9月3日(土)に開催された「もしもフェス渋谷2022」では、「官民連携で高める都市防災についてのトークセッション」が行われました。
官民連携で高める都市防災についてのトークセッション
2022年9月3日(土)14:00~14:45
<登壇者>
児玉 知浩(株式会社INFORICH取締役副社長)
河村 玲(株式会社良品計画執行役員ソーシャルグッド事業部長)
田村 知彦(株式会社良品計画ソーシャルグッド事業部いつものもしもプロジェクト リーダー)
行廣 勝哉(渋谷区危機管理対策部 防災課長)
長田新子(一般社団法人渋谷未来デザイン理事・事務局長)
都市生活において、防災は自治体やそこに住まう住人たちだけで取り組むものではなく、その街に訪れる来訪者やそこで働く人々にとっても非常に重要なトピックです。現在は、渋谷区でも多くの企業が官民連携でこの問題に取り組んでいます。このトークセッションでは、まず始めに行政と事業者がそれぞれ取り組む事例が紹介されました。
日本全国に「無印良品」の店舗を持つ良品計画では、東日本大震災をきっかけに、日常的に消費者が使用しているものを災害時でも使えるようにする防災プロジェクト「いつものもしも」を開始しました。このプロジェクトでは、これまでに新潟、長野、広島などで地域の防災のために地方自治体とともに防災イベント「いつものもしもCARAVAN」を開催するほか、防災セットの「いつものもしも備えるセット」も開発。いつもの暮らしの中に備えを組み込んでいくことの大切さを伝えています。
一方、INFORICHのスマホ向けモバイルバッテリー貸し出しサービス「ChargeSPOT」は、普段はスマホや電子タバコのチャージ目的で使われていることが多いとのことですが、例えば、貸し出されるモバイルバッテリーとスマホとを組み合わせることで災害時は通信だけでなく、ライトとしても使うことができます。また災害時は48時間の無料貸し出しを行うほか、デジタルサイネージで災害時の情報を発信するほか、渋谷区とも防災協定を結び、行政と提携しながら都市の防災に取り組んでいます。
渋谷区とINFORICHの提携の背景には、「スマホが充電できなくて困るという災害事例が実際にあった」と語る行廣さんは続けて、こう語ります。「地域の防災力を高めるためには若者に防災意識を持ってもらうことが不可欠。そのために渋谷区の長谷部区長が防災フェスとして、もしもフェス渋谷を開始した」と。今後は若い世代の防災意識をより高めていくためにもしもフェス渋谷をコンパクトにしたキャラバンも行う予定とのことですが、防災意識を高めるためには公助だけではなく、自助、共助が大事になってくるといいます。
それを受けて、「いつものもしもプロジェクトでは、「いつものもしもCARAVAN」を通して、参加者の防災意識が高まることで防災力が上がる。フェスのような形にしたことで親子で防災について学ぶ人も多い」と河村さん。児玉さんも「海外でも防災意識が高い国はモバイルバッテリーの重要性に気が付いている」と語るなど、民間企業の取り組みが都市の防災に繋がっていることを示します。
また行廣さんは「仕事や遊び目的で渋谷にやってくる人は多い。区民は23万人だが、昼間人口はそれを大きく上回る。そのため、もし昼間に地震が起これば帰宅困難者が続出することが考えられるため、避難マップの作成が求められていた。例えば、東日本大震災時は、公共交通機関が停止しても帰宅困難者の中には徒歩で帰宅できる人もいたが、首都直下地震となると揺れはもっと強くなる。そうなると歩いて帰宅するのは危険だ。その場合は地域の避難所に行き、そこから動かない。そういったケースも考えられるため、帰宅困難者を一気に帰宅させないのも都市の防災のひとつだ」と住人だけでなく、各地から人が集まる渋谷区ならではの防災プランについて説明しました。
その後、登壇者がそれぞれの立場で官民連携の防災で感じる課題について語る一幕も。児玉さんは「自治体にモバイルバッテリーやデジタルサイネージを導入してもらう際に役所の縦割りによってうまく話が進まないことがある」と語りました。一方、「企業としても自治体と協力することで関係性を強めたい。今回のような防災フェスに企業が参加して関係性を深めることで今後、できることが増えていく」と語ったのは河村さん。それを受けて、行廣さんも「いざ、首都直下地震のように大規模な地震が起きれば、行政だけでは対応は難しい。例えば、同時多発的に火事が起きた場合は消防の手が回らないことも考えられる。そうなれば、行政の支援が届くまでは自助共助でがんばってもらうしかないので、本当に自助共助は大切。そういった状況に対応していくためにも民間企業の力が必要になる。渋谷区としても今後より多くの民間企業と防災協定を結んでいきたい」と官民連携で防災に取り組む重要性について語りました。
また児玉さんは民間企業同士が防災協定を結ぶことについては、こう語ります。「良品計画さんとINFORICHでも今後、民間企業同士で提携しながら防災に取り組んでいきたい。たとえば今、INFORICHはNTTドコモさんの店舗内にもChargeSPOTを置かせて頂いている。それは災害時の余剰バッテリーにしてもらうことを想定してのものだが、同じことは良品計画さんともできるはず。ただ、民間企業同士なのでそこで利益をどう生むかを考えることも重要になる」と。
最後に、今後の防災に関する取り組みの抱負として、田村さんが「来年は関東大震災から100年の節目。防災意識が高まるタイミングなので、行政が関わるそういったイベントにも協力していきたい」と語ったほか、「来年は渋谷、新宿、豊島区で同時にもしもフェスをやりたい。良品計画はどの区にも店舗があるので、そういったつながりを使って、行政同士もつなげていけたらと思う」と河村さん。
また行廣さんは「渋谷区の防災キャラバンには是非とも良品計画INFORICHさんに協力してもらって、官民連携で取り組みたい」、児玉さんは「災害時は普段から人が集まりやすいエリアに避難所が設けられる。民間企業としては、そういうところにChargeSPOTを置いておくことで、我々と行政、そしてそれを利用する人の間に”三方よし”の関係を築けるはず」と語りました。
行政と民間企業とでは、それぞれが持つリソースや取り組んでいることも異なりますが、さまざまな人が集まる都市の防災は官民連携で取り組む必要があります。両者がそれぞれの得意な分野を出し合い、協力していくことで誰もが安心して暮らせる防災力の高い社会が実現する。そのようなことを改めて実感できるトークセッションでした。