな場も大切にされていますよね。それも「コミュニケーション」を軸とした事業展開のなかでは重要なことなんでしょうね。

村瀬 大事ですね。目の前にいる人としゃべるということが、まだいちばん「つながり」を感じられる方法だと思っています。
たとえば声や音にしても、リアルな場所ではいろんなところに音が反響しながら耳に届きますが、オンラインは基本的にみんなイヤホンで聴いていたりして、耳に直接音が届きます。人を感じたり、信頼感をつくったり、熱狂や熱気みたいなものを伝えるには、どうしても音域がまだ足りないと思うんです。そういった技術がもっと良くなったりすれば別の可能性もあるかもしれませんが、基本的にはリアルの場のほうが、五感をつかって楽しめるものをつくっていけると考えています。

長田 そういったリアルなコミュニケーションの大切さに気づいていったきっかけはあるんですか?

村瀬 私は2005年にイー・マーキュリーというMIXIの前身となる会社に、SNS「mixi」の3人目のエンジニアとして参画して、しばらくして一度会社を抜けているんですね。その間にゲーム業界などいろんな業界を見たり、経営について学んだり、エンジニア以外のいろんなサブスキルみたいなものを身に付けていた時期がありました。そのとき京都に移住していたんですが、サンドイッチ屋さんとかデリカテッセンのお店を手伝ったりと副業的なこともしながら、街の中のコミュニティーというものにすごく魅力を感じていたんですよね。

いまは渋谷区に住んでいますが、渋谷の街はいろんな刺激があって歩いているだけで楽しいし、休日にコーヒー屋さんを点々とめぐったりするといろんなコミュニティーに触れることができます。渋谷は人がいっぱい来る前提の街で、かつ、テクノロジーもいろんなところに入っていたりするので、そういうのを見ているのは楽しいですね。

長田 渋谷の風景の変わり方なんかを見ていて、なにか感じることはありますか?

村瀬 コロナ禍で人の訪れ方の変化はあったかもしれませんが、変わらず若者が来てくれ続けていれば、ずっと変わり続けられる街でいられると思います。
コミュニティーや交流ということでいうと、渋谷の過ごし方はどんどん多様にアップデートされている感覚はあります。たとえば北谷公園に行くとたまにライブをやっていて、音楽とコーヒーを囲む文化が生まれていたりするように、雑多でごちゃごちゃした街の各所から、場所や世代で区切られた小さなコミュニティーが出来てきている感じがします。

長田 結構歩き回っているんですね?

村瀬 だいぶ歩き回ってますよ(笑)。キャットストリートを歩いてると長谷部区長とすれ違ったりします。「パトロールですか?」って(笑)。

リアルの暮らしや仕事を豊かにするテクノロジーのつかいかた

長田 社内での村瀬さんの役割というとどんなことなんですか?

村瀬 私は経営者なので何でもやります(笑)。プログラミングやものづくりの考え方で経営というものを見ていくのは楽しいですよ。さまざまなワークフローの自動化や効率化をしていったりとか。
うちの会社ってすごく多種多様な問いや課題が転がっているんだけれど、それが転がったままになってしまうのがもったいないんです。仕事を徹底的に効率化することによって空いた時間で、問いや課題に対するアイデアをどんどん作ってもらって、またそれを機械に任せていく、ということを繰り返していけるのが最高だと思います。
AIを始めとした機械に任せる技術というのは、そんなふうに問いをずっと問い続けられるような「余剰」を作るための技術だと思っています。やることがいっぱいある状態もやりがいがあっていいんですけど、やることがなくなったときが一番の勝負だなと思っているんです。自分の人生と向き合ったりもするだろうし、会社で何を実現しようかと思案するかもしれないし。そういう「余剰」から生まれるものを大切にしていきたいですね。

長田 面白いですね。

村瀬 エンターテインメントって一見無駄と思えてしまうような間のようなものが重要なものだらけだと思うんです。でも目の前のタスクが多ければ多いほど、大切な間を考えられなくなっちゃうんです。こうしたらユーザーさんはもっと驚いてくれるかな、とか、もっとこうしたらよくなるかもしれないと考えられる余裕を生まないと、普通のユーザーファースト的な考え方に落ち着いてしまって、エンターテインメントはつくっていけないです。ユーザーがドキッとしてくれるぐらいのものを生み出すには、ある程度余剰がないといけないんですね。

長田 そんな余剰をつくりながら、会社としてこれからどんな事業に注力していくのかというお話も聞きたいんですが、コロナ禍を経て、バーチャルやメタバースが盛り上がってきた一方で、改めてリアルな場の魅力についても見直されてきていますよね。バーチャルとリアルをどうつなげるか、ということをいろんな人や企業がいま考えているように思いますが、そのあたりについてはどう思っていますか?

村瀬 オンラインとオフラインを融合させていくことはやはり前提になってくると思います。その上で、オンラインは会いたい欲求を膨らませる機会として使って、オフラインで会ったときにそれが満たされる、というような考え方を基本的にはしています。
だから弊社はどちらかというと、今の所はVRよりはARに近い感じですかね。リアル世界をバーチャルと融合させるということのほうをどちらかというと重要視しています。

長田 ちょっと話が飛んじゃうんですけど——寝落ち通話アプリって流行ってますよね。眠れない人が、寝落ちするためにアプリに入って誰かと会う。それで眠れなかったらまた他の人と会って寝落ちする、みたいな。そんなニーズがあるんだなと驚いたんですが。

村瀬 ありますね。寝落ちだけでなく、たとえば勉強や作業をするときにも誰かとつながるというのもあって、弊社では「mocri」というアプリがあります。そういう、そばに人がいる感覚をオンライン経由で得ながら何かをやる、というのはおもしろいですよね。誰かの息づかいを聞いて安心したりとか。満たされ方というのはいろいろありますね。

長田 まさにリアルとオンラインが融合している感じがします。そしてこういうサービスってニッチなのかというと、実は意外とみんな使っていたりする。そうやってコミュニケーションの手法もどんどん変わっていきますし、その意味でも、人を感じたり熱狂や熱気を伝えたりという手法を考えていくMIXIさんの取り組みはとても面白いなと思っています。

興味と技能を活かす、オープンなプロジェクトチームがつくれたら

長田 渋谷未来デザインとの関わりでいうと、SOCIAL INNOVATION WEEK(以下、SIW)でももう何年間かご一緒していますが、これから未来に向けてこんなことをやってみたいということはありますか?

村瀬 そもそも渋谷未来デザインが今どんなことをやっているかというのを見渡せるといいですよね。弊社も悩んでいるところでもあるんですけど、今やろうとしていることをオープンにしていくと、そのプロジェクトだけ入りたいっていう人が出てきますよね、それでプロジェクト単体で入ってもらって終わったら出て行ってもらうみたいなことができたら、お互いすごく幸せだと思うんですよね。渋谷区が今何をやろうとしているのか、渋谷未来デザインが何をやろうとしているのかが分かって、「そこに参加したい人ー?」と呼び掛けて手を挙げられる仕組みがあったら、スペシャリストの人たちも楽しく集まってくれると思うんですよね。

長田 それはいいですね。そういう仕組みがあれば、たとえばMIXIの皆さんも参加することは可能ですか?

村瀬 可能だと思います、弊社は副業OKですし。
たとえば、DJをやってるエンジニアとかもたくさんいますけど、彼らが街のナイトタイムエコノミーに関してなにかやりたいかもしれないとか、たとえば何かあたらしい技術を社会実装したり、それを使ってあたらしい遊び方をする人たちのユーザー動向を調べたいといったことを考える人もいるかもしれないですし。こんなことだったら協力しますよ、というかたちでプロジェクトに入り込める体制があったら最高にいいなと思っています。
「渋谷で今こんなことをしようとしてるから参加してみたら?」と社内で広く伝えていくこともできると思いますし、街づくりとIT業界という掛け合わせがよりたくさん生まれていくための可能性をどんどん広げていきたいですね。

長田 そうですね。我々もよりオープンにプロジェクトを進めながら、より多くの方々を巻き込んでいけたらと思います。

 

文)天田 輔
写真)寺林 紘喜

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