Women’s Wellness Action from Shibuya 2023 キックオフイベントトークセッションレポート

レポート

日時:6月21日 17:00-19:00
場所:GAKU

<登壇>
PwCコンサルティング合同会社 林真依さん(ファシリテーター)
渋谷区議会議員 伊藤たけし さん
株式会社アダストリア 山下和子 さん
株式会社スポーツビズ 鈴木朋彦 さん

 

ジェンダーギャップの解決に向けて。スポーツ、政界、企業が語る女性活躍の可能性

渋谷から国内、世界へ、“女性のウェルネス思考”を発信し、心とカラダの健康を啓発するプロジェクト「Women’s Wellness Action from Shibuya」。その2023年キックオフとなるイベントが6月21日に行われました。そのなかで「日本企業における女性活躍推進」をテーマにした特別トークセッションを実施。PwCコンサルティング合同会社の林真依さん、渋谷区議会議員の伊藤たけしさん、株式会社アダストリアの山下和子さん、株式会社スポーツビズの鈴木朋彦さんが登壇。スポーツ、政界、企業などそれぞれ異なる視点から見た日本社会における女性活躍推進への取り組みについて意見を交換しました——

林さんは女性のライフとキャリアに向き合う中で、2つの発見があったといいます。

「ひとつは人生の選択肢が年を重ねるごとに豊かになっていくということ。そして、その時にどの選択肢を選ぶかを自分の意思で選び続けられるということ。この2つの要素が揃っている人は、とても幸せそうに見える。このような人を増やすために、どんな取り組みをすれば良いのかを考えて日々活動している」

現在、日本のジェンダーギャップ指数は世界146カ国中125位。日本は教育と健康の面では世界トップクラスですが、政治と経済の面では低い評価となっています。特に国会議員や閣僚、行政の区議長などの男女比において、また、政治参画の面では顕著な格差が存在しているといわれています。このことについて、林さんは次のように語ります。

「これまで組織内で女性の活躍の必要性を訴えてきたが、実際に女性が活躍している状態とは一体何を指すのかという議論自体が、日本では十分に行われていないと感じる。”女性活躍”という言葉を聞いた時、みんなが直感的に思い浮かべるイメージは非常にバラバラ。しかし、こうしたイメージをお互いに開示し、共有する場自体が非常に少ない」

一方で、この10年間の女性の活躍に向けた政府の政策により、最近では”女性活躍”という概念が、ダイバーシティ&エクイティ&インクルージョン”へと進化してきました。以前の日本の組織人事制度は、できるだけ全員に平等に適用する画一的な制度でしたが、最近では個別最適な形で公平さを追求する方向に進めることに多くの企業が挑戦しています。

現代の日本の女性は教育とキャリアの進展により、出産が減少し、月経障害が増加しているといわれています。これに対応するフェムテックやフェムケアの技術が注目集めるほか、セルフケアツールやオンラインでの専門家相談も可能になっています。企業では、知識習得のセミナーや卵子凍結についての情報提供などが行われています。ただし、技術活用の倫理的な問題とキャリアバランスを考慮し、個別の解決策が求められるため、東京都はこれらの取り組みを支援しています。この状況を踏まえて、林さんは企業が女性の健康問題に取り組むべき理由について、こう説明します。

「PMSや更年期症状などの健康問題により、女性が昇進を躊躇したり、仕事を辞めたりする割合が高いことが報告されているが、これは組織にとっても損失となる。こうした事を念頭に置きながら、企業と協力して取り組み方を共に考えていきたい」

「渋谷・表参道 Women’s Run」のレースディレクター・事務局長を務める伊藤さんによると、現在、50代の女性の参加者が主要な参加者層になっています。このことは意識の変化により年齢が上がってもスポーツを楽しむ女性が増えていることを意味します。参加者の体力面も考慮し、イベントでは初参加ランナーが参加しやすいようにデビュー枠を設け、若いランナーやスポーツ愛好者を発掘する取り組みを行いながら、幅広い女性のスポーツ活動をサポートしています。

また伊藤さんは渋谷区議会議員の立場から女性の政治参加についても言及。以前は女性議員数が少なく区議会は男性中心の社会でした。しかし、2019年にその潮目が変わり、渋谷区議会の女性議員の数が11名になり2桁台になったといいます。このような渋谷区議会に訪れた変化について伊藤さんは次のように語ります。

「その時の私の所属する会派は、女性5人と男性3人の8人で構成されていたため、会話の雰囲気も変わってきた。それ以降、女性議員の数は増え続け、今回の選挙では34人中15人が女性議員になった。渋谷区では現在、女性議員の割合が約45%になり、杉並区でも半数が女性になっている。女性区長も増えてきており、政治の領域でも変化が見られる」

鈴木さんは、スポーツ界から見た女性の活躍の現状と課題について説明しました。鈴木さんによるとスポーツ界では、近代オリンピックの初期から女性の参加率は低かったが、徐々に増加が見られ、東京オリンピックでは女性の参加率は48.8%に達していたといいます。またメダルの数も女性の方で増加傾向にあり、2018年の平昌オリンピックでは女性のメダル数が男性を上回っています。一方で、女性アスリートは女性特有の悩みや体のコンディションの変化などに直面するが多く、またそのときの若いアスリートの知識不足や相談できる相手の不足も課題になっています。鈴木さんは、この問題の一因として、女性指導者の不足を挙げ、次のように語りました。

「スポーツ界では、女性指導者の数が不足しており、特に女子選手に対する女性指導者の不足は顕著になっている。その対策として、部活動の地域移行や女性アスリートのセカンドキャリアを支援する取り組みが行われている。運動部指導者の資格取得や地域でのスポーツ指導が提案されるなど、これらの課題に対して、スポーツ界側もサポートを行い、女性の活躍を促進していく意欲がある」

山下さんが務めるアダストリアは全社スタッフの約70%が女性ではあるものの、上級職に進むほど女性の割合が減少しているといいます。アダストリアではこの問題に対処するため、2019年に女性管理職の割合を45%以上にする目標を設定。また上級職レイヤーでは女性の割合を30%以上にすることにも取り組んでいます。

アダストリアは人事制度では、子育て支援制度を導入するほか、男性の育休取得を推進しています。さらに法改正により、男性の育休取得率は100%に達しているといいますが、山下さんは「この取り組みを継続するためには本人や上司のサポートが重要だ」と述べました。また社員参加型のイベントやキャリア形成支援などの取り組みを通じて企業風土づくりを行っていますが、「特に女性部長などにはメンター制度を導入し、不安や課題に対するサポートを提供している」と山下さんは語ります。

「健康経営にも力を入れ、自社の健康保険組合やアダストリアウェルネスコミュニティを通じて、健康課題に取り組んでいます。さらに、ダイバーシティミーティングを通じてリーダーシップ講演会やキャリアに関する勉強会を開催し、LGBTQに関する課題解決の取り組みも行っています」

またアダストリアでは経営層の意識改革が進められていますが、執行役員以上のポジションは現在すべて男性であるという状況です。しかし、経営会議においても男性が主体であるこの状況に疑問を抱く声があったことで状況が変わってきたことについて、山下さんは次のように説明しました。

「経営陣も徐々に女性の参画の重要性を認識し始めており、去年から従業員の女性が経営会議に参加する取り組みが始まったことにより、経営会議の雰囲気が柔らかくなった。また、人員配置においても女性を組織トップに積極的に配置するだけでなく、そのトップが自身の得意分野を活かせるようなスタッフのサポートも行われている」

 

トークセッションの後半では4人が意思決定層の女性の少なさに関する構造的課題を明らかにし、それを解決していくための取り組みについて、意見交換。

アダストリアの経営会議に女性が参加するというアイデアが生まれたきっかけについて、「経営会議への女性参加のアイデアはトップの発想から生まれた。しかし一方で、役員の中には女性参加の必要性に疑問を持つ人もいた」と山下さんが説明。その上で山下さんはこう述べました。

「私も去年、女性メンバーの1人として経営会議に参加した。参加してみて感じたのは、上層部の役員たちも言葉遣いに気を使ったり、表情や話し方が変わってきたりする様子が目に見えてわかった。少しずつ変化が進んでいく様子を見て、そのアイデアが素晴らしいものだと実感している」

またスポーツや政治の世界でも似たようなチャレンジはできるのかという質問に対して、鈴木さんはスポーツ界では男性が主導するトップ層があり、女性理事増加のための取り組みの必要性が伝わりにくい状況が続いていると現状を説明。また優秀な女性がいたとしても現場での労働環境が厳しい部分もあるため、女性にとってはリスクを感じることがあるといいます。

「そのような状況では、女性の心理的安全性が確保されなければ、積極的に参加することは難しいと感じています。この問題を解決する方法の1つとして、他人とのコミュニケーションにおいて心理的な抑圧の少ないリモート会議などDXツールの道入が考えられる」

一方、伊藤さんは、渋谷区議会では女性の割合が半分近くを占めており、幹事長会や議会運営委員会でも女性の参加が増えていると説明。しかし、対照的に役所の課長職以上は男性が主体となっていますが、その理由は議会への報告や議案の提出という業務にも関係があるといいます。

「議会への報告や議案の提出は意見の強い人間が登場して、質問や指摘が行われるため、かなりのプレッシャーがかかる仕事。課長職の試験もあり、何年かの経験が必要であり、まだ女性が2割から3割程度であると感じる。しかし、男性理事者の中にも適していない人や答弁がきちんとできていない人は多い。一方、女性はしっかりと勉強し、きちんと回答し、自分の考えを持っている印象があり、徐々に女性が台頭している。また渋谷区議会の女性の割合は他の特別区よりも大幅に高くなっているが、これは女性が増えてほしいという有権者の声が反映されているからだと思う」

 

今回のトークセッションで語られたように日本社会において、女性の活躍をより推進していくためにはさまざまな課題があります。しかし、ダイバーシティ&エクイティ&インクルージョンを念頭に置きながらこの課題解決に取り組むことで、誰もが活躍できる組織・社会づくりが実現していくはずです。

 

Women’s Wellness Action from Shibuya
https://womens-wellness-action.com