地球の気候変動や温暖化対策を話し合う国際会議「COP(Conference of the parties=気候変動枠組条約締結国会議)」。現在、我々が日々耳にする脱炭素、カーボンニュートラル、温室効果ガス、地球温暖化などのキーワードについて、この「COP」で決められた方針が各国の方針に大きな影響を与える重要な役割を果たしています。
このような問題に対して、Z世代と企業、双方が共に当事者意識を持ち、アクションを起こしていくための勉強会「渋谷COPアカデミー」。その第3回目の模様をお届けします。
いよいよ3回目を迎えた「渋谷COPアカデミー」。回を重ねるごとに参加者が増え、また1回目から毎回参加くださる方も多く見られ、少しずつではありますが渋谷の街にサステナブルの輪が広がっていることを実感します。
これまで同様に一般社団法人SWiTCHの代表理事である佐座槙苗さんをファシリテーターに「渋谷の現状」「世界の潮流」「ゴールを実現するためのアクション」の3つのアジェンダで進行していきます。
日本が世界各国と比較してサステナブルな取り組みにおいて遅れをとっていることや、経済や社会を成り立たせるにはまずは土台となる生態系や環境を保全しなければならないことなどをスライドとともに説明。特に気候変動、生物圏の一体性、土地利用変化、生物地球科学的循環の4つの指標ではすでに地球の環境容量(プラネタリーバウンダリー)を超えていることを指摘し、そのことにより生態系の損失、熱波、森林火災、感染症などが連鎖して起きるリスクを強調します。
佐座さんは環境問題をわかりやすく自分ごと化してもらうための例えやクイズを毎回参加者に問います。これは普段は現実味がない環境問題の危機感を身近に感じられることができる佐座さんならではの巧みのポイント(前回は「2050年までに世界で何割の地下水がなくなる?」でした)。
今回は、「温暖化が進んで海抜が1メートル上がると日本の砂浜は○%なくなるでしょう?」という質問。答えは9割という衝撃的なものです。そして、そのことにより住んでいる人、土地を持っている人はどうするのか? 移住地はどうするのか? という諸問題が発生すると佐座さんは話します。
そして、次に世界は環境問題に対してどういうアクションを起こしているのか?に話題は移ります。これまで同様に「Future Earth」が掲げる「10 New insights」と2022年11月にエジプトで開催された「COP27」が主題です。
「10 New Insights」に関しては、1・2回目を通して、1〜6までが説明されてきましたので、今回は7〜10について佐座さんが解説します。
【10 New Insights】
- 適応は無限という神話を疑う
- 脆弱性のホットスポットは「リスクのある地域」に集中する
- 気候と健康の相互作用により新たな脅威が出現した
- 気候変動による人口移動に対しては、現在の根拠に基づく以上に先見的な行動が求められる
- 人間の安全保障には、気候安全保障が必須である
- 持続可能な土地利用は気候目標達成に不可欠である
- 民間のサステナブルファイナンスの実践は、まだ本格的な社会変遷を引き起こすには至っていない
- 損失と損害への対策が今、地球規模で緊急に求められている
- 気候変動にレジリエントな開発に向けた包摂的な意思決定が必要である
- 構造的な障壁と持続不可能なロックインの打破が必要である
(参照:「Future Earth 日本委員会」より)
「企業の利益のみに着目して、お金を貸したり、投資するのではなく、ESGを考慮して融資・投資を行うことが重要になります。しかし、現状は既存のビジネスモデルに合わせて設計されているので、まだまだ大きな影響を与えられていません。ポリシーメーカーである金融業界が、投資や貯蓄での温室効果ガス排出量の透明性を見直して、1.5℃の目標達成に合わせた実質的な影響を与える資本フローを明らかにするなどの改善が必要です。気候変動対策の実施や強化は、インセンティブにもなることを金融機関や投資家、企業により強く発信していかなくてはいけません」(佐座さん)
近年、上場企業をはじめとして、脱炭素にとどまらない環境保全の取り組みや、サステナビリティレポートの公表が盛んになり、ESGの認知度は向上していますが、佐座さんは、まだまだ改善の余地があると言います。
つづけて、「10 New Insights」の8では、すでにダメージを受けている被災地、被災者への対策について「金額として算出できた損害額だけではなく、非財務的な面も認識しなくてはいけません。例えば、渋谷川がなくなったら、自然環境、生物多様性、健康、ビジネスなどの側面で金額に換算していくらの損失となるのか?生態系に国境はありませんから、グローバルなレベルで気候危機に伴う損失額を把握する必要があります」と説明します。
さらに「世界の10%の富裕層が世界の49%のCO2を排出しており、貧しい50%は全体の約10%しか排出していない」という事実を述べ、富裕層の意識改革の重要性も指摘しました。
次に佐座さんは「レジリエンと=回復力」のため、政治家や政策立案者だけに頼らず、包括的で権限があるガバナンスが必要であることを説きます。
「今までは少数を多数の集団から外す排除型、多数と少数を別々にする分離型、多数と少数が分かれた状態で同じ環境にいる統合型が主流でしたが、障害、性別、年齢、国籍に関係なく相互に支えながら暮らしていく共生型でサステナブルに取り組まなくてはいけません」(佐座さん)
その上で現状の社会システムは、資本集約型社会がベースになっており、ステータス消費志向、大量生産・大量消費のデザインを見直すべきと話します。
「これまではGDPの成長率をメインで考えられていて、たくさん利益を生み出せばいいと考えられていました。でも本当の幸せとは? お金の価値とは? このベースを考え直さなくてはいけない時期にきています。資源集約型経済からの脱却し、低炭素型開発へと社会システムを移行する必要があります」(佐座さん)
つづいて2022年11月に開催された「COP27」の合意内容にトピックは移り、「2030年までに国土の30%以上を自然環境エリアとして保全」する「30by30」をメインとした解説がありました。
世界的な動きはすでに始まっている事実と、普段の生活ではあまり見聞きすることがないギャップ(佐座さんはサステナブルに関する報道の頻度の低さも指摘)に驚きを感じながら、多くの学びがあった「渋谷の現状」と「世界の潮流」。次はその現状を知り、我々はどう「ゴールを実現するためのアクション」していくのか? にテーマは変わります。
まず海外での体験談を3名の学生が、アルゼンチン、タイ、ロンドン、シンガポールなどで行われている取組について発表しました。タイやシンガポールでの自然を生かしたクールダウンの方法やロンドンでのサステナブルアート、ひとが集まる渋谷だからこそできるレジ袋撤廃の動きなど各国の事例とともに渋谷で実行できそうなアクションプランが提言。その後は、グループに分かれてのワークショップがあり、活発な意見交換、発表がありました。
最後に佐座さんは「明日からできることではなく今日からできること」として、まず自分のカーボンフットプリント(ひとりの暮らしで発生する炭素の排出量)を知ること(「じぶんごとプラネット」(https://www.jibungoto-planet.jp/の利用)、そしてオフィスにある緑を増やすこと、ペットボトルの使用量を把握してマイボトルを使うことなどを提言します。
全3回にわたり開催されてきた「渋谷COPアカデミー」。多くの学びと参加者のネットワークが生まれた意義のある内容となりましたが、来年度以降はさらにブラッシュアップしての開催を検討しています。引き続き「渋谷COPアカデミー」の活動にどうぞご注目ください。
<レポート|渋谷COPアカデミー>
? サステナブルの輪が確実に広がる。次はアクションへ! 第2回渋谷COPアカデミー
? Z世代と企業が共に「サステナブル都市」へのアクションを起こすためには? 第1回渋谷COPアカデミー