NFTを「配る」「集める」から「活用する」へ 企業が連携し渋谷から新しいweb3サービスを

片桐隆信さん(株式会社デジタルガレージ マーケティングテクノロジーカンパニー事業戦略室 / web3事業開発部 エグゼクティブ・プロデューサー)
Dylan Westoverさん(Callback株式会社 COO / Co-Founder)
久保田夏彦(渋谷未来デザイン)

 

NFTやweb3といったキーワードが一般的なビジネスシーンでも盛んに飛び交いはじめたのが2022年頃だとすると、時間を経ていま、実生活レベルでのNFTとの関わり方は次のフェーズに差し掛かっていると言えるのかもしれません。渋谷未来デザインの参画パートナーであり、シーンの先駆者的存在でもあるデジタルガレージから片桐さんと、そのビジネスパートナーであるCallbackからディランさんをお迎えして、渋谷とNFTのこれからについて、渋谷未来デザイン 久保田がお話を訊きました——

NFTで“つながる”コミュニティづくり

久保田 今日はお忙しいなかありがとうございます。まずはあらためて、デジタルガレージさんの渋谷を舞台にしたお取り組みについて、聞かせていただきたいです。
昨年はSIW(SOCIAL INNOVATION WEEK)にも参加いただきましたね。

片桐 日本にいるとあまり感じないんですけど、たとえば日本人が「ニューヨークってすごいな」と思っているように、海外から見ると渋谷っていう街はすごくエンターテイメントに溢れたシンボリックな街で、海外のNFTのプロジェクトに渋谷をテーマにしたものが多いんです。だからこそ、「カンヌといえば映画の街」と思うように、渋谷を新しい技術が生み出されていく街にできるんじゃないの? という発想から、去年のSIWではまずNFTを渋谷の街で配る施策としてINTERNATIONAL SHIBUYA TOKYO NFT FESTIVAL零を開催しました。

私たちも投資しているCallbackさんは、使い慣れているアプリという入口から、web3の体験を提供して、web3をより身近に感じるサービスを手がけています。彼らのアプリを使ってNFTを実験的に配布したというのが昨年のSIWでの施策です。前回は実証実験という位置付けで、零(0)回目として実施したのですが、これをきっかけに渋谷区が公式支援するスタートアップとして採択され、INTERNATIONAL SHIBUYA TOKYO NFT FESTIVAL壱として、渋谷の企業様も巻き込んで、今年から壱(1)回目として開催していく予定です。是非、渋谷に足を運んで、NFTやweb3を体験してみていただきたいと思います。

INTERNATIONAL SHIBUYA TOKYO NFT FESTIVAL公式サイト
https://festival-shibuya.io/4

 

久保田 Callbackさんは渋谷区とこれまでどんな取り組みをされてきたんですか?

ディラン 我々としては、NFTの強みはコミュニティづくりだと思っていて、また、スタートアップ企業にとっては、街全体でコミュニティをつくってお互いがサポートし合えることがとても大事だと考えています。そこで渋谷区のインキュベータープログラムのメンバーシップをNFT化して配布しようとしています。

久保田 NFTっていうと、僕にとっては、ウォレットにデジタル作品なんかを収集するようなイメージなんですが、NFTをコミュニティづくりにどんなふうに活用できるものなんですか?

ディラン たとえばゴルフの会員権みたいなものに似ていると思うんですが、メンバーシップを購入したり、イベントに行ってチケットをもらったりすると、そのまま続けてオンラインのコミュニティでコミュニケーションが取り合えたりとか。コミュニティの中に会いたい人や有名人がいると、そのグループに入りたい人たちがメンバーシップを購入して、だんだんコミュニティが大きくなっていくというかたちです。

久保田 それを渋谷で実装していこうとしているんですね。
そしてまた今年のSIWでも、次の施策を考えていただいているんですよね?

片桐 はい、今年もCallbackさんと一緒に施策を行います。今回はNFTを配るだけじゃなくて全部集めた人に対して特典を用意するようなことを考えています。昨年がPoC的な施策だったとすると、今年はNFTを配布してから活用するところを具体的に感じてもらえるようにステップアップしたいなと思っています。Callbackさんの仕組みを使いながら、まさに街を使って。

NFTの画像といっても、極端な言い方をすればただのJPEG画像だとも言えるわけですが、そうではなくて今回のスタンプラリーのように、NFTを集めたらインセンティブ特典をプレゼントしたりとか、NFTが街と人を、ブランドと人をつなぐツールとして活用されていくといいなと思っています。


SIW2023『SHIBUYAのあたらしいお土産 & 国際NFTフェススタンプラリー』

▶︎https://social-innovation-week-shibuya.jp/timetable/event/ex30/

 

久保田 僕らは渋谷の街をフィールドとして仕事をしているんですけど、スタンプラリーのように街の中で人を回遊させるって、すごく難しいじゃないですか。マーケティングとしてはすごくハードルが高いことですよね。

片桐 はい、そのためにやっぱりNFTを集めることで得られるインセンティブをきちんと設計することが大切だと思います。NFTの「配布」や「収集」から「活用」にシフトしていくということですね。
最近、私たちも「Crypto Cafe & Bar」という会員制のCafe & Barを代官山にオープンしたのですが、NFTチケットを持っている人だけが入れるBarみたいな場所をつくって、そこを魅力的にしていくことも有効だと思います。

Crypto Cafe & Bar
https://cryptocafe.bar/

 

NFTを「集める」から「活用する」フェーズへ

久保田 たしかに僕もスマホにウォレットが入ってますけど、入っているだけみたいな状態になっているのも確かで、もっと使い道が欲しいなという思いはすごくありますね。

片桐 たとえば、今日のインタビューを記念して渋谷未来デザインさんがNFTを発行するとしますよね。渋谷未来デザインにインタビューされた人だけが持っているNFTがあるとすると、それを持っている人だけが参加できるシークレットパーティができたりします。そういった強いコミュニティづくりに役立てられますし、他の人がウォレットを見ると、「この人、渋谷未来デザインにインタビューされた人なんだ」っていうのがわかるんですね。誰から誰に、どんなNFTが渡されたのかというのが基本的にはオープンにされるので、ウォレットの中身を見ることで、たとえば「この人はアートが好きなんだな」とか、「この人はクルマ好きだな」といったことがわかります。
音楽フェスやモーターショーで参加証明のNFTが発行されていくと、人の趣味嗜好がわかって、マーケティングの面でも意味がありますし、人とつながっていくコミュニケーションのきっかけにもなるはずです。
そうやって、NFTをまず配ってみるというところから、やっとその具体的な活用のフェーズに差し掛かってきているのかなと思っています。

ディラン ほかにも、NFTの活用ということでいうと、たとえば偽物商品が出回ることの多い高級ブランドのバッグにチップを入れて、それがブロックチェーンのアセットになっているような仕組みも事例として増えてきています。また同じ仕組みでおもしろいのは、イタリアのチーズ。これも偽物が多く出回っていることが問題になっているんですね。チーズって出荷される段階では大きなブロック状なんですけど、その中にマイクロチップを入れて、正しい産地から届いたものであるという証明として活用されています。

久保田 なるほど。和牛とかもあった方がいいですよね。

片桐 あとは、ワインやウイスキーなどは、現物を倉庫に保管しておいて、それに紐づいたNFTをやりとりすることで、倉庫から出し入れする際の商品の劣化や輸送コストの問題を解消することができます。
こうしたRWA(リアルワールドアセット)と呼ばれる仕組みは、たとえば身近な例ではトレーディングカードなどでも活用されていて、NFT化したカードを実物の代わりに売買されるような事例も増えています。

久保田 JPEG画像をただNFT化してデジタル上だけで完結するんじゃなくて、実際にワインだったりアートやカードといった実生活のリアルなモノと紐づけてNFTを活用していくという事例が増えているわけですね。そういったなかで、逆に課題というとどんなことがありますか?

ディラン web3というもの自体が始まったばかりのものなので、まだ多くの人が技術的な部分にこだわってしまっているように思えます。たとえば「このNFTコレクションはどのブロックチェーンを使ってるの?」とかよく聞かれるんですけど、たとえばみなさんEメールを送る時に「どのサーバーを使っているの?」って聞かないじゃないですか。

久保田 たしかに、メールを送るのは普通のことすぎて、わざわざサーバーのことまで意識しないですよね。

ディラン 日本だとweb3はまだその段階だとも言えます。海外ではNFTというものがもっと“普通に”理解されているところも多いです。
でも、日本や渋谷の強さとして、ブランド力があると思うんです。海外で日本のIPを利用して成功しているNFTプロジェクトも多いですし、渋谷をイメージしたサイバーパンク系のNFTコレクションなども流行っています。
これから日本でもweb3が普及すれば、日本のクリエイターから世界中に広がっていくNFTプロジェクトがたくさん出てくると想像しています。そして私たちが日本にいるのもそれが理由です。

久保田 デジタルガレージさんとしては今後、渋谷を起点にしてどんなお取組みをされる予定ですか?

片桐 web3ってまだまだ、エンタープライズ1社が何かをするというよりは、さまざまな企業と、特に渋谷にオフィスを構える企業と、相互で協力してやっていくのが一番いいと思っています。渋谷の街で、クリエイターさんたちとも連携しながら。
私たちだけでやれることは限界があるので、みなさんそれぞれの得意分野を活かして、不得手な部分をお互いで補い合いながら、渋谷という街で、新しいweb3の技術やサービスを発信していきたいですね。渋谷にはそのポテンシャルがあると思います。

久保田 そういう輪をだんだん大きくしていくところは、ぜひ渋谷未来デザインでもお手伝いさせていただきたいと思います。渋谷未来デザインにインプットしてもらえたら、それがたくさんの会員企業のみなさんに伝わっていくようなことが我々の役割のひとつですし、そういったコンソーシアム的な取組みも多く行なっていますので。

片桐 いいですよね。個社ではそれぞれいろんな課題があると思うんですけど、渋谷未来デザインを起点にしながらなにかみんなで一緒にデザインしていくということには可能性を感じます。ぜひそういう部分でもご協力させていただければと思います。

 

■ INFO ■
SIWでは片桐さんの登壇セッションも

SIW2023|11月11日(土)10:00 – 10:40
Conference『TO THE NEXT~変わり続けるエンタメ・テクノロジーとの向き合い方
https://social-innovation-week-shibuya.jp/timetable/event/cf31/

 

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