飲む人も飲まない人も一緒に豊かに過ごせる文化を、渋谷から全国へ

事務局長対談スマドリ

梶浦瑞穂さん(スマドリ株式会社 代表取締役社長)
長田新子(渋谷未来デザイン 事務局長)

お酒を飲める人/飲めない人、飲みたい時/飲めない時……お酒にまつわる様々な価値観や状況があっても、みんなで一緒に楽しめるように——スマドリ株式会社(アサヒビールと電通デジタルにより設立された合弁会社)が提唱するこの「スマートドリンキング」という発想は、2021年のSOCIAL INNOVATION WEEKでのセッション『Idea Session|渋谷×スマートドリンキング』を契機に、この度、渋谷未来デザインとスマドリ株式会社をはじめとする「渋谷スマートドリンキングプロジェクト」の発足にまで至りました。

渋谷センター街には、スマドリの価値観が全面的に体現されたバー、その名も『SUMADORI-BAR SHIBUYA』がオープン。そんな一歩進んだカルチャーを発信する新スポットで、スマドリ株式会社の代表・梶浦さんに、FDS事務局長・長田があらためてお話を聞きました。

飲めない人/飲まない人の気持ちを知ることから

 

長田 まずは、あらためてになりますが、梶浦さんの人となりをおうかがいしましょうか?

梶浦 僕は、生まれが徳島の酒問屋なんです。それこそお酒に囲まれて生きてきた(笑)。そしてアサヒビールという会社の特約店だったんですね。アサヒビールの営業マンが実家によく来ていて、彼らは東京からやって来ることもあって、僕は幼心に「お酒ってかっこいいな」と思っていました。東京から来る人はかっこよく見えるから(笑)。
大人になって就職先をいろいろ探したんですけど、結果的にアサヒビールを選んで、まずは4年、営業をやりました。

長田 もう毎日ひたすら飲んで(笑)

梶浦 はい、ビールの営業ですから。毎日お店を3〜4軒まわって今日も終電間に合いません、みたいな(笑)。でも楽しい日々でした。その後、マーケティング、「スーパードライ」のブランドマネージャーや、「クリアアサヒ」の開発などに携わったのちに、今度はインドネシアで勤務することになったんです。インドネシアはムスリムの方が約9割を占める国。原則的にはお酒がNGという文化の国ですので、今までの環境とはいわば真逆の状況になったんですよ。

長田 じゃあ、つらかったんじゃないですか?

梶浦 食事を3時間、お酒抜きでお茶だけで、すごく楽しそうにやるっていう、私にはちょっと耐えられないような時間を約2年過ごして、正直、僕としてはつらかったです(笑)。でもそこでの経験は意味があったと思います。

その後日本に帰ってきたのが2017年で、ちょうどノンアルコールの商品が伸びてきていた時期。会社側からは新しい価値創造に取り組んでほしいというオーダーもあり、じゃあ「飲めない人と一緒に楽しいことができないかな」と考えていったのが、現在に至る経緯です。

長田 当時の会社の反応はどうでしたか?

梶浦 どの口が言う、みたいな(笑)

長田 あのお酒好きの梶浦さんがノンアルか、と(笑)

梶浦 ただ、やっぱり飲めない人が世の中には想像以上にたくさんいることに気が付いたんですよね。我々はお酒の会社でお酒が好きな人が多いので、飲めない人が自分たちの周りにはいないっていうだけなんです。それでマーケティングをやってても、飲めない人/飲まない人のデータってほぼないんですよ。お酒を飲む人のことはすごく調べるんですけど。
そこで、外に会社をつくろうと。飲めない人もたくさんチームに入っているスマドリ株式会社ができました。

長田 SOCIAL INNOVATION WEEKのセッションでも、飲めない/飲まない人を集めてクロストークをしましたけど、お酒が好きな人の立場からすると、やっぱり意識しないとなかなか気づけないこともありますよね。

梶浦 お酒を飲めない人と居酒屋やバーに行くと、自分も相手も気を遣うし、お互いちょっとテンションが上がりきらないのも事実なんですよね。そういうときに、ただのお茶じゃなくて、もっとウキウキするドリンクがあれば、お互い気を遣わなくていいんです。

長田 確かに他のみんながお酒を飲んでるときに自分はコーラをがぶがぶ飲んでるのがつらい、っていう声も聞きました。

梶浦 そうなんですよね。あと、これは『Shirafer(シラファー)』という“シラフをカルチャーにアップデートする”プロジェクトが指摘していることなんですが、ノンアルの飲み物とペアリングするような発想の食べものがない、っていう。

長田 確かにないですよね。

梶浦 お酒は食事に合わせて選ぶんですけど。この食事にはワイン、これにはビール、っていうような楽しみがない。だから、この『SUMADORI-BAR SHIBUYA』でもペアリングが楽しめるフードとドリンクの組み合わせをこの先提案していきたいです。

渋谷に根差して、全国にカルチャーを発信したい

 

長田 もともとの経緯を振り返ると、FDSが立ち上がってから、やっぱりアサヒビールみたいな会社さんと渋谷でプロジェクトを何かやりたいなと思って、浅草の本社のほうへ伺ったんです。

梶浦 その時点では、何か具体的に想定してるものあったわけではなく?

長田 渋谷にはバーやクラブやライブハウスもあるから、若い人たちに向けたイノベーションを一緒に起こしたい、みたいな思いしかなかったと思うんですけど。でもだいたいの会社さんって、こういうお話をしたときに、具体的に求めるものも多いと思うんです。これを投資したらいくら戻ってくるんですか、みたいな話にまずなるんですよね。

梶浦 そうなりますよね。

長田 でもそのときはそれがなくて、もしかしたらアサヒビールさんも新しい価値創造とかに取り組もうとしていたタイミングだったのかなと思いますが、会社の体質として新しいことにチャレンジする姿勢をそのとき感じました。

梶浦 本当にいいご縁だったんだなと思います。我々がやりたいことと渋谷という場がうまく寄り添うことができて、感謝しています。

長田 渋谷のなかでも、このセンター街という場所を選んだのは…。

梶浦 渋谷駅前の再開発をしているエリアっていう選択肢もあったんですけど、僕らが訴求したいのは「お酒とスマートに付き合いましょう」っていう話なので、既にスマートなところでやる意味はなくて。たとえばハロウィンなんかでも若い人たちのお酒との付き合い方について取り沙汰されるような場所でやることに、意義があるんだろうなと思いました。
いろいろ探して、しかもたまたま物件があったので、これもご縁だなということで。

長田 それで一緒にセンター街の振興組合さんにも挨拶に行って。

梶浦 街に対してすごく思いのある方々ですよね。これが街に根差すってことだなと思いました。我々も本当に街のためになることをやって、その結果として、我々のやりたい世界の実現というゴールがあると思っています。

長田 梶浦さんからみてFDSに対してはどんな印象ですか?

梶浦 いろんな角度で渋谷というものを使いながら、未来やイノベーションを日本と世界に発信していくために、具体的にアクションしていくというすごいエネルギーを感じます。ふつうの会社だと利益を追わないといけないので、やりたいことがここにあったとしても、半分もできなかったりするんですよ——我々がスマドリ株式会社をつくった理由も、このあたりにもあるんですけど——目の前のことに追われて、本来やるべきことに注力しきれないというような。

長田 確かに。

梶浦 でもそうじゃなくて、やりたいことの固まりで動いてるっていうようなFDSというコミュニティに入らせていただいて、本当に我々のやりたいことの背中を押してもらいました。
「まだないものをつくりたい、やりたい」っていう人たちが集まってるんだな、というイメージがFDSにはありますね。

長田 やるべきことがぼやっと見えているけど、これ、というのは走りながらつくっていくような感じなんですよね。大きい何かは見えていて、こまかなことは走ってるうちにどんどん変わっていくみたいな。でもそういうかたちじゃないと、今の時代、明日何があるかなんてわからないじゃないですか。

梶浦 そうなんですよね。そう思います。

長田 だから、あんまり決め打ちで全部やると難しいな、っていうのはコロナで特に感じましたね。

梶浦 やっぱり決まってると面白くもないし。でもそういうやり方は、会社組織としてはやりづらいんですよね。とはいえ、プロジェクトを進める上では企業というものは必要なもので。

長田 企業は必要。

梶浦 なので、やっぱり企業の外でやりたいことを進めながら、企業の力でうまくブーストしていくっていうのが、たぶん一番かたちになるんだろうと思うので、僕はいま両方の立場でやってるんですけど。実現したい世界を目指しながら、企業の資金力とかリソースでブーストさせていく。やっぱり両方上手に手を組みながらやると、面白いことがいっぱいできるんじゃないかと思います。

飲めない“あの人”を誘って…楽しく過ごせる文化をつくる

 

長田 長期的にはどんなビジョンがありますか?

梶浦 『SUMADORI-BAR SHIBUYA』には飲めない人向けのメニューがたくさんありますが、ノンアルコールでも気持ちが上がったりリラックスしたりというお酒の便益のようなものを提供できることをここから発信させていただいて、最終的には、日本中に広がってほしいです。
いまでもノンアルバーというものはあるんですけど、やっぱりこれだけ種類があって、飲めない人が主役なんだけど飲める人も楽しめる、っていうのはあんまりないんですね。

長田 既にお客さんからの反響なんかも届いてるんですか?(※取材当日は『SUMADORI-BAR SHIBUYA』の開店日)

梶浦 SNSでも反響を多くいただいてますし、「行きたい!」と言ってくれる方は飲める方が多いんですよ。その人たちは「飲めないあの子を連れていきたい」っていう思いがあるんですよね。そうやって具体的な人の顔が浮かんでいるのがいいなと思ってて。そういう思いがどんどん広がっていくのが理想の状態だと思っていますし、今度はそれが反対にもなってほしい。飲めない人が気に入ってくれて、その人が今度は飲める人に「一緒にあそこ行こうよ」と広がってくれれば。

長田 なんだかいい話ですよね。

梶浦 いい話ですよ。お酒の本当の便益は酔っぱらうことではなくて、人を楽しく幸せにすることなので。

長田 酔っぱらうこと自体ではない。

梶浦 本来は人と人をつなぐとか、ストレスを解消するとか、人生を豊かにするものなので。ただ、負の側面が今すごく強調されている時代なので、そうじゃないですよっていうことも伝わってほしいですね。
お酒の席の良い部分を知らないままっていうのはやっぱりもったいない。でもその良い部分というのは、必ずしもアルコールが必要なわけではないということですね。
そこで、ふつうのお茶だと気分が上がらないけど、こんなドリンクや料理があると上がるよね、っていうカルチャーをみんなでつくっていきたいです。

長田 まさに渋谷を実験的な場所として、楽しい時間が日本中に広がっていくといいですね。

 

 

事務局長対談シリーズ

秋葉直之さん – 株式会社ブーマー|帰属意識と自治を生む、バスケコートへの愛を集める/FDSとの理想的な共創とは?

中馬和彦さん – KDDI株式会社|メタバースに文化は根付くか? 時代を捉え変化し続けることの重要性

澤田伸さん – 渋谷区副区長CIO|「答え」より「問い」をつくり投げかけていく組織に

小澤真琴さん – ニューバランスジャパン|走る悦びも、女性特有の生きづらさも、地域や人との対話で共通のアジェンダに

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