2023年10月に渋谷区副区長に就任、24年4月からは渋谷未来デザイン(以下、FDS)の理事も務めている松澤さん。今回は、2025年のスタートという折、渋谷区とFDSにとっての昨年1年間を振り返り、また2025年の「個人的な意気込み」についても伺っていきます。
区役所だけでは難しいことを、FDSとの連携で実行に
長田 今日は2025年のスタートということで、昨年までの振り返りとこれからの展望などについて伺っていきたいですが、一昨年の秋に渋谷区副区長に就任された松澤さんにとっては、2024年は激動の一年だったと思います。まずはそこまでに至る経緯から聞かせてください。
松澤 はい、私は2002年から弁護士としてお仕事をしてきました。もともとは、企業法務の弁護士なのですが、2007年の留学を機に、自分の力をパブリックな世界で役立てたいという想いがあり、ご縁をいただいて、国会に設立された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会で調査課長させていただいたり、2019年からは渋谷区教育委員会の委員を務めてきました。
そうしたなかで、もっと渋谷区に関わっていきたいという思いが強くなり、2023年の10月から、副区長に就任させていただきました。
長田 もともと弁護士になりたいと思ったのはどんなきっかけだったんですか?
松澤 10歳の頃にテレビの『火曜サスペンス劇場』で、無罪の被告人の冤罪を晴らす女性弁護士の話を観て「正義の味方になりたい!」と思ったんです。
運よく大学時代に司法試験に合格し、弁護士になって、大手事務所に入って、たくさんの貴重な経験を積ませていただきました。そのお仕事の中で、一件一件の依頼者には喜んでいただけたと思うのですが、弁護士の仕事はあくまで個別の案件の解決ですので、世の中の仕組みから変えていくようなことは、一弁護士の立場からではなかなか難しいという実感もあったんですね。
自分が実現したい政策をどこまで実現できるかというのはどの立場に立っても決して簡単なことではないですが、渋谷区役所に来て、ここでならいろんなことができるという可能性を改めて実感しています。
区長を中心としてポリシーメイキングをする区役所と、予算を中心とした議決事項についてデシジョンメイキングをする区議会と、具体的に実行に移していく現場のみなさんが、それぞれの立場から役割を果たし、上手に連携して区民に身近な施策を進めていくことができる、それは大きな強みだと思います。
長田 渋谷というまちに対しての見方や感じ方は、副区長になって変わりましたか?
松澤 就任後に、改めて渋谷区内それぞれの地域や施設を回らせてもらって、当然のことなのですが、地域ごとにすごく特徴があるし、そのぶん、区民のみなさんが区政に対して期待することも、やはり地域によって様々に違うんだなというのは強く感じましたね。
長田 松澤さんには渋谷未来デザイン(FDS)の理事として参画いただいていますが、あらためてFDSの魅力はどんなところにあると感じていますか?
松澤 まず渋谷「未来」デザインというところですよね。一歩先じゃなくてもっともっと先の未来を見据えて、渋谷のまちと真摯に向き合っている組織だとずっと感じています。
活動に賛同するパートナー企業の皆さんをはじめいろんな方々にご協力いただきながら、同時に、未来のビジョンを共有して、時には、立場や役割を超えて、みんなで一緒に社会をアップデートしていく組織なのだと思います。そういったことは区役所の機能だけでは難しいところもあって。区がやりたくても難しいことを実行に移してくださっているなと、心強く思っています。
長田 FDSの主幹事業のひとつ「SOCIAL INNOVATION WEEK(SIW)」には2023年、24年と登壇していただきましたね。
松澤 はい、23年は教育に関するセッションに、24年はフェムテックについてのセッションに登壇させていただきました。
松澤 SIWには本当に多様で魅力的な方々がたくさん登壇されて、渋谷の課題であり、日本の課題にもなるテーマについて、オープンかつフラットにディスカッションする場だと思っています。昨年もすごく盛り上がりましたね。
また、SIWがきっかけになって、様々な具体的な取り組みにつながっていくといいなと思っています。私もフェムテックに関連して渋谷区ではどんなことができるのか、各部署と議論を進めているところです。
長田 でも、ほかにも松澤さんが実現したいと思っていることは、それこそ多様にあるんじゃないですか?
松澤 そうですね、ひとつは、もともと渋谷区の教育委員会にいたこともあり、公共の学校で、ベストな教育を、是非渋谷区の小中学校で実現したいという思いがあります。また、ダイバーシティ推進というのも私がこれまで取り組んできた課題です。パートナーシップ協定を一番に結んだ区でもある渋谷というまち自身が、まさに「ちがいをちからに変える街」として、よりダイバーシティにあふれたまちになっていくことは重要なことだと考えています。
スタートアップ支援だったり、先進的な施策を取り入れていくなど、渋谷区らしい方法で課題解決をしていけたらと思っています。その意味でもFDS、そしてFDSの会員企業のみなさんと連携しながら新しいイノベーションを推し進めていきたいです。
あとはやっぱり、渋谷区役所のなかをより良くしていくという視点も持っていたいですね。ひとつはダイバーシティ推進という意味でも女性管理職比率を上げていきたいということと、もうひとつは、渋谷区役所を“Great Place to Work”と呼べるような環境にしていきたいと思っています。ライフワークバランスや働き方についてあらためて見直していくことはもちろんですが、仕事においてのやりがいだったり、自分が成長できることの面白さみたいなものを実感しながら働ける現場にしていきたいという思いがあります。
2025年、個人的に取り組んでみたいことは?
長田 ここからはもうすこし個人的なお話を聞いていきたいんですが。松澤さんの2025年の抱負だったり、チャレンジしたいことってありますか?
松澤 やっぱり、健康づくりですね(笑)。仕事をがんばるにも最後は体力だと思いますし、プライベートでもこどもが8歳と6歳で、子育てをするのにもまだまだ体力が必要だなと日々実感しています。
まわりを見渡すと、長谷部区長も、もう一人の副区長の杉浦さんも、ランナー・スポーツマン・スポーツウーマンなんですよね。しかもすごく運動できる人たちなので、私はもっと筋トレ系とかに行こうかなとか、まだ考えてるだけなんですけど(笑)
長田 職場という意味では、長谷部さんと杉浦さんの存在っていうのはどんなふうに感じてるんですか?
松澤 すごく働きやすいですね。杉浦さんとは受け持つ所管が分かれてるんですけど、でも、就任当初から、お互いに所管関係なく目的実現のために協力してやろうね、と言ってくださっていて。何でもすごくフラットに話せるひとです。長谷部さんは、私がこんなことをやりたいと言うと「やってみたら?」と言ってくれるボスなので、とても恵まれているなと思います。職場は、飲み会と一緒で、そのやりがい・面白さは、「メンツによる」、と思っているので(笑)、ここはとってもいい職場だなと思っています。
松澤 逆に新子さんは、個人的なチャレンジなにかありますか?
長田 うーん、私は個人的な興味とか行動と、仕事が混ざってしまうんですよね。プライベートと仕事の差がないというか。
松澤 すごく分かります。ワークライフバランスというより、ワークとライフの境目があまりなくなってきてしまって。ワークイズライフ、ライフイズワーク、というか。
長田 そうなんですよね。
松澤 あとは私、朝活手帳っていうのを買ったんですよ。朝4時から9時までしか欄がない手帳で、自分の予定に合わせて、朝の時間帯に自分のゴールデンタイムをつくる、っていうもので。子どもの準備もあるので朝はバタバタなのですが、1日の始まりに、自分の予定やタスクを俯瞰して見られるので、良い時間になっています。
長田 朝活といえば、Zoomを使ってみんなで一斉に身の回りの片付けをする、っていうのをやりましたよ。
松澤 あ、それ私も体験セミナーを受けたことがあります。みんなで部屋の汚さとか片付け状況を共有しながらやるんですよね?
長田 100人で片付けるんですよ。すごくないですか?
でも私、片付けながら、こういう人たちが渋谷区のコミュニティにいたらいいんじゃないかと思ったんですよね。
松澤 みんなで片付け、いいですね。町会の活性化とかにも。やっぱり、コミュニティづくりって、何かを共有する、例えば、時間とか、場所とか、活動とかを共有するのがとっても重要だなあと感じます。
長田 町会のみなさんで、それぞれ一斉に家のなかを片付ける(笑)。なんだか可笑しいですけど、いいですよね。
松澤 ときどき片付けの状況とか感想とかを共有したりしながら、そこからあたらしい交流が生まれていくといいですね。
そうやって機会はいろいろつくれると思うんですけど、多様なひとたちが集まるような場をつくることからイノベーションが生まれてくるものだと思いますし、年齢や性別やライフスタイルなんかも異なるひとたちが集まって一緒になにかする、というのはとても大事なことですよね。
長田 そういう意味では、町会でこどもたちも集まってるのってあまり見ない気がするので、こどもたちも巻き込んでいきたいですね。
松澤 片付けで出た不要品は公園でバザーに出せる、とか。
長田 片付けや掃除は、どんな人でも共通してやることだから、多様なひとたちが集まりやすいでしょうね。
…と、気付けばまた仕事の話に戻っていました(笑)
松澤 やっぱり、ワークとライフの境目がなくなりがちだから(笑)
長田 今日はありがとうございました。松澤さんが渋谷区副区長に就任され、新たな風が渋谷に舞い込んだ感覚があります。柔らかい物腰ながら、組織への的確なフィードバックと、自ら感じてきた課題に真正面から向き合う姿勢がとても印象的です。共に挑戦しようとする前向きなエネルギーを感じ、これから一緒にどんどん動いていけるのが楽しみです!!
構成:天田 輔(渋谷未来デザイン)
写真:斎藤 優