「SHIBUYA COP ACADEMY」#02 レポート:CORONA SUNSETS FESTIVALから考えるサスティナブルなフェスティバルの作り方

レポート

世界的に気候変動問題解決への取り組みが求められるなか、エンターテイメントの分野でもこの問題の解決に向けた取り組みが進んでいます。

渋谷未来デザインと、サステナブルな社会を構築するためのプラットフォーム 一般社団法人SWiTCHの連携により運営される「SHIBUYA COP ACADEMY」2023年度第2回目の開催では、世界的な環境対応、サステナブル先進企業であるAnheuser-Busch InBev社(以下ABInBev)からゲストをお招きし、今年7月に沖縄で開催される音楽フェスティバル「CORONA SUNSETS FESTIVAL OKINAWA 2023」の取り組みを通じて、学生、企業、行政の垣根を越えた参加者がサスティナブルなイベントを実現する方法を探りました。

今回の「SHIBUYA COP ACADEMY」では、まず、SWiTCHの代表理事 佐座槙苗さんが地球環境および気候変動の基礎知識のおさらいとして、日本は気候変動への意識が低く、先進国の中で最も低いランキングに位置していることや、他国のメディアと比べて、日本のメディアは気候変動に関する情報を取り上げることが少ないこと、近年はパキスタンでの洪水やカナダでの山火事など気候変動による災害が進行していることを説明。また地球のバランスを保つための容量である「プラネタリーバウンダリー」はすでに4つも超過しており、さらなる超過により、生態系の損失、熱波、森林火災、感染症、海面上昇、食糧不足、水不足、台風洪水などが続く可能性を指摘しました。

続いて佐座さんは、現在、エンターテイメントの分野における環境保全のための取り組みについて説明。音楽フェスにおける環境問題として、会場のエネルギー問題などを挙げつつ、実際にゴミゼロを達成した世界初の音楽フェスティバルであるアムステルダムの「DGTL」や、そのほかに参加者が来るまでにかかった温室効果ガスの配分をオフセットする取り組みを行なっているタイの「Wonderfruit」を紹介。「音楽フェスの会場の中で、ゴミをゼロにしたり、再エネを導入していくなどの流れができつつある」と述べました。

また、佐座さんは、音楽フェスティバルの運営だけでなく、アーティスト自身も環境への影響を重視していることを指摘。環境負荷を理由に2019年のライブを中止したイギリスのロックバンド、コールドプレイ、また使い捨てプラスチックの使用停止とサステナビリティへの取り組みを推進する団体への支援を呼びかけるアメリカのシンガーソングライター、ビリー・アイリッシュの活動を例に挙げました。

「世界的に見れば音楽フェスをサスティナブル化すること自体は、すでに普通になってきている。今はそこからさらに踏み込んだ新しい手法として、単に会場の中をサスティナブル化するだけではなく、周りの人たちを巻き込んでいくための対話がスタートしている」

続いては、AB Inbev社より、コロナビールで知られる「CORONA」ブランドマネージャーの曽我さんが登壇。まずブランドのパーパスについて説明しました。

「人間は人生の95%を室内で過ごしている」ともいわれているそうですが、わずか5%の時間だけでは、人生を十分に楽しむことはできないのではないかと考えるコロナビールは、人間には仲間と過ごす機会や自然との触れ合いのきっかけを提供する存在が必要と考え、ブランドパーパスとして、コロナビールは日常の喧騒から離れて学ぶ仲間と過ごすきっかけや自然との触れ合いのきっかけを提供することを掲げています。

またコロナビールには、環境保護活動を主とする「PROTECT PARADISE」というもうひとつのブランドパーパスがあります。その活動を2016年頃から本格的に展開してきたコロナビールは、昨年、グローバルビールブランドとして初めて、商品の製造から消費者の手元に届くまでの間プラスチック使用を最小限に抑え、やむなく使用した分は相当量のプラスチック回収を行なうことで相殺する「ネットゼロ」を達成しました。

続いて登壇したCORONAブランドのエクスペリエンシャルマーケティングマネージャーの藤田さんは、自身が担当するCORONA SUNSETS FESTIVALにおけるサスティナブルな取り組みについて説明。

同フェスティバルは、これまでもサスナティナビリティを意識し開催されてきましたが、今回は海洋保護NGO団体「Oceanic Global」と協力し、よりサスティナビリティの高いフェスティバルの実現を目指すといいます。この協力体制は、「過去にパナマのコロナアイランドでOceanic Globalの「Blue Standard」三ツ星を獲得した経験に基づいている」と藤田さん。「Blue Standard」は、優れた環境保全実践を評価する基準であり、CORONA SUNSETS FESTIVALは、今回も三ツ星の獲得を目指しています。

今回のCORONA SUNSETS FESTIVALでは、環境に配慮した6つの施策を導入し、サスティナビリティを追求します。
1つ目の施策は「使い捨てプラスチックの撤廃」。これはプラスチック製品の使用を最小限に抑え、より再生利用率が高いアルミカップへの転換を推進します。
2つ目の施策は、「会場内で販売するフードメニューの50%以上を国産食材で提供」。これにより食材の輸入時にかかるエネルギーを抑えるとともに、地元産業を活性化させることを目指します。

また、3つ目の施策は「225%以上のプラントベースメニューの採用」。これは肉類の生産に必要な大量の資源を節約するための取り組みです。
4つ目の施策は「フードロスの防止」で、沖縄国際大学の学生環境委員会と協力し、フェスティバルで余った食材を翌日のイベントで活用することで、食材の無駄を減らします。

そして、5つ目の施策は「コンポストを活用したエコサイクル」。会場に設置するECOステーションで、食べ残し等の生ごみを肥料に変え、その肥料を地元のライム農家に提供します。コロナビールといえば飲み口にライムを刺すのがおいしい飲み方ですが、これにより、次回のフェスティバルで添えられるライムは、今回作った肥料で育てられたものになる予定です。

最後の6つ目の施策は「適切な廃棄物管理」。これは上述のとおりコロナビール特有の“容器にライムを刺す提供方法”が地域の廃棄物管理ルールに合致しない問題を解決するため、適切な廃棄を行える業者とのパートナーシップを結ぶというものです。

 

その後行われたトークセッションには、渋谷未来デザインのプロデューサーであり、また株式会社ブーマーとしてCORONA SUNSETS FESTIVALにマーケティングプラン作成面などで関わってきた秋葉さんも参加。

「脱プラスチックを日本のサプライチェーンで推進する上での課題と乗り越えるための取り組み」というテーマについて、曽我さんはプラスチックの使用を完全に排除することは非常に困難と述べた上で次のように語りました。

「商品を流通させる上でどうしてもプラスチックを使用しなければならない場面では、他の領域でプラスチックの削減を行うようなアプローチが必要だと思う。これは、我々だけではなく他の企業も関係するサプライチェーン全体の課題。だからこそ、問題の解決はサプライチェーンの構造にだけでなく、マインドセットにも関係がある。どの業界、職場、ポジションであっても、気に掛けるべき部分は必ず存在する。そのような意識を持ち続け、日々の生活や仕事を通じて行動に移すことが最も重要だと思う」

また「今回の一連の施策に関わることで自分のサスティナビリティに対する意識がどのように変化したのか?」という質問に対し、藤田さんは次のように述べました。

「以前は、ニュースを見たり話を聞いたりすることで、情報自体は無意識に自分の中に入ってきていたため、サスティナビリティについて、ある程度は理解していると思っていた。しかし実際に行動を起こすとなると、自分自身がそれを実行するのは難しいと感じた。だからこそ今回のようなプロジェクトを始める際に、「ただ基準を満たすために行動する」のではなく、「なぜこれをやるのか」。その意味をしっかり理解した上で行動に移すことが重要だと感じた」

また、Blue Standardという基準があったことが大きかったという秋葉さんは、「やってみないとその苦労もわからない部分がある」と述べた上で、こう語りました。

「今回は、Blue Standardという明確な基準を満たすための対策を考える必要があったが、完全に脱プラを果たすことは難しいと感じた。しかしながら、小さなステップを積み上げていくことでさまざまな課題が見えてきた。今後はこれらの課題を解決するためのリサーチを積み重ねていくことになるが、そうした一歩一歩の積み重ねが、実際に取り組んでみると非常に重要だと感じた」

それを受けて佐座さんが、「プラスチック使用率の削減は課題の一つであり、フェスの参加者の環境意識を高めるのもフェス運営の役割だと思う。しかし、フェスに行く前から参加者が環境に配慮する意識を持つための発信をしているか?」と問うと、曽我さんは次のように答えました。

「コロナビールが最も伝えたいことは、「外に出て自然を楽しむこと」であり、このメッセージを好意的に受け取る人が増えるほど、環境に対する意識を持つ人が増えると考えている。もちろん参加者には事前にゴミの分別などについての情報を提供しているが、それよりも重視しているのは、来場者に外で過ごすことを好きになってもらうこと。そうなることで環境問題に対する意識を高めていく人が増えていくことの方が重要だと思う」

また毎年、数多くの音楽イベントが開催されている渋谷の環境問題の課題というテーマでは、「CORONA SUNSETS FESTIVALを含む様々なイベントで、まだ解決が難しい課題としてエネルギー問題がある」と秋葉さん。そのことについて、秋葉さんは次のように語りました。

「バイオマスなどの再生可能エネルギーを用いて発電機を動かすべきだと思っても、そのような設備が存在していないという課題がある。また、太陽光発電の導入も、費用の問題からハードルが高いと感じている。そのため、このような問題に対するソリューションを見つけることが非常に重要。そして、渋谷未来デザインとして環境問題に取り組むにあたり、大企業との協業やZ世代との対話も重要ではあるが、同時に新たなソリューションを創出しているスタートアップとの出会いも非常に価値あるものだと考えている」

続けて秋葉さんは、Blue Standardのような明確な基準を設けることは渋谷の環境問題への取り組みにおいても非常に有効であるとし、その理由をこう述べました。

「「環境問題を解決しましょう」と言うと、その目標があまりにも広範で、具体的な終わりの見えない課題に思えることが多い。どれだけ進展すれば十分なのか、どの程度行動すれば環境負荷をどれくらい軽減できるのか、そのガイドラインやベンチマークが明確に設定されていると取り組みやすくなる。例えば、渋谷未来デザイン、渋谷観光協会、そして渋谷区と協力して、Blue Standardのような「渋谷モデル」のイベントガイドラインを作成することもできるはず。それがあれば、より多くの人々が積極的に環境問題への取り組みを始めるきっかけになるはず」

 

最後に、今後の若者たちに期待するサスティナブルなアクションについて3人がそれぞれ次のように語りました。

「若者たちが新たなスタンダードを作り出し、サスティナビリティへの取り組みが当然のこととなるような声を出すことが重要だと思う。企業はとかく若者たちを重要視するものなので、若者たちが積極的に声を出すことで、社会全体のサステナビリティに対する意識も自然と高まるはず」(秋葉さん)

「音楽フェスなどのエンターテイメントは、サスティナビリティについて考えるきっかけとなる。そこで若者たちがさらに情報を得て行動を起こすことで、その意識が広がるはず。だからこそ、楽しみながら学ぶことが大切だ」(藤田さん)

「現代の若者たちは、情報を得る力も、ネットワーキングする能力も優れている。そのような活動を通じて彼らが未来を見据えているように感じる。企業やブランドが消費者の声を最も重視することを考えると、サスティナビリティに関するムーブメントが消費者側から始められるといい。若者たちは積極的にサスティナビリティについて声を上げてほしい」(曽我さん)

今回のSHIBUYA COP ACADEMYは、エンターテイメントの分野で現在行われているサスティナビリティに関する取り組みが紹介されるとともに、それらがよりよいものとして発展していくための議論が交わされました。

私たちの生活にとって身近なものであるエンターテイメントを日常的に楽しめる環境を保持しつづける意味でも、あらためて気候変動問題について考えていく必要があるのではないでしょうか?