人の肌から社会での“つながり”を考え、支える — 生活に根差したパーパス実現のための行政連携

事務局長対談

西田雅英さん(花王株式会社 ヘルス&ビューティケア事業部門 スキンケア事業部長)
長田新子(渋谷未来デザイン理事・事務局長)

渋谷未来デザインでは、スキンケアブランド『ビオレ』とともに、“清潔な肌を通じて多様な人々が社会とつながれる”取り組み「セイケツナガリ」をスタートしました。
生活者の“肌”から、ひとりひとりがより豊かにつながり合える社会の実現を考える、そんな先進的な取り組みの第一歩にあたり、ヘルス&ビューティケア事業部門 スキンケア事業部長を務める花王株式会社 西田さんにあらためてお話をうかがいました。

 

生活者の“肌”に寄り添い、暮らしや社会をより良く変えていける

 

長田 西田さんはこれまでどんな活動をされてきたんですか?

西田 花王に入社したのは93年で、今年で30年ずっと花王で働いてまいりました。当初は営業の部署でそれが結構長かったんですが、2007年にマーケティングに異動しまして、シャンプー・コンディショナーブランドのエッセンシャル、メリット、セグレタ、アジエンス…といったヘアケア商品担当を9年務めまして、その後、ベトナムのホーチミン、インドネシアのジャカルタに、合わせて7年駐在、そして今年東京へ戻って来て、ビオレの担当というかたちで今に至ります。

長田 花王には本当にたくさんのブランドがあるなかで、ビオレというブランドは花王にとってどういう存在になっているんですか?

西田 いま花王は「豊かな共生世界の実現」というパーパスを設けて、「未来のいのちを守る」というビジョンを掲げています。

そのなかでビオレの場合は、「肌は暮らしを支えるヒューマン・インターフェイス。肌を通して『人と人』『人と社会』のつながりを育む。」というブランドパーパスを掲げてきました。

ビオレは生活者のお肌を通して暮らしのなかでお役立ちをしていくブランドとして、拡張を続けています。花王を代表するブランドの1つですし、現在はよりグローバルにお役立ちできるブランドとして展開し始めています。
特徴的なものとしては、UVケアや、タイで販売しているあたらしい技術を活用した蚊よけローションがあります。従来の蚊よけの有効成分は、決して体や肌に良いとは言い切れません。そこで我々は、ケミカルな物質は使わずに、ローションを塗ることで蚊が肌にとどまることを出来なくし、刺されないというような発想の商品を開発しました。タイでは、虫刺されに起因するデング熱というのは大きな問題です。亡くなってしまう方も少なくありません。その意味で、肌を通して暮らしのお役立ちをしていくビオレブランドが、「未来のいのちを守る」という花王のビジョンを体現していくこともできると考えています。

 

清潔さを起点に、人や社会とのつながりを育む「セイケツナガリ」

■セイケツナガリとは

2023年11月、ビオレと渋谷未来デザインは共同で、“清潔な肌を通じて多様な人々が社会とつながれる”取り組み「セイケツナガリ」をスタート。
アフターコロナにおける渋谷区の社会課題に対して、セイケツ(清潔)を起点に、人と人、人と社会の「リアルなつながり」に溢れた未来を構想し、実現していきます。

<詳細> https://www.kao.com/jp/newsroom/news/release/2023/20231110-001/

第一弾の取り組みとして、23年11月、次世代の人材が、スポーツを通じて街をデザインするプロジェクト“Next Generations”が開催する「アーバンスポーツ体験会」をビオレがサポート。日やけや汗・ベタつきの不快感を気にせず太陽の下でスポーツを通じた「リアルなつながり」の瞬間を感じてもらえるよう、日やけ止めや汗拭きシートなどのビオレ商品を提供しました。

また同月「SOCIAL INNOVATION WEEK 2023」では、花王 西田さんが、渋谷を中心に活躍するストリートスポーツのフロントランナーらとともにトークセッションに登壇。「多様性の時代に、あらためて“リアルにつながる”喜びを加速させるイノベーション」をテーマに意見を交わしました。

 

長田 手や肌をきれいに洗浄するというだけじゃなくて、それによって人と人が触れ合える、清潔な肌が人と人をつなぐインターフェイスになる、という感覚は、やっぱりコロナを経てより明確に見えてきたものなんでしょうか。

西田 そうですね。関連商品はコロナ前から発売しているんですが、コロナによって一気に顕在化した部分はあると思います。

長田 もちろん今までも消費者の方とのいろんな接点があったと思いますが、今回は渋谷という“地域”と一緒に取り組みをしていこうと考えたのはどういう経緯だったんですか?

西田 消費者との一般的な接点でいうとたとえば商品のサンプリングなどは、従来から当然行なってきました。ただそういった施策は、商品を通じて社会や人とつながる、それによって皆さんの暮らしが豊かになる、といったようなことが上位概念にあるわけではなく、ただ消費者の方々に商品を使ってもらって購入につなげてもらう、というだけのものだったと思っています。

長田 いわゆる商品プロモーションといったかたちですよね。

西田 そうですね。しかし現在は、ビオレの商品が「『人と人』『人と社会』のつながりを育む」ことができる、ということを上位概念に据えて考えるように変わってきました。

たとえば、今年の夏はすごく暑かったですけど、特に高齢者の方などがクーラーをつけずに熱中症で体調を崩したり、亡くなったりというニュースも多くありました。そういうときにビオレの冷シートを使ってもらえたり、冷タオルを首に巻いてもらえたりすれば、体温を下げることができるわけです。
そしてそういった課題の場合、行政の方々も高い課題意識を持っておられるんですよね。

長田 なるほど、そういった面で行政の取り組みと付合する部分が出てくるわけですね。そんななかで、この渋谷を舞台に選んだのはどういった想いからだったんでしょうか?

西田 それはやっぱり、渋谷未来デザインが活動されているというのがひとつ大きな点だと思います。渋谷未来デザインと一緒に活動することで、ビオレのブランドパーパスが達成できるんじゃないかと考えました。

そして渋谷区はどういう場所かと考えると、やはり区内に住んでいる方だけじゃなく、老若男女、あるいは外国からの方もふくめて、いろんな人が集まってくる。ある意味でいろんな価値観が凝縮されたエリアで、多様なアプローチをもって生活者の方々とともに我々のブランドパーパスを達成していくことができると思っています。

長田 これまで行政と組むことってあまり無かったのですか?

西田 あまり無かったですが、行政と組むというのは、一般の企業と組むのとはまた違う良さがあると感じています。
行政に関わることというのは、基本的に皆さんの日々の生活に密接していますよね。我々も消費者の皆さんの生活のなかでお役立ちしていきたいという思いがあるなかで、行政と組むことには可能性を感じていますし、一方で行政の方も企業との取り組みを行なう姿勢が整い始めているという印象も受けます。

長田 企業と行政、両方が変わってきたのでしょうか?

西田 そういう気はします。昔は行政が企業と組むことは、あまり多くはなかったのではないかと思いますが、いまは増えてきているように思います。市民の生活をより豊かにするという上位概念のもとで、それを実現するために民間企業とコラボレートするという発想が強くなってきているのではないでしょうか。
そういう意味で、我々も変わってきているし、行政も変わってきていると感じています。

長田 確かに。ではこれから先の展望についてはどんなことを考えていますか?

西田 先日のSOCIAL INNOVATION WEEKもまさにそうですが、情報発信という面も渋谷の街に対して魅力を感じていることのひとつです。渋谷で取り組みを行なうことで、他のエリア、あるいは海外へも情報が拡散されていくことに期待しています。我々の活動を、まずは渋谷から広げていくことで、それがおのずと国内外へとつながっていくといいですね。

長田 そうですね。「セイケツナガリ」のプロジェクトも渋谷からどんどん広げていくために、まずは第一弾のスタートを切った、というところですね。

西田 はい、本当にこれからが本番で、今後も継続的に取り組みを行なっていきたいと思っています。

長田 我々もいま、コロナが終息したこともあり、渋谷に住む人・訪れる人と地域がもっと連携していくことの大事さを強く感じているところです。このタイミングで、生活者に密接したパーパスをビオレと一緒に体現していくということに、我々も大きな可能性を感じています。

西田 ありがとうございます。よろしくお願いします。

事務局長対談シリーズ

小澤広倫さん – まちの付加価値は、企業や行政だけでなく“みんな”でつくるもの

佐藤仁さん – 渋谷の街は変わり続ける、その未来のために今必要なこと

村瀨龍馬さん – オンラインの体験によって、オフラインの暮らしや心を豊かにする

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髙橋忠雄さん – 渋谷を“助け合いの聖地”に。楽しく笑顔で共に創る防災カルチャー

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井上琢磨さん – 公共空間を活用する魅力的な“前例”をつくり続ける

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秋葉直之さん – 株式会社ブーマー|帰属意識と自治を生む、バスケコートへの愛を集める/FDSとの理想的な共創とは?

中馬和彦さん – KDDI株式会社|メタバースに文化は根付くか? 時代を捉え変化し続けることの重要性

 

取材・文)天田 輔
写真)斎藤 優

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