渋谷のグリーンシフト・2025年の実証から!SHIBUYA GREEN SHIFT PROJECT セッションレポート

レポート

SHIBUYA GREEN SHIFT MEET UP presented by DAIKIN
日時:2026年3月12日(木)
会場:ダイキン工業東京支社 Co-Creation Square

 

SESSION 1
「渋谷のグリーンシフト・2025年の実証から!」

<登壇>
ダイキン工業株式会社 設備営業部
片岡碧人さん
国土交通省 都市局都市環境課 課長補佐
今佐和子さん
株式会社日建設計総合研究所
齋藤悠宇さん
東京大学 先端科学技術研究センター
吉村有司さん
ダイキン工業株式会社 設備営業部 課長
駒井諒子さん

 

「渋谷のグリーンシフト・2025年の実証から!」では、ダイキン工業の片岡碧人さん、国土交通省の今佐和子さん、日建設計総合研究所の齋藤悠宇さん、東京大学の吉村有司さん、ダイキン工業の駒井諒子さんが登壇。2025年夏に渋谷で実施された屋外クールダウンプロジェクトの成果と、データを活用したまちづくりの展望について意見交換を行いました。

NHKの世論調査では、2025年の夏は暑さで外出を控えたことがある人が約7割に及びました。片岡さんは「暑さは夏の一時的な我慢ではなく、日常生活や経済活動に影響を与える社会課題になっている」と指摘。屋外イベントやオープンカフェといった、本来は都市の魅力につながる活動が猛暑によって制約を受けている現状を問題提起しました。

こうした課題から、ダイキン、東急不動産、東急、東京レクリエーションの4社が連携し、2025年夏に実証プロジェクトを実施しました。クールスポットの快適性とエリア全体の省エネを両立させるというコンセプトのもと、渋谷エリアの公園・広場、イベント・運動施設、レストランの3タイプ、計5箇所にクールスポットが設置されました。

 

 

片岡さんが例に挙げたのが北谷公園での事例です。設置前、この公園では暑さ指数「WBGT」が「厳重警戒以上」となる時間の割合が約80%でしたが、屋外用エアコンを3台設置すると、わずか4%にまで低下。付近の利用者は最大で2.2倍に増え、園内のキッチンカーの売上は105%に増加しました。アンケートでは90%超が「涼しく感じた、また利用したい」と答え、約70%が「クールスポットがあれば外出したい」と回答。暑さ対策が単なる気象対応ではなく、外出欲の喚起にもつながることが示されました。

 

 

一方、屋外空間の冷却ではエネルギーの消費量も増加するため、その分を相殺する仕組みも検証されました。室外機周辺の緑化で約2%、ビル運用改善で約7%の省エネを実現。緑化では最大約5度の周辺温度低下も確認されました。結果として、クールスポットに必要な12,000kWhに対し、周辺建物で21,500kWhの電力を削減。エリア全体で省エネと快適性の両立が可能であることが確認されました。

一方で、片岡さんは今後の課題について、こう語ります。

「この取り組みはまだ広く認知されておらず、受益者も不確定な部分がある。誰が費用を負担し、どのような仕組みで運営していくのか。また、公園や広場はイベント会場として貸し出されることも多く、我々はクールスポット設備を夏の屋外インフラと捉えているが、イベント側からすると設備自体が障害物と見なされる可能性もある。柔軟に設置状況を変更できる仕組みづくりも今後重要になる」

 

 

今後の展望として、片岡さんはエアコン、テント、パラソル、ミスト、ファニチャーを組み合わせた複合的なクールスポットと、広告とイベントを連動させた自走型モデルを提案。クールスポット自体を広告媒体として活用し設置・運営費を賄いながら、多様な場所で日常的に利用できる涼しい空間を広げることを目指すと述べました。

 

続くパネルディスカッションでは、吉村さんが「これはエリアマネジメントの新しい形だ」と評価。空調データを起点にしたまちづくりのアプローチはこれまでにない試みだと述べました。

議論の中では、屋外空間を涼しくする費用を誰が負担するのかという財源の問題も浮上しました。今さんは、国交省がまちづくりの分野で暑さ対策に取り組むための補助制度を創設した経緯を明かしました。制度を作る際には財務省から「なぜまちづくりでやるのか、環境省の仕事ではないか」と指摘されたそうですが、暑い季節が長くなれば人が街に出なくなり、街の活力や経済活動が失われていくと訴えて交渉にあたったと振り返りました。その上で暑さが命に関わるものとして広く認知されることで、投資の考え方が変わる可能性があると指摘しました。

さらに今さんは、都市の本質についてこう語ります。

「コロナ禍で気づかされたのは、都市の役割とは何かということだった。何でもネットで買え、娯楽も家の中で完結するようになった。そうなったとき都市に求められるのは、人と人が交流すること、偶然の出会いを提供すること。屋外空間の居心地がいいというのは、まちづくりにとって大切で、その費用は街に関わる人たちみんなで負担していくべきものだと思う」

 

続いて齋藤さんが紹介した「熱中症危険ファインダー」は、環境省が公開する暑さ指数(WBGT)の課題を解決する取り組みです。現在、環境省の観測データは東京23区でわずか3地点分しかなく、市民が自分の生活圏の暑熱リスクを把握しにくい状況にあります。齋藤さんは、PLATEAU(国の3D都市モデル)を活用した日影シミュレーションとダイキンの空調機データ、エアネット(ダイキンの空調機遠隔監視サービス)による空間補正を組み合わせ、渋谷区道玄坂では5メートルメッシュという細かさで熱中症ハザードマップを作成。渋谷区では熱中症搬送患者のうち19.1%を20代が占めるという統計も踏まえ、若年層が移動する主要商業施設や交差点でリスクが特に高いことが可視化されました。

 

 

続くパネルディスカッションで、齋藤さんはまちづくりのワークショップでの実務経験を踏まえ、次のように語ります。

「普段のまちづくりワークショップでは、『暑いから外に出たくない』という声に対して『そうですよね』と共感するしかできない。しかしダイキンさんのような企業が座組に入っていると、じゃあそこをこういうふうに冷やしていきましょうとか、涼しい場所を作ることとにぎわいを作ることを掛け合わせていきましょうという議論ができるようになっていく」

片岡さんも、熱中症ハザードマップのような資料があれば住民が「ここにクールスポットが欲しい」と具体的に議論できるようになると同意しました。これを受けて吉村さんは、データ活用にはサイエンスとしての一面があると指摘し、こう述べました。

「一つは道路のネットワークや建物の形状から『ここは暑い、ここは涼しい』と推定していくシミュレーションのアプローチ。もう一つはエアネットのような実測値で裏付けるアプローチ。さらにその先には、我々が感覚として『ここは涼しいっぽいね』と感じるもの、人間の認識や心の動きをデータからあぶり出すという、もう一つ違ったデータサイエンスの切り口がある」

セッション終盤では、齋藤さんが東南アジアでは空調の効いたデパートが中高生のたまり場になるほど「涼しさ」と「にぎわい」がリンクしている例を挙げ、日本でも暑さが進む中でそうした関係性が強まっていくと展望を示しました。片岡さんは「今年の夏だけでなく、来年、再来年とつながっていく暑熱対策を提案していきたい」と継続への意気込みを語り、吉村さんは「単年度ではなく複数年度でデータを蓄積することが、渋谷だけでなく日本の街を良くすることにつながる」と経年データの重要性を強調しました。

街が暑くなり続ける中、「街を冷やす」というテクノロジーは、街の活力、経済活動、そして人々の暮らしの質を守る基盤となっていきます。クールスポットによる快適性の向上、省エネとの両立、データによる可視化と合意形成。このセッションは、渋谷での実証をその先の実装へと進めていくための重要な一歩となりました。

 

 

SESSION 2
「DXを基に『サステナブルなまち』を目指して!」

<登壇>
ダイキン工業株式会社 TIC 副センター長
都島良久さん
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 執行役員
杉浦敬太さん
東京大学 先端科学技術研究センター
吉村有司さん
一般社団法人渋谷未来デザイン
久保田夏彦

 

「DXを基に『サステナブルなまち』を目指して!」では、ダイキン工業の都島良久さん、カルチュア・コンビニエンス・クラブの杉浦敬太さん、東京大学の吉村有司さんが登壇。渋谷未来デザインの久保田夏彦さんがファシリテーターを務め、空調データや購買データをまちづくりにどう活かすかについての議論が交わされました。

セッションではまず、都島さんがダイキンの取り組みを紹介。空調機を「環境センサー兼エネルギーデバイス」と捉え、人のいるところにほぼ必ず設置される設備としての可能性を語りました。

 

ダイキン工業が蓄積してきたエアネット(ダイキンの空調機遠隔監視サービス)には室外機の周辺温度、室内の天井付近の温度、運用の操作履歴など、多様なデータが約30年分集まっています。

従来は「人がいるところを冷やす」という考え方でしたが、今後は「冷えたところに人を誘導していく」という方針転換を説明。マーケティング的な目線を取り入れることで、環境が人の行動そのものを促すという最適化が生まれると述べました。

さらに都島さんは建物データと設備データ、その運用データを統合する「ビルOS」という構想を紹介し、機器制御ではなく空間全体を制御していく仕組みづくりの重要性を強調しました。その上でこう語ります。

「空調はセンサー兼エネルギーデバイスであり、インフラとして人のいるところには必ず存在する。重要なキーデバイスだがone of themという視点の中で、新しい価値を生み出していく可能性はある。それをうまくパートナーと連携しながら、価値創出をしていけたら」

続いて、杉浦さんがカルチュア・コンビニエンス・クラブの取り組みを紹介。Vポイント事業は過去約20年分の購買データを蓄積しており、ダイキンの空調データと購買データを掛け合わせた分析では、同じ夏でも、空調の効いたオフィスビル内のコンビニでは「ホットコーヒー」の売れ行きが好調であることが明らかになったと述べました。また、屋外のコンビニでは夏季は冷やし中華や冷やしうどんが売上の中心となる一方、涼しいビル内ではパスタ、焼きそば、カレー、カツ丼といった温かいものが売れていくといいます。同じ季節、同じ街の中でも、空調がつくる環境によって人の購買行動が変わることについて、杉浦さんは次のような認識を示しました。

「空気を作るダイキンさんは、実はニーズそのものを作っているんじゃないか。このビジネスチャンスはとても大きいと思っている。いろんな企業がこの環境データと購買データを掛け合わせたマーケティングをしたいと考えるはず」

 

 

さらに杉浦さんはビルOS上にVポイントのデータを載せることで、オフィスビル内の生活者のニーズを把握し、空調がつくる環境に合わせた品揃えやサービスの提案につなげられる可能性があると語りました。

 

続いて吉村さんは、海外での20年にわたるデータ駆動型都市分析の経験を踏まえ、まちづくりにデータを活用する事例を紹介。バルセロナでの大規模な歩行者空間化ではクレジットカード決済データ3年分を使って、歩行者優先のまちづくりによる小売店や飲食店の売上上昇を実証したと説明します。その上で、吉村さんはこの取り組みの意義を次のように語ります。

「ウォーカブルがいいからウォーカブルにしましょうと、ただ好きだからやるというのではなく、データを掛け合わせて、売上が上がるからウォーカブルにしましょうという形で、データを用いながらみんなで合意を形成していくことが大切です」

日本でも大阪・御堂筋でのウォーカブル推進にJCBのクレジットカード情報を活用し、タクティカルアーバニズム(戦術的都市計画)による売上効果を同様に検証しました。さらにタクシーのドライブレコーダー映像をAIで解析し、人流や街の環境を面的に把握する「ドライブバイセンシング」という手法も紹介しました。

プレゼンテーション後のクロストークでは、まずAI活用が話題になりました。杉浦さんはVポイント事業でもAI導入によりデータ分析のスピードが大幅に向上したと語る一方、「ただ、問いを投げるのは人なので、人がデータをどう使うかが大事になってきている」と述べました。都島さんもダイキンでは故障検知やエネルギー最適化、サプライチェーンの効率化にAIを活用していると紹介しました。

また、データの分断も課題として挙がりました。各企業が持つデータはそれぞれの社内にとどまり、横断的に活用される事例はまだ多くはありません。吉村さんは、データを共通言語として各部署やセクションを同じ土台に立たせることが重要だと述べました。またデータの活用可能性について掘り下げていく対話の中で「(データが十分に活用されず)宝の持ち腐れ状態のところもある」との指摘もあり、これに対して都島さんはこう話します。

「データは、見方によって価値が変わる。宝にもなるし、ゴミにもなる。都市のデータの中に溶け込ませましょうという話になると、今までに全くそういう想像をしていなかった視点の活用が出てくる。メーカーという視点を超えて、発想を広げていかないといけない」

吉村さんは、ダイキン社「エアネット」の30年分のデータの時系列的な価値にも注目し、都市開発の前後で空気や温度がどう変化したかをビフォーアフターで調べられることがダイキンにしかできない強みだと述べました。また、室外機が各ビルに設置されているため、スマートポールなどの新しいインフラを建てなくてもエリア全体の環境データを取得できるという面的な広がりにも言及しました。

都島さんは運転データだけでは不十分で、ビル内のイベント情報などと紐付けた「データ設計のグランドデザイン」が重要だと指摘しています。

さらに議論は行動変容の可能性にも広がりました。吉村さんは「クールスポットだからポイントがもらえる、と考えると行動変容が起きるのではないか」と提案。杉浦さんも「インセンティブがあると人は変わる。最初のきっかけが本当に大事」と強調しました。

セッション終盤、吉村さんはデータをどう扱うべきかについてこう述べました。

「これからの街では、どこかが全てのデータを牛耳るという考え方ではなく、みんなでシェアする。さらにデータというのはみんなの公共財である。そういう位置づけをした上で、みんなで街を良くしていくという観点が大事だ」

杉浦さんは「データは公共財。この一言に尽きる」と強く同調。都島さんは「どこまでオープンにするかは難しい問題」と率直に認めつつも、異業種との協業に意欲を示しました。

約30年分の空調データと約20年分の購買データ。業種を超えたつながりによって、メーカー単独では気づけなかった視点が浮かび上がってきます。それぞれの企業に蓄積されてきたデータが掛け合わされることで、まちづくりにこれまでなかった視点が加わります。データを公共財と捉え、企業や行政の枠組みを超えて共有していく。こうした取り組みが行われることで、渋谷のデータ駆動型のまちづくりの可能性がさらに広がっていくはずです。