渋谷未来デザイン(以下FDS)と一般社団法人SWiTCHが中心となり、渋谷の産官学が脱炭素社会についてさまざまな議論を重ねてきた「Carbon Neutral Urban Design(CNUD) MEET UP」。今回の「vol.4」は、渋谷と海とのつながりを感じる機会を提供し、都市生活者の環境意識を高めることを目的とした、SWiTCH主催の取り組み「渋谷で感じる海。」プロジェクトの一環として催されました。
海に面していない渋谷で、海に意識を向けること。それは「一見、無関係に見えることが大きな影響を与えている」という想像力を持つことにつながります。
我々の生活がどのようにして、海にネガティブな影響を及ぼしているのか? 今どのようなアクションが必要なのか? 渋谷の街に暮らしながら海について考える——今回も気付きの多い一夜となりました。
<SPEAKER>
【第1部|プレゼンテーション〜都市と生態系のつながりを考える】
阿部 晋樹 様(NEC デジタルプラットフォームBU プラットフォーム・テクノロジーサービス事業部門 テクノロジーサービス・ソフトウェア統括部 上席技術主幹)
木原 純 様(株式会社 明治 グローバルカカオ事業本部カカオマーケティング部 CXSグループ Cacaoism Discoverer)
馬場園 晶司 様(学校法人文化学園 文化ファッション大学院大学 ファッションクリエイション専攻 ファッションデザインコース主任教授)
小池 祐之介 様(株式会社三菱UFJ銀行 経営企画部 サステナビリティ企画室 調査役)
【第2部|循環型空間アート「From The OCEAN」】
渋谷駅東口地下広場に展示した、廃漁網由来のリサイクル生地(Netplus®)を使用したプランクトンの空間アート作品紹介と制作に参加した小中学生ワークショップの報告
・Lemie.(SWiTCHサステナブルアーティスト ロンドン芸術大学 Central Saint Martins卒)
【第3部|トークセッション〜海と人間の共存の未来】
トピック: ・海の生態系と都市のつながり・ファッションが地球温暖化のためにできること・海洋プラスチックの再資源化の最前線・資源の循環を定着させる社会づくりとは?
篠 健司 様 (パタゴニア日本支社 環境社会部 ブランド・レスポンシビリティ・マネージャー)
高橋 浩平 様 (豊田通商株式会社 サステナブルファッション部)
関 幸太郎 様 (ELLANGE INC.代表取締役)
安田 仁奈 様 (東京大学大学院農学生命科学研究科 教授)
河口 尚志 様 (渋谷区立臨川小学校 校長)
「渋谷を流れている渋谷川の源泉は新宿御苑の池です。その渋谷川は皆さんの生活圏内を流れ、海へと繋がっています。目に見えなくても我々の都市での生活は海と深く関係しています」
セッションの冒頭で、SWiTCH代表 佐座マナさんが渋谷と海の関係について触れます。4部構成となる今回は、産官学の有識者が登壇し、さまざまな角度で海に関する現状、課題、取り組みについて発表していきました。
第1部のピッチでは、NECの阿部さんから「日本人のプラスチックの年間廃棄量は世界4位で、1人あたり37kgを捨てている」(2019年度の調査)ということ、このままでは「2050年には海のプラスチックごみの量が魚の量を超えてしまう」ということが共有されました。そのような未来になら無いために、循環型のリサイクルシステム構築の必要性、環境に良い購買選択を取る重要性を述べ、NECは内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム」に参画し、サーキュラーエコノミーの実現に向け「プラスチック情報流通プラットフォーム」の構築を推進していることを伝えました。
つづいて、チョコレートなどで知られる明治の木原さんは、農地で生産されたカカオの実は実際には3割程度しか活用されておらず、さまざまな素材に転用して新しい価値創造をするための研究開発について現状を報告しました。その事例として、既に商品化している「カカオ果肉」を使用したカカオフラバノールエキス、カカオグラニュールや、カカオ種皮である「カカオハスク」を活用したデニム生地の開発、カカオセラミド、(詳細は株式会社 明治オフィシャルサイト「ひらけ、カカオ。」)について紹介しました。
三菱UFJ銀行の小池さんは、金融機関として投融資を通じてお客様やそのサプライチェーンのネイチャーポジティブな活動と繋がりを持つことで自然資本に影響を与えていることを伝えました。今回は、海洋領域の取り組みを取り上げ、サーモンの陸上養殖事業などのスタートアップへの支援・協働や、持続可能な漁業、湿地や沿岸の保全を支援するブルーファイナンスなど金融機関だからこそ出来る持続可能な海洋経済の支え方を紹介しました。
日本初のファッション分野の専門職大学院である文化ファッション大学院大学の馬場園さんは、大学カリキュラムでサステナブルファッションを取り入れていることや、産学連携しファッション業界が抱える余剰在庫の課題に取り組んだ「アップサイクルプロジェクト」を紹介。新たな価値を創造する実践的な取り組みを行っていることを共有しました。また、再生素材や認証素材を使用した環境負荷の低い衣類のブランドを展開している修了生について共有しました。
第2部では、サステナブルアーティストのLemie.さんによる作品「From The OCEAN」と小中学生とのワークショップの活動報告が行われました。
「From The OCEAN」は2024年8月17〜31日まで、渋谷駅東口地下広場にて展示されていたので、実際に見たという方も多いのではないでしょうか?
この作品は、普段の生活では見ることのないミクロの存在であるプランクトンにフォーカス。微生物であるプランクトンは、海の環境変化をどう感じているのか? この視点を体感できるようにプランクトンを全長8メートルに拡大して展示した空間となっています。この作品は、廃漁網由来のリサイクル生地(Netplus®)を活用した(”循環型空間アート”となっております。空間アートの制作には、文化ファッション大学院大学の修了生や、渋谷区の小中学生も参加しました。
ワークショップの活動報告では、渋谷区の小中学生が考えた「地球を元気にする」プランクトンをLemie.さんが紹介。
汚染水を吸い込み綺麗な水に戻す「おせんすいスイトール」、海に流された油を吸収する「クリーンプランクトン」など実際に存在したらいいな、と思わせる自由な発想に基づくプランクトンたちに、来場者も感心した様子でした。(詳細は「渋谷で感じる海。」特設サイト | プランクトン図鑑)
そして、トークセッション第3部では、産官学民それぞれの立場からキーマンが登壇。各々の視点から海洋環境の現状や、これから重要となるアクションについて発言しました。
渋谷区立臨川小学校 校長の河口さんは、「小学校では、外が暑すぎてWGBT(暑さ指数)が31を超えると外遊びが中止になる。プールにも入れない日がある。そうなると外遊びを通じて得られる言語以外でのコミュニケーションがなかなか育ちにくいと感じている。」と温暖化と教育現場ならではの問題を提起。
つづいて、東京大学大学院の教授である安田さんは、「日本の海の温暖化は世界より進んでいる。日本の南側沿岸の水温の100年間のデータを見ると1.2℃上昇している(世界平均+0.5℃)。草食魚が増え藻類が減り、サンゴが増え日本の海の熱帯化が進んでいる。」と話します。
佐座マナさんはこれらの問題提起を受けて、海のごみの多くががプラスチックごみで、その中で漁網もごみとして海に捨てられている実態を述べ、豊田通商の髙橋さん、パタゴニアの篠さん、ELLANGE INC.の関さんの取り組みの話題へとつなげます。
「ナイロンやポリエステル素材の漁網は重いため、一度海に流出してしまうと回収が難しく、流れてしまった漁網がサンゴや海藻類、魚などに悪影響を与えます。我々は、船と直接契約して使わなくなった漁網を回収することで海洋流出を防止しています。これまで廃棄するのにお金がかかっていたものを、我々が買い取ることで漁師さんにもメリットを感じてもらっていますし、リサイクル原料のトレーサビリティの確保や漁業コミュニティを盛り上げることに取り組んでいます。」(ELLANGE INC.・関さん)
「漁網は比較的リサイクルしやすい資源ではありますが、技術的な要因もあり、ペットボトルリサイクルに比べまだ浸透していません。我々の漁網由来の生地は、台湾でリサイクルをして、国内で生地を開発しています。パタゴニアのダウンジャケット等も漁網のリサイクル生地を使用して頂いています。アウトドアに求められる耐久性はもちろん、機能性や衣装性も重要視し日々開発を行っています。漁網のように、ごみとされている資源が、新しい資源として活用できる技術革新は進んできています。想像力豊かに有効活用を考えることも大切だと思っています。」(豊田通商・髙橋さん)
「我々は、「最良な原材料の使用」「最高の製品作り」「製品の寿命最大化」に対してフォーカスしています。特に原材料においては、環境再生型農業(天然繊維)、二次廃棄物の分別(漁網等)、社会的な価値(フェアトレード等)に注力しています。漁網リサイクル素材は、Patagonia製品の全体で20%使用しています。2025年ゴールに、100%望ましい素材の採用、Forever Chemicalの排除などを掲げております。また、できるだけ長く使ってもらえるような循環の取り組みを行っています。海は我々に沢山の享受を与えてくれていることを忘れず、一つ一つの海洋課題をクリアにし海の再生に取り組んでいきたいです。」(パタゴニア・篠さん)
都市での日常生活ではなかなか海を感じることはできませんが、プラスチックごみ、生活用水、食事など、こうしてあらためて考えてみるととても関わりが深いことがわかります。また、いかに我々が海の資源に頼っているかということも再確認できました。
生物多様性の宝庫である海の環境が維持できなくなると、地球の未来に深刻な影響が出てきます。すべての生態系はつながっていることに想像力をめぐらせ、日常の行動も海に影響があるかもしれないと考える習慣をつけること。そのような一人一人の小さな意識変革が、海の環境を守ることにつながっていきます。