公共空間を活用する魅力的な“前例”をつくり続ける

事務局長対談渋谷駅前再開発

井上琢磨さん(渋谷駅前エリアマネジメント 事務局長)
長田新子(渋谷未来デザイン 事務局長)

再開発により変化しつづける渋谷駅前エリア。そこに遊び心をプラスして、たくさんの好奇心と創造性が集まるまちをつくっていく——そんなビジョンを掲げる一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメントは、公共空間をより有意義に活用し、サステナブルで魅力的な街づくりを推進しています。同社の事務局長・井上さんに、渋谷未来デザイン事務局長・長田がお話をうかがいました。

 

公共空間で生み出した収益を街づくりに還元する

 

長田 あらためて、井上さんが事務局長を務める一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメントについて簡単にご説明いただけますか。

井上 さかのぼると、渋谷駅前の再開発の気運が高まったのは2000年頃で、当時から解決すべき課題がいろいろあったんですね。建物の老朽化だったり、大雨のときの浸水の問題や、震災の際に人が滞留できる空間がないとか。あとは、バリアフリー化などもそうです。そういった課題を解決するためのハード面の開発というのは駅前再開発として計画されましたが、同時にソフト面、つまり持続的にどう街を運営していくかを考えていく組織が必要で、官民協議が重ねられていきました。

そういった流れがあって2013年に、母体となる渋谷駅前エリアマネジメント協議会が立ち上がりました。街のルールをどうつくっていくかという議論が官民連携でなされ、それを実行する部隊として、2015年に一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント(以下、渋谷エリマネ)の設立に至りました。現在は、東急、東急不動産、URのそれぞれの渋谷に関わる部門のスタッフ計15名が、事務局を運営しています。

長田 これから、渋谷エリマネとして目指していくのはどんな姿ですか?

井上 これからも渋谷駅前では、多様な公共空間が整備されてきます。官民連携により公共空間を活用することで、新たなビジネス展開や様々な挑戦ができる環境を作っていくことが我々の役割だと思っています。
そこで生み出された収益はしっかり街に還元して、さらに街の価値を上げていく。そうやってお金が循環している状態が我々の目指す姿だと思っています。

取材は渋谷駅前東口地下広場に併設のカフェ「UPLIGHT CAFE 渋谷」で行われた

 

長田 渋谷エリマネさんが扱っている公共空間というと、たとえばいまお話をしている、ここ、渋谷駅の東口地下広場も。

井上 はい、ここは2019年の秋にあたらしくできた地下広場ですが、分類上は、渋谷区の区道ということになるんです。

長田 あ、ここって道路という扱いなんですね。

井上 はい。ですので、道路上にカフェを設置するというのは、普通ではなかなか難しいところがありますが、渋谷エリマネとして特例をいただくことで設置ができたり。あとこの広場のおもしろい取り組みでいうと、公衆トイレと併設のパウダールームですね。

ここは性別を問わず誰にでも無料で使っていただけるパウダールームなんですが、協賛により得られた広告収入を、トイレの清掃費に還元するというような循環型のモデルになっています。

また広場に大きくとられた壁面も広告展開ができるようになっています。最近は音楽グループの広告なども多く、ファンのみなさんが立ち止まって写真を撮ったりしており、新たなフォトスポットとして定着してきています。
こういった広告収入もまた、清掃費だったり、街づくり活動費に還元していくモデルになってます。

長田 こうした公共空間が出来上がったあとに、その場所の魅力を持続可能なかたちで高めていくのが渋谷エリマネさんの役割ということですね?

井上 そうですね。いろいろな法律や制度があるなかで、いかにしてまちの賑わい創出などに公共空間を活用できるようにしていくかというところが、我々の仕事のひとつです。

 

駅周辺に広がる渋谷エリマネの活動の場

 

長田 広告媒体でいうと、他にはどういう媒体があるんですか?

井上 ハチ公前広場の「憲章ボード」だったり、特徴的なものだと「渋谷スクランブルスクエアビジョン」もあります。東京都屋外広告物条例によって、通常は100平米までしかビジョンを設置できないんですが、特例的に約800平米の大きさまで広げています。特例が適用されるのは、このビジョンの広告収入の一部が街づくりに還元されるというモデルだからです。

渋谷スクランブルスクエアビジョン

 

長田 パルコにある渋谷未来デザイン(以下、FDS)のオフィスからも、いつもバッチリ見えてます。

井上 まわりにビルが多いんですけど、意外といろんなストリートからも見える位置にあるんですよね。
変わりゆく街の情報発信をしていくことも我々の役割ですので、こういった媒体での発信にも注力しています。

あとは、駅周辺の工事中のエリアを囲っている壁、いわゆる仮囲いと呼ばれるものですが、この壁面も特例的に、広告媒体として活用し、街への還元に役立てています。

渋谷駅西口側の仮囲い

 

仮囲いに関しては、工事中にどうやって賑わいをつくっていくかということも課題ですので、広告だけでなく例えばアート展開だったり、地元の情報発信の場としても活用できるよう画策しています。

ほかには、ハチ公前広場も区道上になりますので、そこに観光案内所を設置していたり。

また今後も、2023年には桜丘口が竣工したり、あたらしい広場ができていきます。そこでもイベントができるようにするなど、あらたな取り組みを検討しているところです。

渋谷駅ハチ公前広場の観光案内所「SHIBU HACHI BOX」。企業協賛によって得られた収益は街づくりのための事業費へ還元される

 

地域との関係をより確かに。地域課題解決のための取り組みも

 

長田 この数年はコロナもあったなかで、渋谷エリマネさんにとって直近の課題というとどんなことですか?

井上 コロナ禍以降、イベントができていないというところはもちろん大きいです。
併せていま強く感じているのは、治安・防犯・防災といったところの活動を強化していくことですね。
具体的にいうとまずは、落書き防止対策です。街をアートできれいにしていくことは我々の目標のひとつですので、先ほどお話しした仮囲いや、公共空間上にある柱などを、落書きがない状態にしていこうとしています。

また、渋谷区さんで行なっている「アロープロジェクト」(※発災時の一時退避場所の位置を、街なかの壁面に描いたアート性あふれる「矢印サイン」によって指し示すプロジェクト)とうまく組み合わせて、アート展開と落書き防止を同時に行なっていく方法を検討し始めています。

このように、渋谷の様々なプロジェクトや団体、街の方々とのネットワークをさらに強固にしていくこと——まさにFDSさんとの関係もそうですし、地元の方々との関係もより強く形づくっていくことが、大きな課題だと思っています。

 

渋谷未来デザインと、魅力的な“前例”をつくっていきたい

 

長田 公共空間でのイベント実施に関しては、そろそろ具体的な企画もでてきているんでしょうか?

井上 はい、街でいろんな挑戦をされたい方々や、あるいは実証実験をしたい事業者さんなどへの場の提供を、これからも広げていきたいと思っています。

たとえば先日は東京青年会議所が主体となって、東口地下広場で、遊びやワークショップを通じてSDGsや環境問題について考えるイベントが開催されました。
そういった有意義なイベントを行いたいという人たちとのマッチングなどは、FDSさんの力を借りてさらに活性化していけるといいなと思っています。

長田 それは我々としてもとても嬉しいですね。

井上 FDSさんが日々推進している、街の可能性を広げていく取り組み、いわゆる可能性開拓型プロジェクトに、これからもっと一緒になって取り組んでいけたらという期待を持っています。
あたらしい社会課題の解決にあたって、場の提供と、世の中への情報発信機能として、ぜひ渋谷エリマネをより活用していただければと思います。そういう連携をこれからもっと密にしていきたいですね。

長田 どんどん実験的なことがしていけたらいいですよね。
FDSの施策でいうと、以前には渋谷川沿いの公共空間「渋谷リバーストリート」の利活用実験「WORK PARK PACK」というプロジェクトでもお世話になりましたね。渋谷ストリームから続く川沿いの水辺空間にカラフルなコンテナを置いて、そこからイベントや情報発信をしていくというものでした。

井上 はい、公共空間で広告協賛を得ながらイベントをする、というところで我々が関わらせてもらって力添えさせていただきました。

長田 いろんな規制をクリアしていくことが大変でしたが。

井上 あの実証実験を経て、いまでは渋谷ストリームさんがイベントをやっていたりもします。実験的な取り組みを実績として積み重ねていくことが大切ですよね。

長田 それまでになかった“前例”をつくっていくということを、FDSと渋谷エリマネさんとの協業によってどんどん起こしていけたら。

井上 おっしゃるとおりですね。前例がないことを公共空間の中でどう法的に整理していくかが、我々としては難しいところでもあり、果たすべき役割でもあります。官民連携にて少しずつ実証実験を重ねながら、一緒にたくさんの魅力的な前例をつくっていきたいです。

 

事務局長対談シリーズ

林千晶さん – 株式会社ロフトワーク 共同創業者|自分が本当に生きたい未来に、とことん向き合う

梶浦瑞穂さん – スマドリ株式会社|飲む人も飲まない人も一緒に豊かに過ごせる文化を、渋谷から全国へ

秋葉直之さん – 株式会社ブーマー|帰属意識と自治を生む、バスケコートへの愛を集める/FDSとの理想的な共創とは?

中馬和彦さん – KDDI株式会社|メタバースに文化は根付くか? 時代を捉え変化し続けることの重要性

澤田伸さん – 渋谷区副区長CIO|「答え」より「問い」をつくり投げかけていく組織に

小澤真琴さん – ニューバランスジャパン|走る悦びも、女性特有の生きづらさも、地域や人との対話で共通のアジェンダに

Previous
テクノロジーが、社会を良くする方向へ使われるように
Next
すべての女性に心と体の健康を。最初の“気付き”を渋谷から