自動車保険に基づくデータの活用で安全な渋谷を創る

渋谷データコンソーシアム

猪俣雄太さん/山田武史さん/朝隈善彦さん
(あいおいニッセイ同和損保)

産官学民のデータを掛け合わせ、渋谷区の社会課題解決のためのソリューション創出基盤を構築する「渋谷データコンソーシアム」。今回は、同コンソーシアムに参画し、また渋谷未来デザインの会員企業でもある、あいおいニッセイ同和損保の御三方に登場いただき、その活動に込めた思いやビジョンについてうかがいました。

安全安心な社会と経済的価値の双方を創出するデータ活用


——渋谷未来デザイン(以下、FDS)へ参画いただいた経緯についてあらためておしえてください。

猪俣 当社は2018年に、渋谷区が抱えている地域課題を官民連携で解決していくための「S-SAP協定」を区と締結しています。災害対策やスポーツ振興といったところでまちづくりへ貢献させていただいてきました。
そういった流れもあり、FDSが中心となって推進している渋谷データコンソーシアムへの参画とともに、FDSの正会員企業として加わったのが2021年です。
渋谷区がスマートシティやデジタルツインといった分野に力を入れているなかで、当社は自動車保険のデータを区や事業者様へ還元することであらたな価値創出に貢献できるのではないかと考えています。

あいおいニッセイ同和損保 猪俣さん

 

山田 具体的には、当社の商品でテレマティクス自動車保険というものがあります。これは、運転挙動データから、ドライバーの運転傾向や安全運転度合いを可視化することで、より安全に運転していただくというものです。ここで得られたデータをさらに活用し、お客様にとってより安全安心な社会をつくっていく取り組みを進めたいと考えています。現在、テレマティクス自動車保険は178万以上(2023年2月22日時点)のご契約者様に加入いただいており、データ量としてもビッグデータになってきています。もちろん適切にプライバシー保護をした上で、渋谷という場に集まった他社様のデータと掛け合わせることで、あらたに見えてくるものがあると思います。例えば、交通安全上、危険箇所として渋谷区が把握している情報と、当社が保有している運転挙動データから把握できる急ブレーキ多発地点などの情報を掛け合わせて、その精度を上げながら可視化していくようなことができるはずです。また、とても喜ばしいことに現在およそ20社の事業者様からもこの活動に賛同いただいており、これから皆様とご相談しながら新たな知見やデータを掛け合わせていくことで、さらなる価値創出を模索していこうとしているところです。

あいおいニッセイ同和損保 山田さん

 

——すこし意地悪な質問かもしれませんが、事故のない安全な社会をつくろうとする活動は、保険会社という立場からみてどんなメリットがあるのでしょうか?

朝隈 安全安心な社会をつくっていくことで、我々は保険金としてお支払いする額が減っていくというメリットはもちろんあります。
ただもうひとつ違う観点でいうと、データ活用によって安全安心な地域社会の実現に貢献する自動車保険であるということを打ち出すことで、契約者の皆様にも“世の中のためになる保険”を選んでいただける、いわばエシカル消費のような観点で保険を選んでいただけるという利点があります。そうしてご契約者様が増えることによってさらにデータが蓄積され、さらなる価値を地域に還元できるというサイクルを生み出すことが、我々の目指すCSV×DXの連鎖です。
地域の安全安心のためでもありながら、しっかりと経済的価値も見出していく、その両輪をまわしていくことが、我々のCSRにとどまらない、CSVとなっています。

あいおいニッセイ同和損保 朝隈さん

 

データで解決できる渋谷の課題をたしかに見定めるために


——これから未来に向けて、FDSへ期待していることはどんなことですか?

猪俣 ひとつは渋谷区をはじめ、関係各所の皆様、あるいは住民の方々の意見を吸い上げていただけることに期待しています。
我々が提供するデータの用途というところでいうと、まだ試行錯誤の段階です。十分に価値のあるデータ活用ができているかという点ではまだまだ自信がない部分もありますので、行政や住民の方などからご意見をいただきながらプロジェクトに生かしていくようなことができたらと思っています。

山田 今はまだ、どちらかというとデータがプレーンな素材としてある状態だと思いますので、これをどう料理するかというのがこれからのフェーズです。そこで幅広い可能性をむやみに追うかたちにならないように、解決すべき課題感をFDSや渋谷データコンソーシアムのなかで議論し設定していけるというのは非常に助かるところですし、とてもやりがいのある仕事だと思っています。

朝隈 私は、自治体でもない、民間企業でもないというFDSの立ち位置がとても魅力的だと思っています。自治体と民間だけだと乗り越えることが難しいハードルが出てくるような場面で間に入っていただけるからこそ、プロジェクトを推進していけるのだと感じています。
また、我々は地方創生も兼ねてデータの活用モデルを地方に展開していくケースは既に多々あるのですが、逆に都市部でのデータ活用には十分な知見があるとは言えません。そういう意味で渋谷区というフィールドで実証できるというのは非常に価値のあることだと感じます。

猪俣 我々のデータ活用に関しては、渋谷区も含めて他の自治体からも、非常に高く関心を寄せていただいています。我々は全国に455の自治体さんとの連携協定があり(2023年1月末時点)、それぞれの地域の営業部支店と各自治体との関係強化であったり、具体的な取り組みを展開しているところも多くありますが、この渋谷区との先進的な取り組みを、全国の営業部支店、自治体に対しても横展開していきたいと思っています。

 

文)天田 輔
写真)斎藤 優

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