渋谷未来デザインにインターンとして参加している学生のみなさんが、興味を持ったプロジェクトに関してインタビュー取材を行なうシリーズ。今回は、若者を中心にサステナブルな社会の実現を目指し活動する一般社団法人SWiTCHの代表・佐座さんにお話をうかがいました—
※以降本文の記事制作はインターン学生本人が行ないました
髙木 まずはあらためてSWiTCHさんの活動内容についておしえてください。
佐座 活動内容は多岐に渡りますが、ひとつは、サステナビリティのフロントランナー企業のCEOを招いて若者との対話の機会をつくっています。サステナビリティに関する施策を会社の中で実装していく方法や、必要なマインドセットをとおしてサステナブルを自分ごと化するセッションです。
また、国連環境計画が3年がかりで制作した「GEO-6 for Youth」という18~25歳の人たち向けに作られた教材の日本版の制作を進めています。世界標準のサステナブル知識をみなさんに持ってもらいたいので、これを日本の人口の3.5%=440万人使ってもらうべく「チャレンジ1.5℃」というキャンペーンも実施しています。
渋谷未来デザインの中では、渋谷を環境に配慮した世界一のサステナ都市にすることを目指し「CNUD(カーボンニュートラルアーバンデザイン)」というコンソーシアムを立ち上げ、活動をスタートしています。
どうすれば地球1つで私たちが生きていけるのか、そのための新しい暮らし方や仕事のあり方のモデルケースをいま作っているというのが私たちの基本姿勢です。年齢や立場、業界に関係なく多様な人たちが産官学民で連携していることが、私たちの強みかなと思っています。
髙木 なるほど。若者に向けた活動を主にやっているのかなと思っていたんですが、そうとも限らないんですね。
佐座 もちろん活動の中心には若者がいます。やっぱり気候変動のいちばんのインパクトを受けるのはこれからの若者世代なので。私たち若者の、こういう未来があってほしい、じゃあそれをつくっていくためにはどうすればいいのか、という対話からプロジェクトが生まれていくケースが多いです。
その中で大切なのは、若者が何を考えているのかということ を、社会に対してきちんと共有することです。
若い人たちだけでは乗り越えられない壁が多いので、私たちの活動は若者中心ではありながら、それを応援したい大人世代の層も分厚いですね。
髙木 佐座さんご自身は、学生時代はイギリスの大学院に通っていたということですが、世界と比較して、日本の人たちの環境に関する意識の違いというのは感じますか?
佐座 いい質問ですね。たとえばイギリスやカナダではマイボトルを持つことや、なるべく公共交通を使うことも普通だし、プラスチックを日本ほど使わないなど環境意識が高いですね。食べることについても、ベジタリアンやビーガン、あるいはペスカタリアンという魚だけしか食べないという人たちもすごく多いです。そういうことが市民のあいだで普通になっているので、お店の側もそれを意識して、どうすればもっと多様なサステナブルな商品が作れるのかということをブランディングの中に組み込んで考えています。日本ではまだそこまでは環境意識が普及していないというのが現状ですよね。
髙木 そうですよね。日本ではまだあまり環境への問題意識が広まってない理由をどのように考えていますか。
佐座 それは“消費者としての責任”の認知度が低いというのがひとつかなと思います。例えばスーパーに行ってフルーツを買うと店舗のスタッフの方はフルーツをビニール袋に入れて、さらにプラの袋に入れるんです。消費者として、なぜそれが必要なのかを店舗に問うことはできるはずです。欧米と比べて日本では環境に悪くてもそれを続けられる状況を消費者が与えてしまっているように思います。
たとえば友達のあいだでプラをすごく使う人がいたら「それおかしいんじゃない?」と言ったり、「自然にやさしい素材を使ったらいいんじゃない?」と提案をしたら、「そっちの方が確かにいいよね」と思ってくれると思う。毎日のコミュニケーションの中にそういったことを意識して入れることは、環境問題に関心のある人の責任かなと思います。
髙木 興味を持っている人から周りに勧めていくということですね。
ただ私は環境問題に自分が興味を持ちはじめたときに、最初に何をやっていいかが分からなかったんです。自分も何かやりたいけどどうしよう、と思ってしまって。マナさんだったら自分の周りの人が初めて環境問題に興味を持ったとき、最初にどんなことを勧めますか?
佐座 まずは自分がどのぐらいエネルギーを使ってしまっているのかを知ることからスタートするのがいいと思います。『じぶんごとプラネット』というアプリがあるんですけど、それを使って自分がどれだけ環境に負担をかけてしまっているのかを認識するところから1歩目を踏み出せるじゃないかな。
マイバックとかマイボトルを持ち歩くことはもちろん良いことなんですけど、個人が出しているCO2の量から考えるとインパクトは結構小さいんです。それだったら家の電力を再生可能エネルギーに切り替える方がもっと大きなインパクトになる。大きいインパクトをどうやって作れるのかを優先して、生活を変えるといいと思います。
髙木 まず知ることが1番ですか。
佐座 そうですね。ただ環境に“良さそうなこと”をやっているだけだと、それは「グリーンウォッシング」と言って、“やってるふり”にとどまってしまいます。せっかく変わるなら、良いインパクトを作る方が実感も全然違うと思います。
髙木 環境問題って、自分が起こす行動ひとつひとつのインパクトは小さくて、努力していることの成果がなかなか見えづらい分野だと思うんです。その中でマナさんがずっと環境問題に取り組み続けられているモチベーションは、どうやって保っているんでしょうか?
佐座 そのためには指標を持つことが大事です。たとえば自分が排出しているCO2を見える化して、それを削減していくことをアプリ上でいつも確認したり。
私が環境アクションを推進してきた個人的な理由としては、日本人が暮らし方や働き方を変えることで、海外にプラスのインパクトで貢献できるところをを見たい、という気持ちがあります。ソロモン諸島とか南アフリカ出身の友人がいるのですが、彼らの生活はもう既に気候変動の影響を大きく受けていて、干ばつや海面上昇で大変な思いをしているんです。日本はCO2排出量が世界5位なので、それだけのインパクトを海外に与えてしまいますが、裏を返せば、大きな貢献もできるということだと思います。
髙木 自分の身近な人がそういう経験をしていて、そのことを知ってるからこそ自分も頑張ろうということですか。
佐座 そうです。多くの日本人にとって気候変動って身近に感じにくいかもしれませんが、農業だったり自然と近い距離で仕事をしたり 暮らしたりしている人たちはインパクトをはっきり感じ取っています。でも、ほとんどの日本人は都市に住んでいて、自然からとても離れてしまっていますよね。都市の中でもどんな気候変動があって、自分たちがどう変わらないといけないのかを考えて欲しいですし、自分たちの消費が変わることで、実は大きいインパクトを作れるということを知って欲しい。
それはすごく難しいけどやらなきゃいけない、じゃあ渋谷から変えたいという思いから、私たちも渋谷未来デザインさんと連携をさせてもらっています。渋谷は、世界中の人たちが知っている街。それに、若い人たちの街という側面もあります。渋谷から世界に対してもっと環境についての発信ができると、それだけのインパクトが国際的にも国内にもあると考えています。
髙木 では最後に渋谷をはじめとする都市部にいる若者に向けてメッセージをもらえますか。
佐座 都市部の若い人たちにやって欲しいのは、1つは自分の生活の環境へのインパクトを知ること。
2つ目は、気候危機という単語を知って科学者の声を聞くこと。科学者たちは待ったなしで、全ての人たちが気候変動対策に取り組まなければいけないと声をあげています。実は本当に短い時間しか残されていないから、警鐘を鳴らしている声に耳を傾けること。3つ目は、一緒に取り組む仲間をつくること。ただ自分が気候変動について知るだけではなく、「今気候変動やばいんだよ」ということを知ったら、それを隣の人に伝える。そうやって一緒に考えることが大切です。
4つ目は、自治体や企業、あるいは政治に対して、自分の意見が反映されるように努力すること。就職活動で企業を訪問したら「あなたの会社はサステナブルをやってますか」「どういうプランでやっていますか」「やっていないならどう変えていきますか」ということをきちんと問うことです。
5つ目は、ネットワークを広げていくこと。社会に対して一度問うだけではなく、それを本当に実践して仲間を増やしていく。
最初は知ることから。仲間をつくって楽しく広げていければ続けられますね。
髙木 楽しくやれるようになったら、大きく広まりますよね。
佐座 そう。そういうポイントにおいて、若い人たちは柔軟で、みんなで一緒に何ができるのかを考え、一緒に走ってくれる仲間をつくっていくことが大切だと思います。
髙木 私も仲間をつくって楽しく活動できるように頑張ります。ありがとうございました。