帰属意識と自治を生む、バスケコートへの愛を集める/FDSとの理想的な共創とは?

事務局長対談

秋葉直之(渋谷未来デザイン/株式会社ブーマー)
長田新子(渋谷未来デザイン)

6月15日から7月15日までの1ヶ月、ストリートバスケットボールの聖地・代々木公園のバスケットボールコートを改修するためのクラウドファンディングが実施されています。
プロジェクトメンバーでもあり、渋谷未来デザインのプロデューサーとして株式会社ブーマーから出向している秋葉と、渋谷未来デザイン事務局長・長田の対談をお届けします。

会員企業として、渋谷未来デザインをどう活用するのか? また、代々木公園で先進的な事例をつくり、渋谷から全国へロールモデルを波及させていくビジョンなど、スポーツの視座だけに留まらない対話となりました——

 

クラウドファンディング『聖地 代々木公園バスケットボールコートをみんなで改修したい。』|READY FOR

 

——まずは、秋葉さんが渋谷未来デザイン(以下、FDS)に関わるようなった経緯をあらためて振り返ってもらえますか?

秋葉 もともとは若い頃に渋谷でNPOをやっていたんです。若い世代のカルチャーを支援するNPOで、グラフィティ・アート・シーンへの支援としてリーガルウォール(※公共空間ながら、ストリートアーティストが自由にペイントを施すことが法的に許可されている壁面)を宮下公園につくったりしていました。そのときに「おまえら若くて面白いな」って目をかけてくれていたのが、当時区議会議員1年目だった長谷部さん(現・渋谷区長)だったんですね。そういう交流が昔からあって、やがて長谷部さんが区長になってFDSが設立されたことも知っていて、興味はあったんですよね。

本業は広告代理店で、(長田)新子さんの前職であるレッドブルで、バスケなどのスポーツイベントのプロデュースをしていた関係もあり、2019年のSOCIAL INNOVATION WEEKから少しずつジョインして、その後弊社・ブーマーとしてFDSの特別正会員企業になりました。

FDSに出向してきたのは2020年2月で、すぐにコロナが始まって…、ほんとはスポーツの事業をつくろうとしていたんですが、コロナでスポーツどころではなくなってしまい、『YOU MAKE SHIBUYA クラウドファンディング』がいきなり大きな山場になりましたね。だから初年度はなかなか大変な思いをしたけれど、困難を共有できてチームとしてはよくなったと思います。

長田 そうですね。あのときのクラファンでチームがひとつになった感じがします。明確な目標があって、そこにみんなで力を合わせて到達しようとする姿勢がつくれました。

秋葉 またそこで得たノウハウが、いま行なっている代々木公園のバスケコート改修のクラウドファンディングでもすごく活きてくるわけですが、その話はまたのちほど。

 

会員企業としてのFDSの“使い方”

長田 それで、アーバンスポーツの事業に腰を据えて取り組めるようになってきたのは、2021年頃から?

秋葉 そうですね、それまでもFDSでは「Next Generations」(※U-15 次世代向けのスポーツシーン創造プロジェクト)をやってきていたけど、もう少し大人向けのスポーツ事業もやりたいっていうことで、メンバーを増強したり、同じくFDSの会員企業のスポーツビズ社からも出向者が来てくれたりしてチームを大きくして。渋谷区全体を15平方キロメートルの運動場として捉える、っていう渋谷区の基本構想に沿って、渋谷の街にフィットした、ランニングやバスケ、ストリートスポーツを「観る」「やる」「育てる」といった振興プロジェクトが動き始めています。

長田 FDSへの企業の参画、特に企業からの出向者というところでいうと、アーバンスポーツのプロジェクトの場合は、その道の専門家がチームに入ってきてくれていることが特徴ですよね。FDSで1から経験を積んでいきたいという出向ではなくて、情熱を持った経験者がジョインしてくれていて、シーンへの支援などにも直接的につながっていくし、経験者の集団だから情報や活動の広がりもすごくありますよね。

秋葉 通常は、企業からの出向者なら年次の人事で代わってしまうし、それは仕方ないことですけどね。その都度ゼネラルな職能の人が来るけど、FDSで担当することになるプロジェクトのシーンにどっぷりと浸かってきた人というわけではないのは確かです。

長田 だから「自分たちはこういうことをやりたい」「こういうことをやったら社会が変わるんだ」みたいな情熱をもともと持っている人たちの集団が、いまのアーバンスポーツプロジェクトのチームだと思うんです。
そこに、“1から”の状態で入ってくる人もいる。たとえば渋谷区役所から出向してきている田中君は、情熱を持ったプロフェッショナルたちに囲まれてすごく刺激を受けて、日々成長しています。実はそれって理想的なかたちのチームアップなんでしょうね。

秋葉 でも、変な言い方ですけど、僕らはFDSを“うまく使えている”とも思うんです。「FDSがやりたいこと」を叶えるっていうよりは、「僕らがやりたいこと」をFDSを使って叶えてるっていう感じがあるから。

長田 それでいいんですよね。ほんとはスポーツだけじゃなく、例えばアートとか音楽とかでもそういう人たちがいて、FDSをうまくプラットフォームとして活用していくことができるんです。そこに対して情熱がある人は、どんどん入ってきてほしいです。こんなことをしてほしいという依頼はいっぱいあるけど、自分自身が入って自分でやる、っていう人はまだ意外と少ないですから。

 

バスケコートへの愛を集めて自治を生む…
それを全国の公園バスケシーンに波及させたい

秋葉 そうやってアーバンスポーツのプロジェクトは着実にステップを踏んでいっています。宮下公園でナイキさんと一緒にスケートボードやダンスの実証実験をやったり、ニューバランスさんと代々木公園でランニングイベントの実証実験をやったり。そういうなかで見えてくることももちろんあります。公共空間ならではの課題があったりもしますし、いい面でいうと渋谷区役所内に新しくできたスポーツ部とけっこううまく連携が図れるというのは良い気付きでした。

そういうなかでも個人的に大きな成果だったなと思うのが、代々木公園との連携についてでした。先述のニューバランスと一緒に取り組んだFKTというマイクロレースのプロジェクトは、去年のSOCIAL INNOVATION WEEKで1日だけ代々木公園でやらせてもらったのが契機になって、今年はゴールデンウィーク周辺1カ月間の実証実験を行なうことができました。代々木公園は、東京都の管轄の公園なんですね。だから渋谷にある公園だけど渋谷区としてあんまり闊達な接点がなかったんです。また代々木公園側も、公共空間に民活を入れて活性化させていくという世の中の流れもあり地域と連携したいという思いがあって。それで渋谷区との接点という意味でFDSがうまくハブとして機能できたんですよね。
それで3者で一緒にやっていきましょうというフレームができてきて、その流れで今回のバスケコートの改修と、もう少し使い方をデザインしていこうというのが、去年から現在までの大きな動きです。

長田 「Next Generations」もふくめ、FDSとしてスポーツの事業はこれまで4年間やってきて、いろんなところから「一緒にこういうことをやりたいです」ってお話が来るようになったのはとてもありがたいことだし、もともと自分たちが描いてた“ストリートスポーツ”という文脈だけでなく、さらにランニングやバスケなど、もうちょっと枠組みを広くした“アーバンスポーツ”としての活動にまで広がり、そこでもいろんなところから声をかけてもらって……というふうに、時間をかけてステップアップしているのはとてもいいことだと思っています。

今回のバスケコートの改修プロジェクトで、すごくいいなと思ってるのは——よく皆さん、そういうのって自治体が全部やってくれるものだと思うじゃないですか。でもこういう場所をみんなで一緒になってつくっていくことで、より愛着が生まれて、何かあったときには自分たちが支援するっていう継続的なつながりが強くなっていきますよね。そういう自分ゴト化するという意味で今回のクラファンはすごく意義がありますよね。

秋葉 そうですね。このコートは今でもバスケの聖地といわれているけど、でもただコートがあるだけじゃ聖地化されなかったと思っています。そこにコミュニティーがあったり、帰属意識が生まれたりとか、この場所を自治していくって話にならないと。

もう17年前になりますが、自分が手がけたプロジェクトでナイキさんからバスケのゴールを公園に寄贈してもらったことがありました。でもしばらくすると、とある公園ではゴールのボードはあるんだけどリングが外されていて。公園の管理者に理由を訊くと、ゴールを寄贈してもらって非常にありがたかったんだけど、若い人たちが公園に集まったらゴミや騒音の問題で地域からクレームが来ちゃって、やむなくリングを外しました、って。
だから、ただ場をつくって「はい、どうぞ」っていうだけだと、渋谷のハロウィンとかもそうかもしれないけど、<管理者>と<利用者>、あるいは<地域>と<来街者>みたいなかたちでバーサスになっていってしまうことがある。だからそこには帰属意識が大事なんですよね。自分にとって思い入れのある場所だったら——例えば昔お世話になったおじさんちの前でたばこポイ捨てするやつなんていないじゃないですか、きっと。それって良心の呵責の話なんで。その良心ってつまり帰属意識だよなと考えると、帰属意識が生まれれば自治が生まれるから、そのためにこのバスケコートに対する愛がある人をもっともっと増やしたいなと思って。その手段としてのクラウドファンディング、という一面もありますね。

あとは、単純にこの代々木公園のバスケコートを改修しますよって話だけだと、ここの利用者しかターゲットにならないけど、これが日本における公園バスケの最新事例で、全国の公園バスケのロールモデルになるといいなという面もあります。公園バスケが盛り上がる、イコール、日本のバスケがもっと強くなるんだっていう、代々木公園の利用者だけでなくいろんな人たちにも自分ゴト化してもらえるようなストーリーを含んでいます。

長田 でもそれってFDSのミッションのあり方そのものですよね。どんなプロジェクトでも、渋谷という場所でひとつ事例をつくって、それがロールモデルとなってほかの地域にどんどん広がる、っていう。まさに我々が目指すかたちの典型だと思います。

 

代々木公園バスケコートのこれから

長田 クラウドファンディングから帰属意識を醸成していくとすると、その先の進化形は、今WEB3時代の文脈で言われている「DAO(ダオ、分散型自律組織)」に近づいていくと思うんですよね。クラファンの次に、このプロジェクトがそこまで行けるといいなと思っています。みんながこれを継続的に支援して、みんなの意見が反映される部分がありながら、みんなで価値を高めていく。そういうのって、どうですか?

秋葉 すごくいいと思います。渋谷っぽいしね。

長田 そう。みんなで投票権を持って。

秋葉 やりたいです。そういうテクノロジーとかがちゃんと入ってきて、ロールモデルをつくっていくっていうのは、まさにFDSの真骨頂っていう感じだとも思います。

<管理者>と<利用者>っていうバーサスの関係じゃなくて管理する側と利用する側が会話しながら一緒にコミュニティーを盛り上げていくような事例を渋谷から、代々木公園から、つくっていきたいですね。

——クラウドファンディングは既に最初の目標金額は達成していますが、このコートが改修されて一番大きく変わることどんなことですか?

秋葉 わかりやすいところでいうと床面のデザインが大きく変わります。

——コートの利用方法なんかは変わらず?

秋葉 代々木公園のバスケコートは、これまでずっとピックアップゲーム(※コートに集まったプレイヤーたちが即席でチームをつくりゲームを行なうこと。ひとりでコートに行っても混じって参加することができる)の文化が根付いていて、それはそれですごくレベルの高いピックアップゲームが行われていて素晴らしいんです。ただコロナ禍において、屋内でプレイできない人とかいろんな人たちがバスケをやりにここへ来るようになると、彼らからは「特定の人たちがコートを専有している」みたいに見えてしまうんです。本当はそれは間違った捉え方で、ピックアップゲームだから「入れて!」って言えば誰でも入れるんだけど、それには少しハードルの高めなコミュニケーションが必要だし、プレイのレベルも高いから入りづらい人も多い。それで結果的に「専有してる」みたいな話になっちゃった部分があるんです。

でも僕らはこれまでのピックアップゲームの文化は、代々木らしい素晴らしいものだと思っているし、これからも残していきたい。幸い代々木のコートは2面あるから、もっといろんな人たちが気軽に使えるように、利用の仕方もデザインしていくというのは実証実験的にやりたいなと思っています。そこは民活で、例えば今ピックアップゲームをやってる人たちやアパレルブランドなどに子ども向けのスクールを開講してもらうとか、スポーツブランドを巻き込んでバスケのイベントを誘致するとか。片面は、毎日じゃないけどそういうコンテンツを入れていって、実験を重ねていけるといいなと思います。

長田 あとは、バスケだけじゃなくて例えばダンサーとかダブルダッチの人たちにも開かれた場になるといいですよね?

秋葉 そうですね。ここってバスケコートなんだけど、ニューヨークのラッカーパークとかみたいにB-BOYたちがいたりとかダブルダッチやってたりとか、いろいろやってるんですよね。だから彼らをもっと意識的に呼び込むような施策も、クラウドファンディングだったり企業のサポートを誘致しながら実現できそうな気がしています。

長田 たのしみですね!

 

 

事務局長対談シリーズ

中馬和彦さん – KDDI株式会社|メタバースに文化は根付くか? 時代を捉え変化し続けることの重要性

澤田伸さん – 渋谷区副区長CIO|「答え」より「問い」をつくり投げかけていく組織に

小澤真琴さん – ニューバランスジャパン|走る悦びも、女性特有の生きづらさも、地域や人との対話で共通のアジェンダに

Previous
渋谷区から出向し日々奮闘…私が携わる多種多様なプロジェクトたち
Next
飲む人も飲まない人も一緒に豊かに過ごせる文化を、渋谷から全国へ