『抗酸化ストレスを考える アーモンドで抗酸化!』
日程:1月27日(月)16:00-18:00
場所:GAKU
参加費:無料(招待制)
登壇者:井上浩義さん(慶應義塾大学 医学部 化学教室教授 医学博士 理学博士)
RIBEKAさん(ラジオパーソナリティ/バイリンガルMC)
長田新子(渋谷未来デザイン)
江崎グリコと渋谷未来デザインのウェルネス向上プロジェクト「わたしたちのウェルネスアクション」がコラボレートし、みんなで心身の健康を考えるイベントが1月27日に行われました。そのなかで「酸化ストレスとウェルネス」をテーマにした特別セミナーを実施。慶應義塾大学医学部教授の井上浩義さん、ラジオパーソナリティ/バイリンガルMCのRIBEKAさん、渋谷未来デザインの長田新子が登壇し、酸化ストレスという観点から、現代女性の健康とアーモンドの抗酸化作用が紹介されました。
セミナーの冒頭、長田は不規則な生活習慣や食生活、睡眠の乱れから生じる酸化ストレスについて問題提起を行いました。これを受け、まず井上さんは酸素と人体の関係性から説明を始めました。

「地球は珍しい惑星で、酸素があるがゆえに水が存在し、我々は酸素を利用してミトコンドリアで大きなエネルギーを作り出すことができる。しかし、40歳を過ぎるとこの酸素が私たちに悪影響を及ぼすようになる。それが活性酸素です」
人間の体内では生きていく過程で必然的に活性酸素が作られ、外部から侵入する細菌やウイルスから体を守る重要な役割を果たしています。しかし、作られた活性酸素が過剰になると、体にとって有害な影響をもたらす可能性があると井上さんは指摘します。
「人間の体内には、SODやカタラーゼという酵素があり、余分な活性酸素を除去する働きがある。しかし40歳を過ぎるとこれらの酵素が急激に減少し、100%あった機能が20%程度まで低下する。つまり、作り出される活性酸素の量は変わらないのに、それを制御する機能が著しく低下することになる」
この活性酸素による影響は、特に動脈硬化との関係が深いと井上さんは説明。動脈硬化の発生には「酸化ストレス」「マクロファージ」「LDLコレステロール」の3要素が関係しており、このうちの1つでも抑制できれば動脈硬化を防ぐことができるといいます。
さらに井上さんは、酸化と糖化の関係についても次のように述べました。
「酸化と糖化は同時に進む。酸化でタンパク質が傷つくと、それに還元糖がくっついて糖化が進む。また、活性酸素を消すSODとカタラーゼは糖化されると働かなくなるため、糖化が進むと酸化も進んでしまう。このように酸化と糖化は常に一緒に進行していく」

最近の自身の体の変化を語ったRIBEKAさんは、ここまでの井上さんの話を聞き「これまで通りの生活習慣や食生活を見直していくことが大事になると思った」と述べました。これに対し井上さんは、若いうちから食習慣を整えることの重要性を強調。その上で、健康管理について、投資という観点からこう語ります。
「機能性食品でバランスよく食事することは、確かにコストがかかる。特に今のように食品の価格が高騰している中では、スーパーの閉店前セールで惣菜を買う方が自分で作るより安いのは事実。しかし、この投資をすることで40歳以降に大きな差が生まれてくる」
さらに「現在、男性の平均寿命は82歳、女性は87、88歳まで伸びている。40歳からでもまだ50年近い人生がある。この後半生をいかに過ごすかが、人生を決定づける重要な要素となる」と現代の平均寿命を踏まえた長期的な視点から健康について考える重要性にも言及しました。
セミナーでは続いて、抗酸化作用を持つ栄養素の説明が行われ、井上さんは抗酸化物質を大きく3つに分類して解説しました。
「口から摂取できる抗酸化物質には、水溶性ビタミン、脂溶性ビタミン、そしてポリフェノールの3種類がある。ただし、これらは体内での働き方が異なる。例えば、血液中に溶けるビタミンCは細胞膜まで届かない。細胞は脂質でできているため、油に溶けるビタミンEが効果的だ」
具体的な食品としては、ビタミンCは赤パプリカやブロッコリー、ビタミンEは鰻やかぼちゃ、アーモンド、アボカドに多く含まれており、ポリフェノールは緑茶のカテキン類や大豆、そば、ワイン、チョコレートなどに豊富に含まれていると井上さんは説明します。
そして、これらの抗酸化物質を効果的に摂取する食材として、アーモンドを取り上げました。井上さんはまず、アーモンドはバラ科サクラ属の植物で、日本人の約0.5%にアレルギーがあることを説明。私たちが食べているのは果肉ではなく、殻の中にある“仁(にん)”の部分で、およそ1万年前から食されてきたことが遺伝子解析でわかっているといいます。
アーモンドの栄養価について、井上さんはこう説明します。
「昔は栄養不良が多くの人類にとって大敵だった。その中で55%の油を含むアーモンドは滋養強壮の面で非常に優れた食べ物。炭水化物とタンパク質は1g当たり4kcalだが、脂肪は1g当たり9kcalである。つまり、同じ1gを食べても、脂質は2.25倍のカロリーを摂取できる。少ない量で大きなエネルギーを得られることから、かつては王侯貴族の薬として使われていた」
次にアーモンドに含まれる脂質の特徴について、「アーモンドの油はオメガ9系のオレイン酸で、これはオリーブオイルと同じ種類の油だ。そのため、地中海料理やビーガン、ベジタリアン向けの料理でもよく使用される」と説明しました。
また、アーモンドには、タンパク質が20%含まれていますが、これは畑のお肉と呼ばれる大豆の30%に次ぐ高たんぱくな含有量です。一方、炭水化物は11%と比較的少ないため、ロカボ食を実践している人にも適していると述べました。
さらに食物繊維の豊富さも指摘。その上で井上さんは「レタス100gに含まれる食物繊維が1.1gなのに対し、アーモンドはその9.2倍もの量を含んでいる。しかも、アーモンドの食物繊維は短く、腸内環境を整えるのに適している」と説明しました。
特にアーモンドの薄皮に含まれるポリフェノールについて、「サーチュイン遺伝子を活性化するエラグ酸が含まれている」と指摘。「サーチュイン遺伝子は10年ほど前から注目されている若返り遺伝子で、これがオンになると古くなった細胞や傷ついた細胞を除去するオートファジーという機能が働く。人間の体は、オートファジーがきちんと働けば、古い細胞は壊され、新しく健康な細胞が作られる」と述べました。
井上さんはアーモンドの効果的な摂取方法について、「体重に応じて調整が必要だが60kgの人で1日約25粒(25g)が目安だ」と説明。さらに摂取のタイミングの重要性も指摘しました。

「アーモンドは朝に摂取することが望ましい。人間は午前中に酸化しやすい。就寝中は1分間の呼吸数が10〜18回程度だが、起床後は2.5倍に増加する。それだけ肺に入る酸素量が増え、活性酸素が作られやすくなる」
井上さんの研究室での実験では、アーモンドに含まれるビタミンEには、紫外線によって減少するグルタチオンの低下を防ぐ効果があることも確認されています。また、6ヶ月間のアーモンド摂取で、通常は年齢とともに上昇する糖化最終産物(AGE)が20%も減少したという研究結果も示されました。
さらにアーモンドには意外なダイエット効果もあるといいます。
「私たちの研究室での実験によると、1日25粒を6ヶ月間継続して摂取すると体重の減少が見られた。最も効果が出た例では15kgの減量に成功した。これは便通が改善されたことが大きな要因だ。特に便秘傾向の人では、便通回数が平均で1.8回増加した」
続いて井上さんは、アーモンドの手軽な摂取方法としてアーモンドミルクを紹介するとともにその作り方についても説明しました。
「前日にアーモンドを水に浸し、ミキサーで撹拌するだけで作れる。水の量はアーモンドの20倍程度で、500mlのアーモンドミルクを作るのが適量。ポリフェノールが豊富な薄皮も一緒に使うことで、より効果的に栄養を摂取できる」
このように効果的に栄養を摂取できるだけでなく、アーモンドミルクは環境負荷の観点からも注目されています。井上さんによると、牛乳の生産には多くの水や石油が必要となりますが、アーモンドミルクはより環境負荷が少ないとのことです。このような背景もあり、欧米ではアーモンドミルクの需要が急速に拡大しているといいます。
RIBEKAさんからアーモンドの摂取量の上限について質問が投げかけられると、井上さんは「アメリカでは1日80粒での試験も行われているが、日本人の場合は25粒程度で十分な効果が期待できる」と回答。さらにアーモンドミルクの栄養価と効能については「牛乳や豆乳に比べて低カロリーであり、食物繊維も豊富に含まれている。現代人は水分が不足しがちなので、水分補給と栄養摂取を同時に行える」と述べました。
最後に井上さんは、アーモンドを食生活に取り入れることについて、こう語ります。
「アーモンドはちょっと値段が張ると思う人も多いが、アーモンドを食べるだけで健康になるというよりも、アーモンドを食べているという意識を持って過ごすと、例えば『1駅分だったら歩こうか』という健康志向の気持ちも生まれてくる。ぜひ、アーモンドを自分の生活習慣の見直しの一つのきっかけにしてほしい」
このように、本セミナーでは40歳以降の健康管理における酸化ストレス対策の重要性が示されるとともに、アーモンドを活用した具体的な実践方法が提案されました。特に井上さんが指摘した「40歳以降の50年」という人生の後半戦において、いかに質の高い人生を送るかということは、高齢化社会を迎えた現代の日本で暮らす多くの人々にとって大きな課題です。
そのことを踏まえると、今回アーモンドという食材を通じて示された「自分の生活習慣を見直すきっかけづくり」は、これからの時代におけるウェルネスについて考えていく上で大きなヒントとなりそうです。