今後の地球の未来を動かしていくのはZ世代を含む若者世代です。地球の環境・気候変動の問題に対して、世界中の若者たちがアクションを起こしていますが、日本ではどうでしょうか?
渋谷未来デザイン(以下FDS)と、サステナブルな社会を構築するためのプラットフォーム 一般社団法人SWiTCHの連携により運営される「SHIBUYA COP ACADEMY」2023年度第1回目の開催も昨年に引き続き、学生、企業、行政の垣根を越えた参加者が集まりました。
今回の「SHIBUYA COP ACADEMY」では、まずSWiTCHの代表理事 佐座槙苗さんが、地球環境および気候変動の基礎知識のおさらい、最新のIPCC情報の紹介、そして、若者側の視点で気候変動と向き合うためのアイデアを交換するセッションの3つのポイントを紹介しました。
佐座さんは、日本の気候変動への意識が低く、世界の先進国の中で最も低いランキングになっていることを指摘。日本のメディアでは気候変動に関する情報があまり取り上げられず、他の国々では頻繁に報道されていることを問題視しているといいます。また、「メディアを通じてサスティナブルな情報を広める大切さや、事業者が新たな取り組みやPRを推進する必要がある」と語りました。
気候変動に対するイメージについて、日本人の多くが自分の生活の質を脅かすものと考えている一方、世界の人々は気候変動への取り組みによって生活の質が向上する可能性があるという逆の考え方を持っています。
そのため、佐座さんは、「日本では気候変動対策は地味でダサいというイメージがありますが、新しく楽しい方法を提示することでイメージを転換できる」と提案します。
現在の気候危機の現状として、過去1年間ではパキスタンで3300万人が洪水によって、被災したほか、その前年にはカナダで500人が山火事で亡くなるなど、気候による災害が進行しています。
その後、佐座さんは、海面上昇による影響について参加者に質問。海面が1メートル上がると日本の砂浜の何割が消失するかについて、会場からさまざまな回答があがり、実は砂浜の9割が消失することが紹介されると、驚きの声が上がりました。またこれにより不動産の価値への影響や、都市機能の移転が必要になるという深刻な状況もあることを明らかにしました。
また、海面上昇やゴミの問題は国境を超えた課題で、日本だけではなく世界との連携が重要です。
さらに、世界中の人々が日本人のような生活を送る場合、地球が2.9個必要であるというデータが紹介され、「地球は1つしかないため、生活の変革が必要である」と佐座さんは指摘します。
またSDGsには17項目ものゴールがあり、複雑で理解しにくいものの、生態系が安定している上にこそ、社会や経済が成り立つという点を強調し、逆に生態系が不安定になると「私たちの生活やビジネスは維持できない」と述べました。
現実的な問題として、地球の資源は有限であり、過剰な消費は持続できません。これまでの日本は、経済と社会に重きを置いてきましたが、これからは生態系をベースに、3つの要素がバランスをとる流れを作っていく時代になります。
また佐座さんはプラネタリーバウンダリーの図を紹介し、3つの項目がすでに限界を超えていると警告。まだ限界を超えていない項目について緑の安全ゾーンに保つようにする必要があると説明しました。
さらに教育においてもSDGsやプラネタリーバウンダリーを基に考えることの重要性を強調。「曖昧な目標では十分な変化はもたらせない」と述べました。
温暖化について参加者同士のアイデア共有に続いて、佐座さんはIPCCとそれに基づく気候変動への対策について説明。ネットゼロ、循環型社会、ESG投資、再エネ、持続可能なサプライチェーンなど、気候変動に関連する多数の重要なトピックが紹介されました。
グループワークの後、佐座さんは去年のCOP27での三つの行動指針―「Ambition(野心)」、「Action(行動)」、「Accountability(説明責任)」について説明しました。
1つ目の「Ambition」では、より野心的な目標設定が必要であるとし、特に、2050年までの目標ではなく、2040年までにネットゼロを達成するような目標を立てるべきだと述べました。
2つ目の「Action」では、具体的な行動を起こすことの重要性を強調。「解決策やツールは既に存在しているので、これらを使って2040年の目標に向けたアクションを行う必要がある」と述べました。
3つ目の「Accountability」では、企業の説明責任について、自社がどれだけCO2を排出しているか、資源をどれだけ使っているかなどを公開しながら、継続的に改善を進めるべきだと指摘。「この3つを中心に据えながら脱炭素化に向けての対策が議論されている」と述べました。
IPCC(国際気候変動評価報告書)は国際的な気候変動に関する科学者の集団が作成する報告書で、各国政府の推薦を受けた科学者たちが参加しています。その作成には66カ国以上の科学者たちが参加し、長年かけて報告書を作成します。また、その目的は人為的な気候変動のリスクについて科学者が話し合い、政策立案者へ提案することです。
最新のIPCC報告書は今年3月20日に発表されましたが、この報告書の作成には、気候変動の影響や脆弱性についての研究者234人、その他の研究者270人、そして気候変動の軽減についての研究者270人が8年かけて取り組みました。
IPCCの報告書がなぜ注目されるのかについて、佐座さんはこう説明しました。
「この報告書は単なる報告書ではなく、国の政策方向性を決定する際の重要な参考資料です。だからこそ、BBCやニューヨークタイムスなどの国際メディアが大規模に報道し、地球環境の危機を伝えています。さらに、ビジネスリーダーたちもこの問題を真剣に受け止め、自らの行動変革が必要だというメッセージを発信しています」
サステナビリティに取り組むリーダーの中には、ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)、マーク・カーニー(前イングランド銀行総裁)、ラリー・フィンク(ブラックロックCEO)などの著名なビジネスリーダーたちも含まれており、気候変動を防ぐために自身のビジネスを変革し、新しいサービスの展開しているそうです。
「彼らのような著名なビジネスリーダーたちは、政府だけでなく、自分たちも気候変動に対する責任を持つべきだという考え方を持っています。彼らは企業の変革を求める強い意志を持ち、その影響力を使って組織内の人々を行動へと導いていることも明らかになっています」
また日本でもビジネス界の人々を巻き込んで持続可能性を推進する動きが増えており、その一環として「GXリーグ」が立ち上がりました。これは政府、企業、学界、一般市民が連携して進行する取り組みで、再エネ関連ではJCLPや日本気候変動イニシアティブ、チャレンジゼロなどの連合が形成されています。
これらの取り組みはまだ始まったばかりであるものの、早期に参加することで、ルール作りに影響を与える主要プレイヤーになることが可能で、それが業界のリーダーシップを握る鍵になる可能性があります。
佐座さんは気候変動対策には3つのポイントがあるといいます。
まずは、省エネ、再エネ、エコカーなどを利用し、気候変動を引き起こす要因を減らすこと。
次に、災害対策や熱中症対策、水資源の利用方法の改善など、既に起きている気候変動に適応すること。
最後に、気候変動の被害を受けている地域の人々を支援することです。
これらの中でも、最も重要なのは緩和策で、2050年までに削減可能な温室効果ガスレベルや、石炭火力発電の停止、建築時の脱酸素化、EV自動車への移行、フードロスの削減などが具体的なアクションとして挙げられます。
出典:IPCC AR6. (出所:World Resources Instituteより和訳)
このような取り組みについて、佐座さんは、「何から始めたら良いか分からない人は、IPCCで推奨されているアクションリストからスタートすることで、対策を進められる」と語ります。また、各人や組織の取り組み状況には差があるものの、「提案されているアクションはすでに国際的な取り決めとして定められており、一般的に実行されるべきものとなっている」と述べました。
その後はグループに分かれて、若者からの視点を共有し世代を超えた対話を行うための「リバースメンタリング」を体験してみる時間に。若者側の視点からの提案など活発な意見交換、発表がありました。
最後に佐座さんはこの日のまとめとして、「気候変動の問題に対する取り組みにおいて、仲間意識の構築が重要となります。自治体、若者団体、企業など様々なプレーヤーとの積極的で楽しい対話を通じて、IPCCの課題への解決策や次のステップについて深く考えることができます」と参加者の今後の取り組みについてに提言しました。
今年度初となるSHIBUYA COP ACADEMYは、IPCCに関する5つの主要なポイントを議論するための場となりました。このような場で、世代を超えた対話が日常的に簡単に行えるようになること、そしてその対話が企業文化に組み込まれ普及することにより、気候変動問題に取り組む組織のパフォーマンスが最大限に向上すると期待されます。
次回の開催は7月を予定しています。引き続きSHIBUYA COP ACADEMYの活動にご注目ください。