ブレイキンが描く、スポーツと都市のあたらしい接点

布村幸彦さん(日本ダンススポーツ連盟 会長)
渡邊マーロック(渋谷未来デザイン/日本ダンススポーツ連盟)
長田新子(渋谷未来デザイン 理事・事務局長)

2025年に始動した、ストリートスポーツを地域で学べるクラブ活動「渋谷ユナイテッド ストリートスポーツクラブ」。その拠点としてオープンした「Spot. Yoyogi Park」にて、ダンススポーツが切り拓く新しいスポーツ文化の可能性について、日本ダンススポーツ連盟(JDSF)会長の布村幸彦さん、渋谷未来デザイン所属でJDSFでも活躍する渡邊マーロック、そして渋谷未来デザイン理事・事務局長の長田新子が語り合いました。

取材・文:天田輔(渋谷未来デザイン)

ブレイキンがつくった新しいスポーツ文化

長田「まずは布村さんのこれまでのご経歴と、ブレイキンとの出会いについて教えてください」

布村「私は今年ちょうど古希を迎え70歳になりました。体は動きませんが、ブレイキンの大会を見ながら一緒に踊っているような気持ちでいます(笑)。大学卒業後、文部省に入りスポーツ行政に携わり、最後はスポーツ青少年局長を務めました。そのご縁で東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会で7年間働いた後、日本ダンススポーツ連盟(JDSF)に招かれ、本格的にブレイキンと出会いました」

長田「ダンススポーツ、特にブレイキンは若い人たちが活躍していますよね。時代の変化にともなってスポーツ自体のあり方の変化は感じていらっしゃいますか?」

布村「そうですね。かつては根性論というか、厳しく指導して育てるというスポーツ観が主流でした。しかし、2011年にスポーツ基本法ができ、『する』『見る』『支える』楽しみという新しいスポーツ文化をつくりたいという流れが生まれました。
徐々にスポーツ界も根性論から楽しむスポーツへと変化し、ブレイキンなどのアーバンスポーツが、単なる競争ではなく一人ひとりがトップを目指しお互いを仲間として称え合うという新しいスポーツ文化をつくってくれました」

長田「そんななか開催されたパリ五輪を振り返ってみたいんですが、パリには布村さんもいらっしゃったし、マーロックさんは日本のブレイキンの監督として現地にいました。私もその場にいたんですが、パリ五輪のブレイキン会場は、すごく熱気がありましたよね。その前の東京大会ではコロナでほとんどの競技が無観客だっただけに、あの雰囲気は格別だったのではないでしょうか」

布村「ええ、すり鉢状の会場に約5,000人の観客が入って、全方向から声援が飛ぶんです。選手たちは本当に気持ちよかっただろうなと思いました。東京で同じ光景が見られなかったのは、やはり残念でしたね」

マーロック「すごかったですよね。通常のブレイキンやダンスのイベントでは、それが好きな人たちが集まって専門的な視点で見る人が多いですが、オリンピックって、コアなダンスファンじゃない人たちが自由に見て、自由に歓声を上げるんです。技やスキルに詳しくなくても、「この人かっこいい!」と思った瞬間に声を上げてくれる。その自由さが、ブレイキンの本来の魅力だと思います。選手たちも応援されて本当に幸せそうでした」

布村「スポーツを『見る』楽しさがダイレクトに共有されていました。やはりスポーツは、競技するだけでなく、応援してもらってこそ、力が最大限に引き出されると改めて感じましたね」

 

次なるチャレンジ、ブレイキンの今後

長田「オリンピックの盛り上がりの後、次のチャレンジについてはどうお考えですか?」

布村「ブレイキンだけでなく、社交ダンス系の種目もオリンピック種目にしていきたいというのが一番大きな目標です。そのきっかけとして、2028年の長野大会から国民スポーツ大会(国体)に『スタンダード』『ラテン』『ブレイキン』が種目として採用されます。47都道府県から若い世代の代表選手が出場する良い機会が生まれます。ダンススポーツの魅力と人気を全国規模に広げていきたいと思います」

マーロック「ブレイキンの立場としては、渋谷ですでに始まっている『ストリートスポーツクラブ』のような、部活動の地域移行や総合型スポーツクラブなどの仕組みの中でダンスを普及させていきたいと考えています。
令和7年度から、今我々がいるここ『Spot. Yoyogi Park』で、渋谷区の小学校高学年と中学生を対象とした『渋谷ユナイテッド ストリートスポーツクラブ』を運営しています。ダンス、ダブルダッチ、フリースタイルフットボール、スケートボードと幅広くプログラムを提供していますが、これらのアーバンスポーツ種目に共通しているのは、決まったルールで点を取るのではなく、自分の好きなことや人と違うことをして評価される点です。現代の教育や時代に求められているような創造性や個性を、地域のスポーツクラブでの活動を通して育んでいけたらと考えています。また、その機会を渋谷からもっと広げていきたいですね」

長田「表現や個性を発揮する競技という特性がある一方で、スポーツとして広く普及するにつれ、点数をつけて評価するという場面も多くなってきますよね。そのあたりはどう考えていくべきなんでしょうか?」

布村「パリオリンピックでも『なぜSHIGEKIXが勝てなかったのか』という質問をよく受けました。ブレイキンは始まったばかりですが、フィギュアスケートや新体操などの芸術系競技は長くこの課題に取り組み、客観性を高める努力をしてきました。
ブレイキンもそうした配慮をしつつ、本来持っているカルチャーも大切にしてほしいと思います。爆発するような力や人に感動を与える表現力を大事にしながらも、評価の客観性を少しずつ高めていく努力は必要でしょう」

マーロック「パリで金メダルを獲得した Amiも、SHIGEKIXも、オリンピックで『勝っても負けてもいい』と言ってたんですよね。彼女たちは自分を表現したい、頑張ってきたことを伝えたいという思いで踊っています。トーナメントが進めば踊る回数も増え、自分を表現できる機会も増える、それが嬉しいんです。
勝ち負けも大切ですが、準備してきたものをすべて出し切れたことに価値を感じています。従来の競技とは異なる、もう一つの価値がブレイキンにはあると改めて感じますね」

 

街のカルチャーを育むアーバンスポーツ

長田「渋谷をはじめとする都市とスポーツの関わりについてはどうお考えですか?」

布村「スポーツというとスタジアムやアリーナを思い浮かべがちですが、ブレイキンやアーバンスポーツのように街なかで楽しめるスポーツがあると、多くの人が自由に見ることができます。
この『Spot. Yoyogi Park』のようなパークがきっかけとなって、街なかでスポーツを楽しめる場所が全国に広がっていくといいですね。渋谷区がモデルケースとなって全国展開していくことを期待しています」

長田「公園など街なかでスポーツをする機会は、むしろだんだんと減っているように思いますよね。キャッチボールとか縄跳びとかもふくめて、なかなか運動がしづらい環境になっています」

布村「私が小学生の頃は、街なかの公園や大きな道路で野球をしていました。近所の大人たちが通る場所で子どもたちが野球をするのが当たり前でした。今は公園に行っても野球やサッカーをしている子どもたちをあまり見かけません。街の活気が失われつつあるように感じます。
街なかでバスケットボールなど様々な競技ができる場所があるといいですね。もっと自由に使えて、踊れたりする場所が増えると街にとっても良いことだと思います」

マーロック「僕がブレイキンをやっていた頃は、終電後の駅や街の隙間で練習していました。でも今はどこも整備されすぎていて、かえってやりづらくなってる気がします。公園も街も整備され、用途が決められた場所ばかりで、かつてあった『空き地』のような自由な空間が減っています。
整備するとルールができ、そのルール以外のことができなくなります。整備しすぎるとうまくいかなくなることも多いと、よく感じています」

 


【参照】
▶︎渋谷区と公益社団法人日本ダンススポーツ連盟が連携協定を締結

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000036.000069009.html


 

長田「そしてこの度、渋谷区と日本ダンススポーツ連盟が協定を結ぶことになりました」

マーロック「はい。渋谷や代々木公園は日本のヒップホップの聖地としても知られ、カルチャーの発信地であり続けた歴史的背景もあり、渋谷の街と私たちのようなダンススポーツが手を組んで新しいムーブメントを起こしていくことは非常に意義深いことです。今回の協定には様々な項目が含まれていますが、特に『渋谷ユナイテッド ストリートスポーツクラブ』のような、若者がスポーツを通じて多様に生きられるプラットフォームをつくり、プログラムを提供していくことを連盟として取り組んでいきます。この協定を通じて、私たちの活動を世の中に広く発信していきたいと考えています」

布村「渋谷の方々はスポーツを大切にする意識が高いように感じます。渋谷がアーバンスポーツだけでなく、部活動の新しい形を全国に発信し、それが全国の市区町村のモデルとなれば、全国の小中学生がもっと自由に活動できる場が増えるのではないかと期待しています。日本ダンススポーツ連盟としても、この協定を通じて若い世代にダンススポーツの魅力を伝える新たな機会が生まれることを楽しみにしています」

マーロック「『Spot. Yoyogi Park』を拠点に街のカルチャーを創造していくことで、街の活気を高めていくことにも寄与できると思います」

長田「街の活気ということで言えば、私たちが『Spot. Yoyogi Park』を設立したのには、開かれた場所でみんなが交流できる場を作りたいという思いもありましたよね。『ここに行けば誰かに会える』みたいな場所って貴重だし必要なものだと思います。親子で来て親御さんたち同士で交流できる場っていうのもいいじゃないですか」

布村「スポーツに対する付き合い方が変わってくるでしょうね。子どもたちがブレイキンやスケートボードをしてるのを、親御さんたちがビールでも飲みながら見守ってるって、楽しいですよね」

マーロック「開かれている場ということで言うと、アーバンスポーツで若い人たちが頑張っている姿を見てパワーをもらったという話もよく聞くので、地域に対してパワーを与えられる場所にもなっていくといいですよね」

 

 

 

ブレイキンがそのカルチャーもふくめて広く普及しつつあり、若者たちの自由な表現と多様性を尊重する新しいスポーツ文化がたしかに育まれている今。
街に視点を移すと、スポーツを通じたコミュニティづくりが街のさらなる活気を生み、スポーツを「する」「見る」「支える」の垣根を超えた交流の場をも生み出していく。街とスポーツの新たな関係性が、渋谷から始まっています。

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