すべての女性に心と体の健康を。最初の“気付き”を渋谷から

事務局長対談WWAs

小野美智代さん(公益財団法人ジョイセフ)
長田新子(渋谷未来デザイン)

女性のウェルネスのためのアクション、啓発を渋谷から発信していく「Women’s Wellness Action from Shibuya」。その中心メンバーのひとりである公益財団法人ジョイセフの小野さんを迎えて、同プロジェクトの実行委員長でもある渋谷未来デザイン事務局長・長田が、あらためてその発足の経緯から、活動に込められた思い、未来へのビジョンについて、お話を聞きました——

女性のウェルネスのためのアクション、まずは「気付く」ことから

 

長田 Women’s Wellness Action from Shibuyaの活動はもちろん私も一緒にやっているんですけど、あらためて小野さんから、立ち上げの経緯を語ってもらえますか?

小野 最初のきっかけは昨年の11月、「SOCIAL INNOVATION WEEK」ですよね。『Z世代のココロとカラダの性を考える』というトークセッションで、新子さんも含む6人でお話ししたのが最初です。それぞれ違う立場や領域の方々が集まって、それぞれが思うZ世代のココロとカラダに関する現在の社会の現状を共有しあったり、これからどうしていきたいかという話をしました。

 

SOCIAL INNOVATION WEEK 2021
『Z世代のココロとカラダの性を考える』

<SPEAKER>
染矢明日香|NPO法人ピルコン 理事長
小野美智代|国際協力NGOジョイセフ デザイン戦略室長
田中雅之|KARADA内科クリニック渋谷 院長
一柳 直宏|渋谷区議会議員 文教委員会委員長
神薗 麻智子|渋谷区議会議員 文教委員会副委員長
長田新子|SIWエクゼクティブプロデューサー

 

そこで、「ジェンダーの差についてみんなで理解しようよ」とか「もっと女性のウェルネスに対して私たち一人ひとりがアクションを起こしていこうよ」っていう話で盛り上がったんですよね。
そしてこれから、Z世代だけでなくもっと世代を超えて、ウェルネスに生きることの大切さを発信していこう、と。

そこから翌年3月の「国際女性デー」に向けて、このプロジェクトが立ち上がっていきました。この渋谷から、女性のウェルネスのためにアクションする、いわば発信基地のような。私たちがきっかけをつくって、ここから日本全国へ、世界へ発信していけるようなかたちをつくろう、ウェルネスアクションを増やしていこう、という趣旨でスタートしました。

長田 ジョイセフさんとしてはもともと、国際的なNGO団体ですし、海外に向けた支援活動をしているんだけど、やっぱり国内にもっと目を向けなきゃいけないということがあったじゃないですか。

小野 そうなんです。私たち国際協力のNGOの目で世界各国を比較してみると、実は日本って女性のウェルネスという視点ではまだまだいろんな問題があるということが分かるんです。
まずはグローバルで見た日本はどんな感じなのか知ってもらう。それによって気付くことがたくさんあるはずなんです。このプロジェクトでは、日本にはなんでないの?日本ってこんなに●●だったんだ、と、現在の日本の課題にまず「気づいてもらう」という情報発信をしています。

長田 このプロジェクトに参加しているのはそれぞれバラバラの仕事をしている人や団体だから、それぞれが感じている課題だったり、こういうことをやったほうがいいという共通意識をかたちづくってきたのが、立ち上げから今までの半年間だったのかなと思います。

非常に幅の広い問題なので、どこからどうやって取り組んでいくべきか、といったことを考えてきましたね。
でも逆にいうと、幅の広い問題だからこそ、ほとんどの企業や人に関心を持ってもらえる関わりしろがあるんですよ。でも具体的にはどうしたらいいか分からない、というのが現状なので、具体的なアクションのきっかけを我々がつくっていけたらいいなと思っています。

 

広がっていく仲間、渋谷から発信することの意義

 

長田 私自身は当初、SRHRという言葉もよく知りませんでした。

小野 SRHRって何? というのはよく言われます。S:セクシャル R:リプロダクティブ H:ヘルス R:ライツ の頭文字をとった言葉で、「性と生殖に関する健康と権利」と訳されます。このプロジェクトで私たちはSRHRの中でも12のテーマを設けて、情報発信・啓蒙活動をしていきます。SRHRという言葉が包括する範囲は非常に広くて、月経や避妊、妊娠や出産、DVや更年期障害とか、性感染症とか、産まない選択だったりと、私たちの体と心に密接した多様なテーマを含んでいます。
そうした事柄に対して、「本当に私はウェルネスな状態にあるのか?」と自問自答してもらうきっかけとなるような発信を、SNSや、対面のセミナー、イベントのブースでパネル展示や……みなさんに伝わりやすい方法を模索しながら活動していきたいと思っています。

長田 そうやって「伝える」というのが大事だし、同時に、我々と一緒になって伝えてくれる賛同者を増やすことも大事だと思っています。また活動していくための資金も必要ですから支援してくれる企業さんももっともっと増やしていきたい。そういう仲間づくりもいまとても重要ですよね。

小野 いろんな方がプロジェクトに関わって、「ウェルネス」をテーマに仲間が広がっていくというのは、分野の違う人たちがアクションのためにつながっていくということでもあるんですよね。

長田 そこが面白いですよね。
そうやって、我々が「渋谷」から発信していくということの意義については、どんなふうに考えていますか?

小野 私たち国際協力NGOからすると、渋谷って実は世界で注目されているまちなんですよ。「KAWAII」という言葉がいまや世界で共通語になっていますが、そのイメージとも繋がっています。渋谷って若者が集う場所という意味で象徴的なまちだと思いますが、若い世代に響くものはたとえば50代、60代、70代にも響くし流行るんですよね。まずは渋谷で女性のウェルネスに関する動きが起きて、その動きを発信することで、日本全国で「私たちもウェルネスなまちにしていこう」という連鎖が起き、日本だけでなく世界にも発信していけるんじゃないか、ムーブメントを起こせるんじゃないかなと考えています。
世界をウェルネスにしていきたい、というのが私たちジョイセフのビジョンでもあるので、それを渋谷からやっていけるというのはすごくワクワクします。

ワクワクする気持ちを大切に、男女問わず多様な人を巻き込んで

 

長田 これからもう少し長期的なビジョンでいうと、どんなことが挙げられますかね。

小野 今、フェムテック事業がいろんなかたちで世の中に増えてきていて、これをテーマにさまざまな企業や団体が連携するというのは大きな意義があると思っています。ただ、物理的につながるだけではなくて、私たちが掲げているのは“Wellness Action”なので、それが続いていくために、やっぱりみんながワクワクすることを大切にしていきたいです。真面目に勉強することも大事なんですけど、楽しくないとアクションは連鎖しないし、持続していかないですから。

それに、多様な人を巻き込んで連鎖していくというところで、渋谷未来デザインと一緒にやれるということにとても面白みを感じています。

長田 渋谷未来デザインが参画している意義としては、やっぱり産官学民を横断的につないでいって新しいイノベーションを起こす、という要素が強いと思うので、どこかの企業と単体でなにかをするというのじゃなくて、横のつながりのなかで何ができるのか、ということを考えて実践していくことが重要だと思っています。
またそれをモデルとして、多様な場、多様なつながりのなかでさまざまなかたちでロールアウトしていくというのを目指したいと思っています。
だからこれからもいろんな場に呼ばれて、メッセージを発信して、もっともっと知ってもらいたいですよね。

小野 多様性ということでいうと、我々のプロジェクトの名前はあえて「Women’s」としていますが、女性だけのための活動だとは考えていないですよね。女性という性がフォーカスされることによって初めて、セクシュアリティーやジェンダーがイメージされ、男性にも意識してもらえるということはあると思います。そこをすごく重視していますよね。

長田 よく「男性だから僕は関係ないです」とかって言う方もいるんですけど、家族や、まわりには女性がいるわけじゃないですか。たとえば奥さんに何かあったらどうするんですか、みたいな。すごく男性の意識の変化が大事なんですよね。

小野 これを自分事だと考える男性が増えてくれたら嬉しいです。

<まとめ> 誰一人取り残さず、誠実な活動をしていきたい

 

長田 …というわけで、こうしてお話しているとあっという間なんですが、有意義なお話ありがとうございました。
振り返るとやっぱり去年の「SOCIAL INNOVATION WEEK」でのトークセッションが、非常に学びが多かったんですよね。私も知らないことがたくさんあって、それから自分もいろんな情報を聞いて人に伝えたり、それを具体的なアクションにしていくということを、やっぱり私はしたいなと思っていて。
そんななか、ジョイセフさんのようなプロフェッショナルな方々と連携できて、そこに信頼関係が生まれて、さらに地域や企業なども巻き込みながら本当に新しいかたちのイノベーションが起こせる可能性があると思っています。まだまだ小さな団体ですけど、これをより良いかたちにしていくことは、渋谷未来デザインの立場としてだけでなく、個人的にもライフワークだと思っています。たぶん参加しているみんな、そうですよね?(笑)

小野 そうそう。実行委員のメンバーはみんなライフワークになってきてる(笑)

長田 そうじゃないと、たぶん続かないんですよ。そういう意味で本当にこういう出会いによって自分自身が変わったなと感じています。
また、だからこそ、たとえば企業さんから「こういうことをやりたい」という申し出をいただいても、全部受けているわけではないんですよね。「それはちょっと趣旨が違います」とお断りするようなこともあるんです。逆に、私はいいと思っている申し出があっても、プロジェクトチームのみんなから「それは違うんじゃない?」と言ってもらうこともある。
企業がお金を出したいと言っているのに断るって、すごく難しい判断になることが多いんですが、大事に守らなければいけないこともあって。

小野 そうですね、そこは常に真剣誠実に。嘘偽りなくやっていきたい。お断りするのって、もちろん辛いんですよ。ですけど方向性であったり、ちょっと多様性を欠いてしまったり、正しい情報ではない(誤解を生む)リスクがあったりすると、そういうお断りする判断も必要です。私たちは、女性が誰一人取り残されずにウェルネスな社会をつくりたいと思っているわけで、たとえばある一方の女性はウェルネスになるけどそのぶんこっちに悲しむ女性がいるかもしれない、という状態は避けたいんですよね。そこがクリアになっていないと、一方だけの味方はできませんということで、はっきり事由を説明して、イベントの協賛や連携協力をお断りすることもありますよね。

長田 正直に意見を言い合えるメンバーと一緒に、偏りがない活動をしていくことで、多くのみなさんに信頼してもらえる組織にしていきたいなと思っています。誠実に、少しずつ、目標に向かって進んでいきたいですね。

 

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