災害時でも女性がウェルネスでいるには? 多様なセクシャリティの視点で考える【もしもFES渋谷2022レポート】

レポート

9月3日(土)に開催された「もしもフェス渋谷2022」にて、女性が日々直面する女性特有の健康課題への認知を拡大し、解決のための行動を促進するプロジェクト「Women’s Wellness Action from Shibuya」によるトークセッションが行われました。

「災害時女性のココロとカラダを守るための備えと心構え」
2022年9月3日(土)12:00~12:30
<登壇者>
小野 美智代(公益財団法人ジョイセフ)
山本 朝陽(ミュータントウェーブ)
大嶋 悠生(ミュータントウェーブ)
大川 政美(ミュータントウェーブ)
長田新子(一般社団法人渋谷未来デザイン理事・事務局長)

 


 

2022年3月の国際女性デーに活動を開始した「Women’s Wellness Action from Shibuya」は、「女性の健康が世界を変える」をスローガンに、女性が日々直面する女性特有の健康課題への認知を拡大し、解決のための行動を促進するプロジェクトです。

「女性のウェルネス」とは、女性が心身ともに健康である状態を指し、例えば、月経中に生理ナプキンやデリケートゾーンをケアできる状態は、女性の性にまつわる権利がウェルネスな状態にあると言えます。国際NGOの一員として、これまでに東日本大震災など数々の災害地で支援活動に取り組んできた経験から、小野さんは「災害時は女性のウェルネスを保つことが難しくなる」と語ります。

災害によって、被災地の女性が普通の生活ができなくなって困るのは、お風呂やトイレで水が使えなくなることです。「そういった状況では、生理中であっても女性はそのことを伝えづらい。そのため避難所のお風呂に入りたくても生理中の女性は入れず、仕方なく電気も水道も止まった家の中でこっそり過ごすしかない」と小野さん。

そんな時に女性たちから求められるのがナプキンやデリケートゾーンのケアキットです。例えば、避難所にトイレは用意されたとしても、ナプキンが用意されているとは限りません。また災害時は洪水で自宅が流されるなど、普段の生活で使っているものが手に入らなくなることが考えられます。その対策として、小野さんは「普段から災害時でも女性のウェルネスを保つための備えが必要だ」と指摘します。

一方、そのような状況では、戸籍上女性から男性になったFtMトランスジェンダーの場合、自身のウェルネスを保つ上でどのようなことが課題になるのでしょうか?

小野さんの質問に対し、大嶋さんは「男性器がないため、お風呂に入ると周りが困惑するので入りづらい。行政にはそういう人にも対応してもらえると助かる」と回答。山本さんは「自分たちはいつもホルモン注射を打って男性の身体になっている。友人の話だが震災で病院に行けなくなると注射も打てなくなる。そうなると更年期障害の症状が出てくるなど、眠気や疲れやすくなり、身体に不調をきたすことも考えられる。また戸籍を変えていないと夫婦でも同じ施設にいれてもらえなくなることもある」と続けます。

それを聞いた大川さんは「正直、ひと事だと思って、災害時に自分たちのウェルネスを保つことについては、これまであまり意識してこなかった。今、2人の意見を聞いて確かにそうだと実感した」と答えました。

3人の意見を受けて、小野さんは、「緊急事態対応は、状況が状況なだけにどうしても多様性という視点が欠けてしまうところがある」と指摘。「やっぱり災害時はそういったケースもあるため、普段から女性がウェルネスでいられる状況を想定しておくことが大事。特にFtMトランスジェンダーの方には、これまで自分も被災地であまり出会ったことがなかったので、そのことをもっと考えていく必要があることを実感した」と語りました。

一方、大嶋さんは「トランスジェンダーであることを公にしたがらない人もいるし、そういった問題について発信する人も少ない。だからこそ、僕たちが積極的に発信していくことで多くの人が生きやすい環境が生まれると思う」と発言。長田も「そういったセクシャリティの人に対する周囲の理解が深まっていくことで、災害でみんながパニックになってしまっている時でも、サポートしてくれる人が増えていく」と語り、大嶋さんの意見に同意しました。

また長田は、全国の学校を周り、ジェンダー教育にも取り組むミュータントウェーブの3人に今後、YouTuberとして、震災対策で取り組みたいことについても質問。その際には「FtMの視点だけでなく、元々女性だったという視点でも災害時に求められる対策を伝えていく」といったことが語られました。

トークセッションの終盤では、今後の防災意識についても意見交換。大川さんが「これを機に自分自身が災害に直面した時に何ができるか、そして、自分以外の人に対しても何ができるかを考えていきたい」と語ったほか、「立場の違う視点の意見をもらうことができた。災害の対策を考えていく上では、そういった立場の違う人とも繋がっていくことが大切だと改めて実感した」と小野さんが今回の学びを口にしました。

大川さんや小野さんが語るように普段からそのことを心がけていけば、災害時でも女性に限らず、多様なセクシャリティの人々がウェルネスでいられる社会が実現するはずです。