企業と若者で共に変える環境意識——イノベーションの一員になれるという実感を

環境

佐座槙苗さん(SWiTCH 代表理事)
金山淳吾(渋谷未来デザイン ジェネラルプロデューサー)

きたる12月15日、渋谷未来デザインの会員企業を中心に、環境問題に関心を寄せる企業の皆さんとともに渋谷からアクションを起こしていくための学びの場、「渋谷COPアカデミー」が開催されます。講師を務める一般社団法人SWiTCHの佐座槙苗さんに、渋谷未来デザインの金山がお話を聞きました。

 

自分にもなにかができる、それに気づくための学びかた

——まずはあらためて、佐座さんのこれまでの活動についておしえてください。

佐座 2019年にロンドン大学の大学院でサステナブル開発をスタートしたんですが、翌年からのコロナ禍を機に休学をし、日本へ帰国しました。ちょうどそのとき、気候変動会議「COP26」が1年延期になったところだったので、私を含めた8名の若者たちで「若者が 本当に求めている政策提言は何なのか」ということを議題に、模擬版のCOP「Mock COP」をオンラインで開催しました。そこでは世界140カ国から330名の若者が集まり政策提言をしましたが、なかでも一番賛同を得ていたのは、「気候変動教育」を世界中で義務付けるものでした。
そこで、なぜ今気候変動が起きていて、それをどうやって回避すればいいのかということを、学校できちんと教えられるような教育が世界中で広がっていくことを目指してロビー活動を行なってきました。COP26の会議ではイギリス政府、イタリア政府、UNESCO、UNICEF共同のもと、日本を含む20カ国以上に「気候変動教育の義務」に署名していただきました。日本においても環境に関連する官僚の方々や、ビジネス業界の方たちにお会いする機会をいただいたんですが、多くの方が「環境に取り組むことは一つのオプションでしかない」というスタンスで、それが本当にショックでした。世界ではこんなに気候変動に注目をしているのに、日本と海外の差がとても大きいということに気付いたんです。そこで日本の人たちに対して環境問題への認知と行動を促していくために、SWiTCHという社団法人を2022年1月に立ち上げました。

日本では、年齢層によってサステナブルへの理解のギャップがとても大きいのも問題です。10代〜20代の子たちは義務教育でESD教育を受けているので、<環境>と<社会>と<経済>がつながりあっているということが自然に理解できているんです。一方、年齢層の高い人たちは、環境に取り組むこと、ボランティアや社会貢献に取り組むことは「仕事」とは関係ないという意識があるようです。今の若者たちには環境にビジネスとして取り組みたいという気持ちがありますが 。そこが大きな価値観の違いであり、そのギャップを埋めていく活動が必要だと考えています。

金山 世界に目を向けると、どこが一番進んでいる印象がありますか?

佐座 やっぱり北欧ですね。EUでは2015年頃から循環型社会について学校で積極的に教えています。その子たちが今大人になったことが、EU諸国で実施されている政策のレベルが高くなってきて いる要因のひとつです。

金山 そういった教育は、どのくらいの世代の子たちからインストールされてるんでしょう? 小学校くらいから?

佐座 小学生の頃から学んでいて、体験を通して学ぶ機会も多いです。ですから、「自分たちが社会を変える1プレーヤーである」という認識がすごく強いんですね。例えば、授業で模擬投票をするんです。グリーン派の人に投票しよう、とか、もっと資本主義派の人たちに票を入れてみよう、とか、自分たちの投票によってどのように社会の構造が変化するかということを小学生の頃から体験として学んでいるので、その子たちが大人になったときには、自分が社会の一員として、国やコミュニティーを変えていけるということが理解できているんですね。
日本の場合、やはり社会の1プレーヤーとして自分にもなにかができる、ということを実感として感じ取れていない若者が多いと感じます。日本財団の2019年の18歳に向けた意識調査によると「自分で社会や国を変えられると思う」若者はたったの18.3%でした。アメリカは65.7%、イギリスは50.7%です。その差はおそらく教育の差でもあると思いますし、日本の若者は自己肯定感が低いといわれていることにもつながっていると思います。

 

企業と若者の環境意識、「本気の火」をつけるには

金山 ちなみに昨年の「COP26」(イギリス/グラスゴー)には現地で参加し、先日開催された「COP27」(エジプト/シャルム・エル・シェイク)では、エジプトと渋谷をつないだトークイベントを企画運営されましたよね? 日本の若者たちの現状をふまえると、世界の環境先進国の若者たちの考えや取り組みはどんなふうに見えますか?

佐座 ヨーロッパの若者たちは社会の一員として期待されているのがよくわかりますし、その期待に若者たちも応えています。それを渋谷からもスタートできたらいいですよね。

金山 渋谷がこれまで「若者のまち」と言われてきたのは、正確には、「若者がたくさん消費するまち」だったんですよね。それはマスプロダクトを消費する、まさに資本主義の日本最大の消費地のひとつだった。みんなで同じトレンドに向かって、大量生産された商品を大量に消費する——でも今は、買う物も場所も多様化して、ネットで済ませてしまう時代になりましたよね。
とはいえ、ラッキーなことに、渋谷の街に若者が集まるということ自体は、そこからレガシーとしてまだ残っていると思います。だから今は、理由は何でもいいから渋谷に来てほしくて、来たときに自然に社会的な意識が芽生えるようなきっかけがつくれたらと、個人的には思っているんです。つまり学びの場は学校だけじゃなくて、渋谷で遊んでいたり、イケてる人たちと話していたら、自然に環境に対する意識や、ダイバーシティ&インクルージョンに対する意識が芽生えるという。そういう「若者のまち」になったらいいんじゃないかなと思っていて。
そういう意味において、渋谷COPはすごくいいプロジェクトで、意識ある人を渋谷に「集める」だけじゃなくて、渋谷にいる人たちに「意識を持ってもらう」仕組みとして続いていったらいいなと思っています。

佐座 本当にそうですね。そう考えるなかで、今の渋谷に足りてないのは、体験する場所だと感じています。これまでのように買い物をしたりということは今もできるけれど、そこからアップデートすることが必要です。渋谷に来たら社会的にグッドな活動を体験できる場所がないことが、すごくもったいないと思っています。

金山 理想をいうと、例えば渋谷駅周辺半径200メートルの商業施設の6割の店舗はサステナブル指数がいくつ以上、という取り決めをデベロッパーと自治体がして、それを達成するのであれば容積緩和しますよ、高いビルを建てていいですよ、みたいなことになると大きく変わっていくと思うんですよね。
渋谷は大きな消費地だからこそ、様々な経済活動のクライメートトレーサビリティみたいなものを定量化して数値化してみるときっと面白い。消費の場が変わると、そこに来る人たちの価値観が変わって、渋谷に集まる若者たちのシェアで輪が広がっていくでしょうし、そういうカルチャーがインストールされれば、商業施設の側は売れる物を売りたいわけだから、渋谷での買い物体験はサステナブルに転じていきますよね。

佐座 そうなることがたのしみです。

金山 あと緑化というところでいうと、よくまちづくりではエリアマネジメントとかタウンマネジメントっていうんだけど、デベロッパーが都市開発するときに、自分たちのビルの利益やメリットだけを考えないで、まち全体の中で自分たちはどういうポジションなのかということを考えようという仕組みがあるわけです。だからそれに加えて、いわばグリーンエリアマネジメントみたいなものも一緒に走らせられるといいですね。それは若い世代を中心に渋谷COPがデザインして、デベロッパーと自治体と、渋谷未来デザインみたいな組織と、企業との共創型で。

佐座 いいですね。そうやって一緒にパートナーシップを組むというかたちで、若者たちに期待してくれる人たちがいてくれることが必要だと思っています。
多くの若者たちは環境意識が高いものの、まだ本気で捉えていないという部分もあると思うんです。だから、本気の火をつけるためには「参加型」にしないといけない。自分たちにもなにかできると思える場所がなければ、若者たちは社会にも、自分自身にも期待できなくなってしまいます。若者たちがより良い社会の形成に参加でき、自身のキャパシティをビルドアップしていくことで可能性が広がると思います。

 

環境について渋谷の未来から考える勉強会「渋谷COPアカデミー」

佐座 若者に期待をする企業は増えていると思いますが、実際に具体的なプロジェクトにまで漕ぎ着けるかというと、マネタイズしづらいということを理由に断念してしまうことが多いようです。

金山 でもそういった企業が若者に期待をしているのは、どんなところなんでしょう。

佐座 ひとつは、自分たちが考えられないような手法を生み出してくれる、ということ。自分たちには解決できないことを彼らなら解決してくれるんじゃないかという期待ですね。若者たちへの期待をきちんとかたちにしていくためにはどうすればいいのか、本気でそこに向き合って一緒に歩んでくれる大人が必要なんです。まだ社会・経済・環境をバランスして、ビジネスをする企業は少ないです。そのギャップを埋めていかないといけないと思っています。

——12月15日には、渋谷未来デザインの会員企業などを招いての勉強会「渋谷COPアカデミー」を催しますね。そこで企業の皆さんに考えてほしいことはどんなことですか?

佐座 渋谷区に拠点を持つ企業と街全体が世界のグリーンなモデルとなるように転換していくことが、私たち若者が見たい景色です。それをどうやってイノベーティブにプロジェクトとして実装して、渋谷のまちを変えていくのか——企業と若者が一緒に考え、アクションにつなげるための場が、今回の勉強会だと思っています。世界の潮流やサステナブルの好事例を多様に紹介しながら、渋谷をもっとグリーン化していきたいと思っているので、渋谷を一緒に変えたい気持ちのある企業に参加してもらいたいと思っています。

金山 どこどこの企業はこんなのプロジェクトをスタートしました、というような小さな単位ではなくて、都市単位で大きなビジョンを、そこに集まる人たちで描けたらいいですよね。「勉強」というと、学ぶだけでアウトプットにならないから、勉強をしてさらにアウトプットまで目指してほしいと思います。ただ、それが現実的なかたちになるかならないかというのはまだ先の話でよくて、どれくらい理想的なエコシステムをモデリングできるか——というところでこの勉強会の価値が決まってくるんじゃないかなと思います。

佐座  今の渋谷よりも未来の渋谷のことを一緒に考えて、このまちが本当にグリーンになったときにどういうシステムをつくっていけるのか、という大きなビジョンを描ける人たちに、ぜひ参加してもらえたらと期待しています。

 

「渋谷COPアカデミー」
2022年12月15日 @オフライン会場&オンライン配信
(アーカイブ配信予定あり/今後も複数回開催予定)
詳細は CONTACT よりお問い合わせください

 

文)天田 輔
写真)斎藤 優

Previous
まだない未来をつくるだけでなく、何を未来に残すかも大切
Next
渋谷に100年寄り添ってきた“地域金融機関”の社会貢献