《循環》と《つながり》— 都市の真ん中のファームで見い出す“お金よりも大切な価値”

安西美喜子さん(原宿はらっぱファーム)

渋谷区神宮前、都心の真ん中にぽかりと生まれた1年限りの農園——。そこでは、都市生活で見失いがちな大切なことに目を向ける豊かなコミュニティが育まれてきました。
「原宿はらっぱファーム」は、1,500㎡規模の国有地を活用した都市型共創ファーム。ひらかれた場での都市農園体験を通じて、人と人、人と自然のつながりを取り戻すための社会実験として20252月から1年間に渡り運営されてきました。取材班が訪れたのは2025年末、ファームは折しも、年の瀬にコミュニティのみなさんが思い思いに集う「年納め&おしるこDAY」。身も心もあたたかくなるおしるこをいただきながら、プロジェクトの代表・安西さんにお話をうかがいました。

取材・文:天田 輔(渋谷未来デザイン)

 


ファームの全景。神宮前3丁目、原宿から外苑前エリアへ抜ける住宅地の一角に突然農地が姿を見せる(写真:原宿はらっぱファーム Instagram より)


原宿はらっぱファームは、SOCIAL INNOVATION WEEK 2025のアワードプログラムSIW IMPACTで「SHIBUYA GOOD ACTION」賞を受賞

 

野菜をつくる、コミュニティを育む

 

—「原宿はらっぱファーム」とはどんなところですか?

「ここは、人と人、人と自然をつなげる農園です。
たとえば区民農園のようなところだと、ここは山田さんの畑、ここは田中さんの畑…と別々になっているものですが、ここではひとつの畑を、それまで面識のなかった人どうしが一緒に管理しています。ファームでの作業やふれあいを通して地域のコミュニティをつくることを大事にしてきました。

SNSやチラシで参加者を募ったんですが、渋谷・原宿という土地柄もあってか、本当にいろんな方たちが参加していますよ。いろんなお仕事をされている人たちが集まるんですが、畑で作業服で会うとそんなことは関係なくなっちゃうんですよね。そんな様子を見ていて、私はこの1年間めちゃくちゃ幸せでした(笑)」

— 野菜を育てることで、コミュニティも育まれてきたんですね。

「ここではひとつの区画につき8人で管理してもらっています。もともと知らない人たちどうしだった応募者のみなさんを、野菜を育てた経験の有無などを踏まえながらグループ分けさせてもらって。ここに何を植えるのか、その8人で相談して決めるところから始めてもらったんです。

そこに種や苗を用意したり、栽培のサポートなどもしながら、11月には収穫を終えて無事に感謝祭を催すことができました。たとえば感謝祭の開催ひとつとっても、運営側がやり方を考えるのではなくて、メンバーの有志の人たちが実行委員になってみんなで自分ゴトとしてつくっていってくれるようになったことが嬉しいですね」

 

畑を介したコミュニティがもつ可能性

 

— この畑ができるまでの経緯を簡単におしえてください。

「こういう場をつくりたいという思いはずっとあったんですが、きっかけになったのはコロナ禍に『本当にやりたいことに向き合わなくては』と感じたことでした。まだ空き地だったこの土地が美術館の屋外展示に一時的に活用されているのを偶然見かけて、国有地とはいえ、ここに畑をつくることもできるのではと考えました。

一般財団法人 都市農地活用支援センターの協力を得ながら、財務省や国交省、農水省といったところに企画書を見ていただいて、調整を進めました。契約は自治体や町会でないとできないと分かり渋谷区に相談し、渋谷区が国から管理受託をし、それを私たちに再委託していただくというかたちで、スタートに漕ぎ着けることができました。営利目的ではないということも、ここまで話がスムーズに進んだ要因だったと思います。

土地に直接植物を植えることができなかったので、あらたに土を入れて水道を引いて、同時にメンバーを募集して…というところから始まっていきました」

— この1年間での安西さんの気付きや学びというと、どんなことでしたか?

「畑というものがひらかれたコミュニティになり得るということや、こういった活動の意義をこれからも広く伝えていく必要があると思っています。私たちがやってきた1年間の活動で、反省点ももちろんあるけれども、ある程度成果を出すことができたという実感もあります。こういう場を通して、地域のつながりとかウェルビーイングとか、資源の循環や食料自給率といったいろんな問題にアプローチできるということを伝えていきたいと思います。

— コミュニティというものがもつ可能性については今いろんなところで語られていますよね。

「昔は地域のつながり・地縁や親戚付き合いといった血縁、それに会社組織内でのつながり・社縁といったものまで、いろんなつながりが濃かったので、それがある意味セーフティーネットにもなっていたんですよね。そんな様々な縁が薄くなって、付き合いの煩わしさを捨てたぶん、セーフティーネットもなくなってしまっているのが現代だと思いますし、だからこそコミュニティがすごく大事になっているんだと思います」

 

経済的な価値よりも大事なもの

 

— ご自身にとってはすごく大変な1年間だったと思うんですが、そんなパワフルな安西さんの原動力はどんなところにあるんでしょうか?

「自分でもこんなに大変なのになんでやってるんだろうとは思いますよ(笑)、でも、使命感というほど大袈裟なものではないにせよ、私はこれをやらなきゃいけないんだという感覚があって。みんなで隣の人と仲良くして、きれいな地球で笑っていたい、踊っていたい…そんな思いがあるんです」

— この活動をして安西さんには何のメリットがあるんだろう? と思ってしまう人もいると思うんですよね。

「お金みたいな分かりやすい恩恵はたしかにないんですよ。やっぱりここにいる人たちがつながり合って笑ってるだけで、『私はこのためにやってるんだな』って実感するんです」

— そう思えることが恩恵なんだと思いますし、その大切さをお金の大切さと同じくらい信じていい、ということですよね。

「そうですね。たぶん、本当に大事なのはむしろお金よりも人のつながりなんだと思います。お金の価値って分かりやすいし、お金で解決できることはいっぱいある。私もこの活動にのめり込みすぎてお金がなくなっちゃって辛いときもあったので、お金の大切さは身にしみて分かってはいるけれども、でもお金だって元々人とのつながりから生まれるものです。

それに私自身、やりたくないことを我慢しながら活動することができないんですよ()、ちょっと大変でも、やりたいことを自分らしくやり続けるのが、人として美しい生き方なんじゃないかと思っています」


ファーム内に設置された「コミュニティコンポスト」。地域の方が家庭の生ごみを持ち寄り、皆で管理しながら堆肥化している


堆肥化の過程で微生物のはたらきにより庫内は熱を持つ。それを促すために日頃の手入れが肝要だ

 

これからも“循環”と“つながり”をつくっていく

 

— この「原宿はらっぱファーム」は2026年1月いっぱいでクローズ、その後は安西さんはどんな活動をされていくんでしょうか?

「みんなも『どうするの?』って心配してくれるんですけどね。抜け殻みたいになっちゃうんじゃないかって(笑)。

この畑でも、地域の生ごみを集めて堆肥に変えて循環させていくコミュニティコンポストに力を入れてきましたが、私はNPO法人コンポスト東京という組織の代表も務めていて、その活動も続けていきます。例えば家畜の糞やもみ殻などから堆肥をつくるプロの堆肥農家さんはいらっしゃるけど、こういう都市の中で捨てられている有機物を良い堆肥にして循環させていくことをファシリテイトできるような人が、ほとんどいないのが現状なんです。そこでコンポスト東京では、コミュニティコンポストを管理できる“コンポストマスター”を育成するカリキュラムをつくって実施していこうとしています」

 

NPO法人コンポスト東京
https://compost-tokyo.com

 

「それに、堆肥ができるということはそれを使うところも必要で、循環においてコンポストと畑はセットだと思っているので、ここのように広い場所はなかなか難しいかもしれないですが、小さな畑でも花壇でもいいので、それを通じて人がつながることの大切さをこれからも広めていきたいです。

そのスタートとして、ここ渋谷・原宿という場所でファームをひらくことができたことに、とても感謝しています」

— これからも活動応援しています。ありがとうございました。

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