渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト会議 Vol.1-THINK ENTERTEINMENT

レポート
渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト会議 Vol.1-THINK ENTERTEINMENT

日時:2020年2月3日(月) 18:00開場/18:30スタート
場所:ラフアウト渋谷
登壇:

  • エイベックス・エンタテインメント株式会社 執行役員 レーベル事業本部長
    猪野丈也さん
  • KDDI株式会社 ライフデザイン事業企画本部 ビジネスインキュベーション推進部長〈KDDI ∞ Labo 長〉
    中馬和彦さん
  • 一般社団法人 渋谷未来デザイン 理事兼事務局次長
    長田新子

<ファシリテーター>
一般社団法人 渋谷未来デザイン 理事 / 一般財団法人渋谷区観光協会 代表理事
金山淳吾

2月3日(月)に来たる5G時代を⾒据えてKDDI株式会社、⼀般財団法⼈渋⾕区観光協会、⼀般社団法⼈渋⾕未来デザインが主幹となり⽴ち上げられ、30社以上が参画している「渋⾕5G エンターテイメントプロジェクト」の定期企画として行われる「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト会議」の第一回目となる会議がラフアウト渋谷にて行われました。

渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト会議 Vol.1-THINK ENTERTEINMENT

今回はエイベックス・エンタテインメント株式会社より猪野丈也さんを特別ゲストにお迎えし、KDDI株式会社の中馬和彦さん、⼀般社団法⼈渋⾕未来デザインの長田新子がスピーカーとして登壇。ファシリテーターを一般財団法人渋谷区観光協会代表理事の金山淳吾が務め、アットホームでリラックスした会場の雰囲気のなかスタート。

“未来のエンタテインメントを考える”をテーマに行われたこの会議ではまず、猪野さんが以前と現在の音楽業界のビジネスモデルを比較しながら、いま音楽業界が抱えている課題を説明しました。

渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト会議 Vol.1-THINK ENTERTEINMENT

その中で「音楽とは短いながら心を動かせるエンターテイメントであり、テクノロジーの進化によりいち早く変化してきた歴史がある。具体的には、蓄音機、活版印刷、CD、ウォークマン、iPOD等テクノロジーの進化によってビジネスが変わってきた」と語った猪野さん。現在も、CDやダウンロードなど音源を複製することで成り立ってきたビジネスモデルが変化してきています。

ここ最近はアーティストが作った作品の“複製物”をユーザーが楽しんでいましたが、現在はストリーミングの普及により、多くの音楽と出会うチャンスが生まれ、一側面では、音楽はアーティストのストーリーを楽しむものへと変化している状況もあります。以前のように人気プロデューサーが手がけた作品よりもシンガーソングライターのようにアーティスト自身が想いを伝えるタイプの作品のほうがマッチしている傾向があるようです。その上で猪野さんは現在のビジネスモデルをこう説明します。

「音楽ビジネスは“聴くこと”からTikTokのように音楽で“遊ぶこと”にもシフトしてきている。ヒットの定義も以前のように“所有すること”から“接触する”“再生される”へと指標が変わってきています。そのためアルバム制作から1曲単位での制作に力を注ぐようになり、またPRの手法も代わり、マスメディアだけでなく、apple、Spotify、LINE、AWAのようなプラットフォームからユーザーに直接推薦されるということも重要になってきました」

渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト会議 Vol.1-THINK ENTERTEINMENT

また今後は、売れているからコラボするというだけでなく、アーティストの思想やそのプロセスに価値を見出したり、ムーブメントを作ろうという気概とマッチする企業とアライアンスを組んだり、アーティストの声や動きという音楽を分解したパーツをXR等でコンテンツ化していくなど、これまでの音楽を聴くということにとどまらない新しい領域もビジネスになっていく可能性があると言います。

「音楽は今後、色々な人と協力してどんどん変化していく。今までは出来上がっていたものだけを楽しんでいたが、これからは多くの人の手が入ってどんどん新しい変化が生まれ、それ自体に価値が生まれていくよりユーザーとの“共創“が重要になっていくと思う」

続いて登壇者の3人は、いま自分たちがおもしろいと思うプロジェクトを紹介。
猪野さんは非日常的な事象をエンタメに投影することをテーマにした美術館を、長田はサスティナブルなものにこだわったフェス、中馬さんは世界中の7都市を転々として授業するオンラインの全寮制大学などを紹介しました。
その中で今後の渋谷のエンタメを考えた場合、どういったものが渋谷にあれば良いかについて意見を交換します。金山は「渋谷は再開発中だが、今後は溶け込むものではなくシンボリックなものが作られていくべき」と語りました。

渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト会議 Vol.1-THINK ENTERTEINMENT

次にエンターテイメントの境界線について話が及ぶと、長田が「日常と非日常がエンタメの境界線 かな。あくまでも自分の意見ですが、普段の生活にワクワクした要素が加わって非日常になり、それが生活する上での動機になるのでは 」と語る一方、猪野さんは「エンターテイメントの中では境界線をなくしたい」と発言。「違う業種とエンタメを掛け合わせることでは新しい価値が生まれ、発展していく可能性がある。例えば、アバターを使った医療とかディズニーさんのタートルトークのような形で教育とコラボするなど、エンタメ化していくことで新たな価値は生まれるのではないかと思います」

渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト会議 Vol.1-THINK ENTERTEINMENT

長田はエンターテイメントの境界線をなくすことについて、「普段の生活の中で“公共空間が楽しい”という印象を人に与えられたら、エンタメと日常の境界線がなくなるのでは?」という認識を示しました。

また、テクノロジーとリアルの関係について、そこにあるべきは“隔たり”ではなく“拡張”だと主張したのは猪野さん。
「例えば音楽ライブは、そこにいるとアーティストと会えるといった魅力だけでなく、配信されるコンテンツを好きな部分だけ編集するとか、チケットがARになって、行く過程や帰る過程を街と一体になって楽しんだり、より一つのコンテンツでいろんな楽しみが生まれるようになる。テクノロジーによってリアルの価値は増すのではないか」

中馬さんは「テクノロジーを使うときは、“えせリアル”になってはいけない。むしろバーチャルにしかできないものを楽しむべき」と続け、長田は「例えば個人の才能の有無に関わらず、世界中の人とオンラインゲームで対戦するなど、テクノロジーによって、世界中の人とつながって何かを一緒にするような体験を作っていきたい」と語りました。

この現実を拡張することに関して金山は「仮に渋谷の街にデジタルプリントができるようになれば、デジタルクリエイターが集まってくるはず。それをリアルな景観にしていくことができたら」と続け、それに対して中馬さんは「3D空間がアートになって、それを都市空間に組み込む。そこに偶発性が生まれれば、また行きたくなる街になる」と加えました。

渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト会議 Vol.1-THINK ENTERTEINMENT

そして、それぞれが考えるクリエイターとアーティストの違いに話が及び、この定義について考えながら、金山の「渋谷の街にはクリエイター、アーティスト、どっちに集まって欲しいか?」という質問に対し、長田は「純粋に何かを追求するアーティストに集まってもらえれば、そこに出資する人やアーティストと一緒に何かを作っていくクリエイターも集まる」、猪野さんは「街を一緒に作るというのが重要だと思うのでクリエイターが集まることで街が可変的になっていくのが理想」、中馬さんは「渋谷が商業的になってはおもしろくない。結果的にビジネスになればいい。作られたものでは続かない」とそれぞれ自分の希望を語りました。

金山は3人の意見を踏まえ、今後、テクノロジーで渋谷のエンターテイメントを盛り上げていくことに関し、「アーティストは問いかけを行なう人、クリエイターは答えを見つける人。アートはビジネスになりにくいが、クリエイターはビジネスになる。だから今後は渋谷にはアーティストがいて、その周りにクリエイターが集まってくるような状況を生み出せるように街づくりをしていきたい。そのためにもクリエイター天国である日本においてアーティストとマッシュアップしていく必要がある。どうやってアーティストを生み出すのかはエンターテイメントシティを目指す渋谷の課題。その意味でテクノロジーはまだ法整備の面も考えてチャンスがある分野だ」と語りました。

最後に来場者からの質問も。

「エンターテイメントを牽引するようなカルチャーリーダーは、音楽にもファッションにも詳しい。でもそれは偶発的にしか生まれない、という意見があったが、それに対して渋谷の若者が集まるライブハウスでは今後どうしていくべきなのか?」

渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト会議 Vol.1-THINK ENTERTEINMENT

中馬さんは「これまでとデジタル時代ではファッションリーダー、トレンドリーダーとなる人の定義も異なってくる。集まってくる人たちに集まるだけの価値を与えることが必要」と語り、猪野さんは「その価値作りのためになんらかの敷居の高さがあればエンタメにも別の価値が生まれてくるのでは?」という考えを示し、会議は終了。

登壇者も来場者もお酒を片手に肩の力を抜いて語り、聞き、考えるこの会議。今後も有意義な意見交換の場として、継続して行われていく予定です。