3月8日は「国際女性デー」、3月は1ヶ月のあいだ「国際女性デー月間」だったことから、ここ渋谷からも、女性たちの豊かな暮らしをセレブレートする様々な取り組みやメッセージが発信されました。
ここでは、3月20日に開催された「渋谷・表参道 Women’s Run」に参画するニューバランスジャパンの小澤真琴さんと、同3月に立ち上げられた団体「Women’s Wellness Action from Shibuya」の実行委員長でもある、渋谷未来デザイン 事務局長・長田新子の対談をお届けします。
——まずは、この度あらたに設立された「Women’s Wellness Action from Shibuya」についておしえてください。
長田 昨年11月のSocial Innovation Weekで行われた「Z世代のココロとカラダの性を考える」というセッションに端を発して、やっぱりただ話してるだけではなくて具体的なアクションに落とし込んでいきたいという有志のメンバーが集まって発足しました。
ニューバランスさんをはじめ多くの企業・団体や、インフルエンサーの方々にも賛同いただいています。
渋谷という土地柄、フェムテックとかスポーツとか、ストリートカルチャーとか、いろいろなシーンの人たちがつながって、「#女性の健康は世界を変える」をキーワードに、女性特有の健康課題への認知拡大と解決のための行動促進をしていこうというのが目的です。
——では小澤さんのお仕事についてもおしえてください。
小澤 私がニューバランスジャパンに入社したのは大学卒業してすぐで、そこからずっと20年以上ここにおりまして。広報やマーケティングに携わりながら、その間に2回産休を取っていて、今、中学生と高校生の子供がいます。
ニューバランスでは、ターゲットとして女性というのが非常に重要であると捉えています。また、ランニングはブランド創業時からずっと中心となってきているカテゴリーですので、女性にランニングを提案する活動はブランドにとってとても重要なポイントになっています。
その中で大きな取り組みとしてあるのが、「名古屋ウィメンズマラソン」と、この度の「渋谷・表参道 Women’s Run」になります。
“きれいに履けるスニーカー”が働く女性を支えている
長田 ちなみに20年前に小澤さんがニューバランスに入ったときと比べて、女性向けという視点ではブランドにどんな変化がありました?
小澤 最初は、スニーカーを履いている女性がもっと少なかったですね。
女性誌を見てもスニーカーなんて一度も出てこないのが普通だったんです。それが変わってきたのは、ここ10年以内くらいだと思います。この数年はOLさんが読むようなファッション誌で、ワードローブのひとつとしてスニーカーが取り上げられるのも当たり前になってきて、状況はかなり変わってきたという印象です。
私もそうですけど、ビジネスのシーンでもジャケットにジーンズにスニーカーみたいなかたちとか、女性でもきれいめにスニーカーを履くようなスタイルが浸透してきたのかなと思います。
長田 女性のウェルネスや活躍という面で、アクティブに仕事も子育てもして、っていうライフスタイルも、たぶん20年前より今のほうがずっと受け入れられてますしね。毎日忙しいなかで、ずっとヒール履いて移動とか……。
小澤 つらいですよね。
このコロナ禍でそれがますます広がっている部分もあって、例えば男性もスーツを着て革靴を履いて毎日出勤するっていうワークスタイルじゃなくなった方も多い中で、もうちょっとカジュアル、だけどキチンとしてるぐらいのお洋服の選び方をされる人も増えていると思います。そうするとスニーカーもより取り入れやすくなっているんじゃないでしょうか。
街全体がランナーを祝福するようなカルチャーをつくりたい
長田 「渋谷・表参道Women’s Run」はコロナの影響で去年は開催されず、ニューバランスさんとしては今回が初めての参画になったわけですよね?
小澤 初めてやらせていただいて、やっぱり自分も走りたくなりました。女性ランナーの方々に何千人と集まっていただいて、渋谷の街なかや明治神宮のなかなどを走れるってすごく貴重な体験だと思いますし、走り終わった皆さんが本当に楽しそうにしていたので、ランニングを提案しているブランドとしてそれをサポートできてすごくうれしく思います。
また今回は、走った後も渋谷の街で楽しんでいただくために「セレブレーションギフトカード」というものを配布する取り組みも行ないました。それを渋谷の街の協力店舗へ持っていくと1,000円分のチケットとして使えるようになっていて、街の人たちとニューバランスが一緒にランナーをセレブレートするというような施策です。
長田 そうやって今後もっと街全体が女性ランナーを応援しているような雰囲気になっていくといいですよね。
小澤 私、ニューヨークシティマラソンに出たことがあるんですけど、本当に街じゅうがお祭りなんですよ。完走メダルを掛けてホテルまで歩いて帰っていると「おめでとう!おめでとう!」って知らない人たちがたくさん声を掛けてくれたり。本当に頑張った人をセレブレートしてくれる雰囲気が街にあふれてるんですね。日本でもそんなふうになったらいいなと思っています。
たぶん、10km走るというと「よくそんなことやるね」って思う方もいらっしゃると思うんですけど、実際やってみると本当にハッピーになれるし、達成感もあるっていうことをもっと多くの方々に知っていただいて、ランナーたちに対していろんな人がセレブレートしてあげられるようなカルチャーを、それこそ渋谷区と一緒につくっていけるといいなと思います。
長田 今日の街の主役は走る女性たち、というようなムードが街なかからうまれてくるといいですね。ゼッケンやメダルといった目印を付けている人にみんなで「おつかれさま」とか「おめでとう」と声をかけてコミュニケーションが生まれるっていうのは、たしかに街と一緒に取り組みを深めていくべき部分だと思います。
——街との取り組みという面では、ほかに今後どんなことを期待していますか?
小澤 ランニングイベントをやること自体がスペシャルなことではあるんですが、その日その場だけが楽しければいいということでもないと思っていて。受け入れていただく街全体、そこに住んでらっしゃる方々も含めて、大会当日だけじゃなく、前々からわくわくするようなことを一緒につくっていくようなことができるとさらに良くなるんじゃないかと思います。
長田 名古屋ではどんなことをされているんですか?
小澤「名古屋ウィメンズマラソン」は、2018年大会からご一緒していますが、名古屋以外の地方から来る方も多いので、そういう方々がもう一泊して名古屋の街を楽しめる施策を提案したりしています。
長田 走る前だったら街のお店などがわくわく感を演出したり、走り終わった後にはまた全然違う気持ちで、ホッとリラックスして街を楽しむみたいなところまで、全部できたらすごくいいですよね。それでたとえば1カ月間、街がずっと盛り上がっているみたいな。
渋谷から発信するWomen’s Wellness Action
/生きづらさを理解し合う対話の必要性
——女性のウェルネスという視点で、渋谷の街からどんなアクションやメッセージが発信されていくといいと思いますか? 小澤さんの個人的な思いでいいのですが。
小澤 働く女性のライフスタイルに対してウェルカムな感じを出してもらえるとうれしいなっていうところですかね。それを街全体として発信してもらえるような。
もちろん女性だけに優しいというのもどうかな、という面もあるのですが。
長田 確かに、必ずしも女性だけに限って考えていく必要はないと思っているんですが、あえて女性という視点から意識していくと、たとえばベビーカーを押すお母さんが通れない歩道があれば、そこは車椅子も通れないよね、とか、生活する上でのいろんな課題を見つけていく糸口になりやすいという側面があると思っています。
あとはやっぱり女性特有の、たとえば生理のこととか、更年期のこととか、そういったことって目に見えないものが結構あったりして、なかなか男性にも理解してもらうのが難しいじゃないですか。それを伝えていくことの大事さみたいなことは感じます。そんなことって今まであまりおおっぴらに話せる雰囲気がなかったと思うんですが。
私、最近よく「おじさんも生きづらいんだけど」って言われるんですよね。女性特有の生きづらさがあるのと同様に、男性だって社会に対して生きづらさを感じることがある。それも当然だなと思って。だから、もっと対話をして理解し合う必要って結構あるんだなと思っています。
そういうことって渋谷だとやりやすいのだろうとも思うんです。土地柄的に多様なライフスタイルを持つ人がいるから。そこでどんどん伝えていくことで日本中へ広がっていくといいなと思ってるんですけどね。
——(インタビュアー:男性として口を挟ませていただくと……、)本当におっしゃるとおりだと思います。こうした女性のウェルネスを支えるアクションを見ていて、自分もひとりの男性として「変わらなきゃ」と思わされるんです。でも、何がどう変わらなきゃいけないんだっていうのが、具体的には意外と分からなかったりする。何かしたい気持ちはあるけれど、具体的にどんな行動をとればいいのかわからないという男性は多いと思います。女性特有のことについては、男性側からしてもすごく聞きづらいことですし。
でもそれを自然なかたちで知れる機会があったら、あるいはそういう雰囲気が街のなかで醸成されていったら、僕らにもできることはもっと増えていくと思うんですよね。
小澤 男性がそこまで知らないとは思ってなかったとか、逆に、女性からすると言わなきゃいけないとも思ってなかったみたいなこともあると思うんですよね。いまの状態が当たり前になりすぎていて。そういうことももっとオープンに対話ができるといいのかもしれないですね。
長田 たとえばランニングイベントがきっかけになってコミュニケーションが広がるのでもいいですし、いろんなことが渋谷から起こっていくことで、そういう意味で豊かなカルチャーが育まれていくことが大事なのかなと思います。
そして、そういったことのはじまりは、誰にでもできる小さなアクションから、ということも忘れずにいたいですね。
代々木公園を走り、オンラインで競う、新感覚のランニングイベント
——最後に、今後の予定としてはどんな取り組みを考えていますか?
小澤 昨年6月に、多摩川の河川敷に1マイル(1.6㎞)のコースをつくり「TAMAGAWA FKT」というオンラインマイクロレースを実施しました。
(※FKT = Fastest Known Timeの略。特定のコースを走ったGPSデータをアップロードしタイムを競うレースの方式。参加者が同時に走る必要がないので、自身が走りたいタイミングで競技に参加することができる)
バーチャルのレースだから、走るのは一人だったり、友達と二人とかだったりするんですが、結構ちゃんとドキドキするんですよね。その楽しみっていうのはすごく面白くて。そのときは900人以上の方が参加してくれて、期間中に何十回も走った人がいたり、本格的なアスリートの方が走ったりと、すごく盛り上がりました。
それをもっと街のなかでやれないかということで、昨年11月には、Social Innovation Weekの一環として代々木公園を舞台に「YOYOGI PARK FKT TEST RUN」というイベントを行いました。
そしてこの春、具体的な日取りの発表はまだこれからですが、もう一度代々木公園でFKTのランニングイベントを準備しています。
長田 とてもたのしみにしています!