笹塚〜幡ヶ谷〜初台駅周辺エリアをより魅力的なまちにしていく「ササハタハツまちラボ(※)」の活動の一環として、玉川上水旧水路緑道を舞台に「農」をテーマにしたマルシェ『388FARMβ(ササハタハツ ファーム ベータ)』が開催されました。地域の方々を巻き込みながら一緒に魅力的な公共空間をつくっていくための、この実験的な取り組みについて、渋谷区の公園等整備アドバイザー兼エリアマネジメントコーディネーターであるcommons funの林さんと、渋谷区まちづくり推進部まちづくり第一課の真柴裕哉さんにお話をうかがいました。
※ササハタハツまちラボ:笹塚〜幡ヶ谷〜初台駅周辺エリアを、地域に関わるあらゆる人々にとって魅力的なまちにしていくための組織。2020年に渋谷区、京王電鉄、渋谷未来デザインが共同で設立。sasahatahatsu.jp
地域に根差して、人とつながり、つくる緑道
——将来の再整備に向かって、今からここ(玉川上水旧水路緑道)がどんな緑道になっていってほしいですか?
林 ただ緑道がきれいになるのではなく、コミュニティを育む場所、地域のみなさんが自分らしく居られる場所、すなわち「地域に愛され世界に誇る緑道」になるといいなと思っています。
渋谷の街はいま再開発が進んでますが、それがひと通り終わったあとに出てくる課題は、オープンスペース、パブリックスペースといったところをもっと有意義に活用していくことだと思います。
本当にそうした場が面白くなるには、管理をしている区だけでがんばっていても不十分で、地域の人が混ざりながら、みんなにとっての居場所をつくっていくことが大事だと考えています。
——大規模な再開発の派手さとは対象的な、草の根的な活動がこれからもっと必要になってくるということですね。
林 この緑道の取り組みも地域に根ざして活動しているので、続けるにつれて、取り組みに関わってくれる方がどんどん増えていっています。
もし民間の敷地の再開発だったら、その敷地の限られた関係者たちの意思だけで事が進められますが、こういうパブリックスペースの場合は、周りに地域の方がいて、お店があって、学校があって…、そういうところのみなさんと一緒にやっていく必要があります。
そこをうまく調整していく存在として、区役所の職員とか、地域のコーディネート組織である「ササハタハツまちラボ」の役割が重要だと思っています。
ワークショップ、マルシェ、雑談会やお茶会まで
“ハードルの低い” コミュニティづくり
——今日のマルシェはとても賑わってますね。
林 この「388 FARMβ」は、気軽にいろんな人が参加できる場を定期的につくって、緑道の新しい文化をみんなでつくっていこうという取り組みです。だからこれは地域のお祭りじゃなくて、未来の緑道の過ごし方をみんなで実証実験してるようなイメージです。
——今回は2回目の開催ということで、なにか変化は見えてきていますか?
真柴 昨年11月の第1回目は、一部のメンバーで企画・出店して開催したんですが、それをもっと地域に開いていこうということで、今回は公募で出店を受け付けました。10枠を公募したところ14件の応募があり、結局全てのみなさんに出店いただきました。
そのように、まちづくりや公共空間の活用に関わりたいとか、まちのために何かをしたいっていう人たちが実はすごくたくさんいるんだということを日々実感しています。そういう人たちが活動できる場所をこれからも創出してまちを盛り上げていきたいですし、それを将来的に新しく整備された緑道でも実現できるように、今のうちからいろいろなことをやってみようというのが今回の趣旨です。
——地域の皆さんに、自分もまちづくり、緑道づくりに参加できるという意識を持ってもらえる場ですね。
真柴 自分たちの庭みたいに思ってもらえるような公共空間になるのが理想ですね。
林 これまでも「ササハタハツ会議」というワークショップなど、地元の方たちの声を聞く場は定期的につくってきているんですが、中にはそういう場には参加しづらいという人も結構多いんですよね。でも今日みたいなマルシェだったらそういう方々にも喜んで参加してもらえています。
真柴 しかも、体育館や公民館のような屋内スペースでやるのと、こういう屋外で開かれた場所で誰でもアクセスできる状態でやるのとでは全然違うんですよね。通りがかりの人にも「何やってるんだろう?」とか「緑道どうなるんだろう?」と気軽に関わってもらえる良い機会になるので。
林 これが一回きりのお祭りのようなイベントだったら、一日だけ頑張って盛り上げ、次の日には何もなかったような緑道に戻るわけじゃないですか。そうじゃなくて、この「388 FARMβ」は未来の緑道に繋げていくための実験。終わった後に地元の方々の声をしっかりフィードバックしてもらいます。
また、地域の方々との関係性作りや、関係人口を増やしていく取り組みということでいうと、「雑談会」と称したミーティングをもうかれこれ1年くらい、隔週で続けています。区の人が入って地域の方々と話し合う場を隔週でずっと続けてるって、なかなかないことだと思うんですよ。でも本当は、一番やりたいことはそういったコミュニティ創出なんですよね。
今日のマルシェも、開催すること自体が目的ではなくて、ここからより多くの人に関わってもらうためのイベントです。
あとは地元メンバーと「TPT(ティーパーティ)」というチームを作り、お茶会も月1で開催しています。緑道で未来のことを話そう、という場をつくるために地元メンバーで一般社団法人をつくったんですね。
——それはどんな人たちが参加するんですか?
真柴 誰でも参加していいんです。通りがかりの人でも。
——どんなことを話すんですか?
林 「お茶が美味しいね」って(笑)。それと街の今とこれからの話しも。
真柴 他愛もない会話です。議題とかないので(笑)
林 ぐっとハードルを低くして。コミュニケーションを取ること自体が目的なんです。
——今日のマルシェや、隔週の「雑談会」、月1の「TPT」(お茶会)と、地元の方々と繋がるいろんなチャンネルが設けられてるんですね。
真柴 そのなかで、地域のいろんな世代の方が関わってくれて、緑道を通して世代間交流も進んできています。
渋谷区職員の意識にもだんだん変化が?
林 地域とのコミュニティづくりって、どうやって官民が連携するのかというところも大事な部分だと思います。たとえば民間企業の人が地域に深く根差していろんなところと話をつけるのって難しいんですよね。でもそれを今、区の職員が入ってきてやってるっていうのもすごく意味があると思っています。僕が知る限りではここまで区の職員が動いているところは、なかなかないと思いますよ。
でも何か地元の人がこんなことをやりたいって言ったら、すぐ動けるじゃないですか、区の職員だから。それでこうなりましたよ、ってまたフィードバックしてあげたら、地元の人たちはすごく喜んでくれるわけです。それで区職員も自己肯定感に繋がって、今すごくいい関係が生まれてきていますよね。
——区の職員の方々も、課をまたいでいろんな方がお手伝いに来てくれてますね。
真柴 区役所内でのイメージもだいぶ変わってきてると思います。今日のマルシェにも、歩いてると区の人がいっぱいいるんですよ(笑)。遠くから遊びに来てくれてる人もいますし、「誰か手伝ってくれる人いませんか」って部内に周知したら、手を挙げてくれた人もたくさんいて。
——こうして地域に深く根差して活動することに関しては、区の職員として、どんな思いがありますか?
真柴 渋谷区の職員で、ここまで地域に直接に入っていくっていう動きをしてる人は少ないですよね。やっぱり、そういうことをしても往々にして、地域の方から日頃感じている不満の声をいただいたりということに終始してしまいがちなので。だけど不満を言う方々も、まちを良くしたいっていう思いは一緒だから、ちゃんとコミュニケーションを重ねていって人間関係をつくると、お互いにちゃんと言い合えるような間柄になれるんですよね。かつては怒っていた方がだんだんと味方になってくれるみたいな。
そこまでしっかり人間関係をつくれるような職員をもっと増やしたいと思っています。
“雑談会”から生まれる未来の可能性
真柴 今回、この緑道のにぎわいを緑道だけに留めないで、周りに広げていけたほうが地域のためになるということで、マルシェで配ったチラシを持って近隣の店舗に行くと割引だったり、ドリンクや大盛りサービスだったりっていう特典があるという仕組みをつくりました。ここに来た人が周りの店舗を回遊して、エリア全体で盛り上げていこうという企画です。
林 これって、実は地元の人が企画したんですよ。近隣でカレー屋さんをやっている方が「こういうのをやった方がいいんじゃない?」と言って。
——それは、お茶会や雑談会で?
真柴 オンラインの雑談会。すごいですよね。
地元の方が提案してくれたことを我々で実際に仕組化したらその方もすごく喜んでいましたし、地域にとってもよい企画になりました。
——それを見た周りの人も、それなら僕も、私も、とどんどん関わってくれるといいですね。
真柴 地元の人たちも、公共空間を良くしていこうということに対して“食わず嫌い”というか“やらず嫌い”な状態だったりもするんですよね。だから「今回は実験だから」と言って実際にやって見せてみると「いいね!」とか「じゃあ、次からは協力するよ!」って仲間が増えていく。とにかくやってみることが大事だと思っています。
林 これからも地域の方々にもっともっと参加してほしいですね。まずはお茶会からでもいいし、入り口はいろいろありますから。