企業と街と生活者、みんなで喜べる“本気の”社会貢献

FDS会員企業紹介
友澤大輔さん(イーデザイン損害保険 CMO)

DX型の先進的な自動車保険「&e(アンディー)」や、健康でエコな移動を促進するマイレージアプリ「ノルク」といったユニークな商品やサービスをリリースしたイーデザイン損保。同CMOの友澤さんは、これまでのキャリアのなかで数社を渡り歩きながら、それぞれで渋谷未来デザインとの取り組みを行なってきました。
そんな友澤さんが今取り組むプロジェクトのお話から、彼が考える「ソーシャルグッド」とはどんなものなのか、その思いをうかがいました。

 

 

本当の意味での「ソーシャルグッド」とは?

 

——友澤さんのこれまでのキャリアを振り返ると、比較的多くの企業を渡り歩いていらっしゃいますよね。直近のところではヤフージャパン、パーソルホールディングス、そして現在のイーデザイン損保と、一見バラバラの業種のようにも見えるのですが。

そうですね。でも私にとっては共通項があって、ヤフーはいわば、ニュースのインフラ化をしている、パーソルも人材を社会インフラとして働き方をつくっていく側面がある。いまいるイーデザイン損保、東京海上HDというのはもちろん保険の会社なんですけど、ある種、安心や保証といったものも社会インフラなので、この3社って私の中では「どのようにして社会と共創していくのか」という自分にとっての大きなテーマを追求できる場所なんです。

本当の意味で社会と共創していったり、お客さまや生活者の皆さんと本気で共に何かを創ろうと思うと、やっぱり自治体の協力が必要になることが多くて、この3社にいる中で渋谷未来デザイン(以下、FDS)とも協働させてもらっています。

 

 

——その三社に在籍していた時代には、例えばどんな取り組みを行なってこられたんですか?

ヤフーのときには、まずひとつは、カンヌ国際広告祭で銀賞を受賞したんですけど、「さわれる検索」というのをつくりました。目の不自由な方のために、検索結果を3Dプリンターを使って手で触れるようにするというもの。あとは、東日本大震災のときにYahoo!Japanで検索するという行為が募金に変わる取り組みとか、銀座のソニービルの外壁に東北の津波到達地点の高さを示したり、などです。そういった防災に関する取り組みのなかで、FDSとの関わりでいうと、自分の防災知識を試して学べる「ヤフー防災模試」というのを実施したときに、やはり自治体と一緒に広めていきたいということで、2018年のSOCIAL INNOVATION WEEKでコンテンツ化していきました。

 

スマホで挑戦できる「全国統一防災模試」。SIW2018では長谷部渋谷区長とタレントのryuchellさんがトライ

 

パーソルホールディングスでは、そこまで深くはなかったんですけれども、様々な働き方を世の中に対して適切に正しく伝えていくにあたって自治体とも連携させていただく取り組みを行ないました。
イーデザイン損保では、我々は「事故のない世界をつくっていく」ということを会社のミッションとして掲げていて、そのためのデータ連携の面で今まさに、渋谷区の「シティダッシュボード」の取り組みに参画させてもらっています。

——企業をまたいで一貫してソーシャルグッドな取り組みを続けていらっしゃいますよね。

私はこれまで、お客さまにどうやって購買行動をしてもらうかっていうのを、ダイレクトメールやデジタル広告、ポイントサービスなどを通してゴリゴリとやってきました。でもそういうことだけだと、いずれ自分たちのサービスがお客さまから軽く見られてしまったり、結果的には競合他社が商品を安くすれば簡単にそちらにお客さまがなびいていってしまう。他社と比較して自社サービスを差別化しているつもりが、実は逆に同質化するような市場を自らつくってしまっていたんですね。
そうした反省の中で気づいたのは、やっぱりお客さまにきちんと愛されないといけないということ。だからお客さまにとって本当にいいことって何なんだろうかと考えたんです。そうすると、いいCMを流すことではなくて、身近な社会との関わり合いをもっと良くして、お客さまが「この会社は本当にいいことをしてくれたな」って本音で思ってくれないと、本当のファンにはなってもらえない。やっぱり思いっきりソーシャルグッドな企業活動を本気でやらないと、本当の意味でお客さまに愛されないんだって思ったんです。

——CSR的なアピールとしてただ「ソーシャルグッドな施策に取り組んでいます」と言うだけではなく。

「ソーシャルグッドなんです」って言うのは誰でも言えるじゃないですか。でも「ソーシャル」ですから、企業も、自治体やそこに暮らしている生活者の方々も、みんなにとってグッドでないと、本当の意味でソーシャルグッドじゃないと思うんですよね。

 

 

自動車保険が、世の中の交通事故をなくす?

 

——そんななか、今友澤さんが取り組まれているものとして、まず「&e(アンディー)」というものがありますね。

「&e(アンディー)」は、3cm×3cmくらいの小さいセンサーをお渡しする、いわゆるDX型の新しいスタイルの自動車保険です。この小さいセンサーを車のダッシュボードにつけておくと、ブレーキや方向転換といった車の挙動データをセンサーが収集して、そのデータによって、スマホのアプリで自分の運転の傾向や安全の度合いをスコアで見られたり、いい運転をするとポイントが貯まってコーヒーなどの商品と交換できたりします。
また、もちろん事故にあわれた際の機能も優れています。センサーが事故を自動検知してスマホで1タップで事故連絡ができたり、センサーが衝撃の前後数秒間の状況を自動で記録しているので、事故担当者がそれを把握して、事故時のお客さまの不安を軽減するとともに、スピーディーな事故解決に役立てたりもします。

 

——DXによって事故時の利便性が向上しました。それに加えて今回注目したいのは、普段の暮らしにおいてお客さまひとり一人が楽しく安全運転を意識できる、結果、より安全な社会を皆でつくっていくことができる、という視点があることです。

さらに言うと、こういうデータを例えば自治体と連携させていただくことで、そもそも事故が起きやすいような場所を改善していくといったこともできるはずです。そうすれば交通事故はもっと減っていくので、社会がより良い方向に向かっていくのかなと思っています。

——でも、いじわるな質問かもしれませんが、本当に世の中から事故がなくなってしまったら、保険会社としては利益が減ってしまうということはありませんか?

事故にあわれた方々に適切に対応するっていうのは保険会社としての当たり前のサービスで、その上で、「事故のない世界を実現する」というのが我々のパーパスです。「&e」のような取り組みが世の中に広まれば、不慮の事故に見舞われてしまう人自体を減らせるかもしれません。そういう社会になっていけばいくほど、「&e」っていいよね、とか、「&e」に入っていたほうが安心安全だよねということになるのかなと。

「なにかあったときのために保険に入っておこう」というのが、従来の保険に加入する理由だったと思うんですけど、でも生活者の皆さんの本音は「そもそも事故にあいたくない」ということなのだから、そこに本気で向き合うサービスを提供すべきだと考えています。
表層的に捉えると、たしかに事故のない社会になれば、いわゆる従来型の自動車保険は要らなくなるとも言えるかもしれませんが、でも本気で事故をなくしていったほうが、結果的にイーデザイン損保のファンや「&e」の理念に賛同してくださる方々が増え、つまりご契約者さまが増えるので、ビジネスとしては成立すると思います。

——保険会社としてお客さまと関わるのは、従来なら事故にあったときがほとんど全てだけだったわけですが、「&e」ではお客さまとのタッチポイントが普段の暮らしのなかへと移行してきていますね。そのあたりの発想がそもそもこれまでの保険と違います。

そうですね。保険って本来はなにか新しい挑戦をするときにリスクがあるから入るものです。新しい事業を立ち上げるときに失敗が怖いので保険に入っておこうとか、リスクを避けるために保険料を払っておこうというのが保険の本質なんですけど、でも自動車に関しては、保険はどんどんそういう存在ではなくなりつつあると思うんです。多くの自動車保険会社は、DXによって、より保険料を安くするという方向へ進んでいると思います。でも我々は、テクノロジーによって事故をなくしていくことで、お客さまにとってハッピーな体験をしてもらって、そうすることで我々のサービスを解約したいと思う動機を減らすというアプローチ、と考えるとわかりやすいかもしれません。

——まさに、関わるみんなに利益のある「ソーシャルグッド」な取り組みになっているわけですね。

 

 

データを活用して目指す、社会貢献とビジネスの両立

 

——もうひとつ、「ノルク」というサービスもローンチしましたね。ここにも「ソーシャルグッド」の視点が。

これはご契約者さまでなくても使えるスマホアプリなんですが、歩いたのか、自動車を運転したのか、バスに乗ったのか、などの移動手段を自動的に判別して、その移動手段がより健康でエコであるほど、より多くのポイントが貯まるというものです。貯まったポイントでいろんなアイテムがもらえたりサービスが受けられたり、ポイントを使って寄付をすることもできます。

——またいじわるなことを聞きますけど、そんな「ノルク」を運用することで、イーデザイン損保さんには何のメリットがあるんですか?

やっぱりパーパスを実現することが、我々の本気のブランディングになるというのがまずひとつあります。イーデザイン損保に好意を持ってもらったり、「なんか面白いことやってるな」っていう本気感が伝わらないと、いくらTVCMで「我々のサービスは新しいんです」って言っても心に届かないと思うんですね。

街で暮らす人たちの移動手段って車だけではないですよね。車移動ではない、且つ、我々のご契約者さまではない方々の交通安全も考えていくことで、結果的には事故のない世界に向かっていくんじゃないかということで、ブランディングという意味において「ノルク」というサービスをご提供しているというのがひとつ。

もうひとつは、今の世の中って、車だけしか乗らないっていう人も少ないんですよね。同様にバスだけしか乗らないという人もいないし、歩くだけですっていう人もいない。つまり移動手段に多様性があるわけで、それ全体を我々がちゃんとカバーすることによって、例えば「車を買いたいな」と思った人には我々の保険がどこよりも素早く、適切にご案内することができるかもしれない。そういう意味で幅広くいろんな方々との接点を持つためのマーケティング装置としての狙いがあります。

もちろんこれは結構、壮大な実験なんですけどね。プライバシーをしっかり守った上で、本当にそういうデータを取って有効に活用できるのか、生活者の皆さんは本当にそれを良しと思ってくれるのかというのを、それこそ渋谷区さんやニューバランスさんと一緒に取り組ませていただいた代々木公園でのプロギングのようなイベントや社会貢献活動を通して、実証実験を重ねていこうというところです。それをたくさん積み重ねて、本当の意味でいいデータになり得るのか、それ自体が社会にとっても、ビジネスの面でも、いい形になり得るのかというのを確かめていこうとしています。

 

 

大企業ならではの社会貢献のしかた

 

——やはり本気で社会貢献に取り組んで、且つ、きちんとビジネスとしても成功するという両輪が必要ですね。

企業の社会貢献ということでいうと、スタートアップの皆さんが取り組む自治体連携みたいなものって、スタートアップならではの先進性や先導力で規制を壊してより良くしていくというようなかたちになっていくものだと思います。私の場合はこれまでも、大企業で自治体とやっていくというかたちだったので、スタートアップの皆さんと同じことをやっていても全然社会は変えられないんです。やっぱり大企業だからこそ、我々が持っている安心感だったり、目先にこだわらない中期的な考え方だったり、実行力みたいな強みをもって取り組んでいかないといけないと思うんですよね。

スタートアップは規制を変えていくことが自分たちのビジネスにも直接的につながるから結構ストレートに行くじゃないですか。我々の場合は、自治体が変わって社会インフラが変わるから、我々のビジネスが明日すぐ伸びるというわけではない。けれど、事故のない社会を実現することのように、民間だけではどうしようもできないような大きなことを、自治体とつながりながら時間をかけて取り組んでいくことが大切だと思っています。

たとえばFDSと協働することで、じゃあ「&e」の契約者が20%増加しますとか、そんなことはあまり期待していなくて。そういう活動から本当にちょっとでも社会インフラが変わっていって、中期的なソーシャルグッドを見据えたときに「あの取り組みが、ここで活きたんだ」って後に振り返って語れるようなものになると、そのとき初めて本当の意味でブランディングになると思うんですよね。そんな取り組みを、これからも民間と行政で一緒になって行なっていけたらいいなと思っています。

 

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