渋谷でテックに取り組む理由—先端技術とカルチャーが混ざり続ける街に

渋谷データコンソーシアム

谷田部丈夫さん(株式会社 Mawari Chief Futurist Officer)
久保田夏彦(渋谷未来デザイン)

産官学民のビッグデータを掛け合わせ、社会課題に対する新たな知見やソリューションを創出する「渋谷データコンソーシアム」。参画企業のひとつである株式会社MawariのChief Futurist Officerを務め、メタバース起業家”としても注目を集めている谷田部さんは、先端的なテクノロジーと、渋谷ならではのカルチャーを融合させていくことに大きなヒントを見出しているといいます——

 

 

多様な人が集まり何かが生まれる、渋谷未来デザインの魅力

谷田部 やっぱり照れくさいですよね。あらたまってお話しするのは。

久保田 照れくさいよね。

——個人的には旧知の仲ということですが、渋谷未来デザイン(以下、FDS)とのお付き合いということでいうと、株式会社ハイ・コンセプトとしてFDSの会員企業に、株式会社Mawariとしては「渋谷データコンソーシアム」の会員企業にもなっていただいています。谷田部さんから見てFDSは率直にどんな組織に見えていますか?

谷田部 まず自治体と組むということで最初はもっとカタめなものを想像していましたが、思った以上にポップというか、カルチャーをここまで混ぜ込んでいくことができるんだというのが驚きでした。

久保田 渋谷っぽいよね。谷田部くんは昔から渋谷のカルチャーを長く見てきたわけですけど。

谷田部 僕にとっての渋谷カルチャーは「WOMB」(※渋谷のナイトカルチャーの代名詞的なクラブ/ライブハウスのひとつ)にルーツがあるんですけど、当時「WOMB」の4階のVIPルームには本当にいろんな人たちが集まっていましたよね。久保田さんともそこで初めて会ったのかもしれません。それで僕、似た空気をFDSに感じているんですね。多様で、嗅覚が高い、感覚が面白い人たちが集まっておしゃべりしている場というような印象が強いです。

久保田 感度高かったもんね、「WOMB」のVIPルームは。

谷田部 アーティストや、いわばクリエイティブなビジネスマンといったような人たちもいっぱいいたんですよね。そんな空気を、行政の関連組織で感じられるというのは驚きでした。
だから、すごく今っぽいなと感じています。当時の「WOMB」が、遊び場なのにそこから仕事が生まれていく場でもあったように、FDSも、なにげなく交わしたアイデアが具体的な仕事につながってしまうようなところが、似ているんだと思います。

久保田 アイデアを持ち寄って、なにか思い付いたからやってみよう、みたいな芽生えの空気ですよね。会員企業の皆さんからも、そういう創発的なイノベーションを期待されてるわけだし、確かに大きな意味では似てるのかもしれない。

——渋谷という街自体に対してはどんな魅力を感じていますか?

谷田部 渋谷はインターナショナルシティだなと思っています。当然ローカルの文化もしっかりあるんですけど、そのローカルの文化って意外と海外インフルエンスのものも結構多いんですよね。音楽だったり、ファッションだったり。日本と海外の文化が混じり合うような、そういう面は一貫していると思います。

 

 

かつて見ていた未来像を実現したい

——いまXR/メタバース業界で大きく注目されている、株式会社Mawariについても訊いていきたいです。

谷田部 Mawariも実は、元を辿ると「WOMB」につながってるんですよね(笑)。
当時、照明やレーザーに加えて映像を出したり、テクノロジーを使ってどうやってダンスフロアの空間を演出していけるか、ということを、映像クリエイターたちと一緒に考えていたんですね。実はその延長が、Mawariなんです。
XRを使って空間を演出することにはかなり早い段階から興味があって、実は久保田さんがNIKEに在籍していた時代に僕たちがつくった、こんな動画がまだYouTubeに上がっているんですけど……

久保田 これは時代を先取りしすぎてたね(笑)。

谷田部 これはGLAMOOVEの浅沼さんと一緒につくったんですけど、僕にとってはほんとにMawariを起業するきっかけになったものです。
今、久保田さんがやろうとしてるデジタルツインの答えもここに入ってますよ。こんな未来になればいいなって当時思ったけど、その頃は技術が追いついていなかったので、妄想で描いていったんです。

久保田 アニメのなかで架空の未来の世界として描かれてきたような景色だよね。今では空間にものが浮かんで見えるなんていうことが実際にできるようになってきたけど、当時はまだ夢の世界だったから。

谷田部 要するに僕はこの感じをいまだにしぶとくやろうとしているんです。当時は妄想だったこの世界観を、何とか現実にできないかとずっと考えてきて。XRの技術が出てきたけどまだまだ足りない技術も多くて、じゃあ足りないところをつくっちゃおう、と立ち上げたのがMawariです。

空間にオブジェクトを浮かび上がらせるには、サーバーが必要なんです。そのサーバーがコストもかかるし使い勝手も悪い…そこで僕らは分散型のサーバーを用いて実現しようと考えたんです。僕らはもともと3D映像を配信する技術を持っていたので、そこに分散型サーバーの技術を加えて…、というのがMawariの事業で、今7年目。去年くらいからやっとかたちになってきたかなというところです。

——かつて渋谷で思い描いていた夢が、いよいよ現実になってきた…。

谷田部 しぶとくやってる感じですね(笑)。

久保田 20年も経てば、しぶといよね(笑)。

 

 

グローバルとローカル、テクノロジーとカルチャーを融合

谷田部 ここ渋谷でMawariが誕生して、僕はそのまま渋谷にいますが、いまMawariの拠点はアメリカに移して、ほかにもメンバーを拡張してアメリカ、日本、カナダ、ロシア…と、グローバルチームになってきました。

渋谷って、そもそも街の文化があって、かつ、テクノロジーと文化が融合しやすい場所だと思うんですね。テクノロジーだけを求めるなら、もっと別の場所もあると思うんです、シリコンバレーとか。でも、自分が渋谷を離れない理由は、文化が好きだから。僕みたいな人がテック側の人間として文化側とつながっていれば、そこに何か化学反応が起きると思っています。
そうやって渋谷は、テクノロジーと文化を面白く融合させて、ローカルのクリエイターも世界のクリエイターも、またクリエイティブなビジネスマンも集まって何かが生まれていくような、そんな街にほんとにしたいんです。渋谷データコンソーシアムという場には、その可能性をすごく感じています。

久保田 だから、海外発信力っていうのは次のチャレンジかな。
でも谷田部くんの言うように、テックのようなある意味カタいものと、文化のようなやわらかいものを混ぜていくっていう視点は大事ですよね。
渋谷データコンソーシアムでも渋谷未来デザインでもそうかもしれないけど、いわゆる大企業の人たちに、どうやってカルチャーと交わってもらえるようにするのか。カルチャー要素は谷田部くんや僕なんかが意識して入れていかないと、どんどん真面目でカタい方向へ向かっていってしまいます。テックは基礎技術としてどうしても必要で、それもなくただエンタメ畑だけやっていても会員企業の皆さんが満足するとは思えないけど、エンタメやカルチャーの要素がなくなると渋谷っぽくもなくなっちゃうんですよね。

——とかくテクノロジーの話になると、場所性からどんどん離れて、それを渋谷でやる必要性というのはわからなくなっていくと思うんですが、この街の文化と混ざることで、渋谷である必然性が出てくると。

谷田部 そうですね。シリコンバレーから生まれてきたサービスやツールが世界中で生活のツールとして使われているわけですけど、たとえばお風呂ってアメリカの文化では入らない人が多いから、スマホとお風呂ってあんまり連携してないじゃないですか。たぶんアメリカに日本のようなお風呂の文化があったらスマホとお風呂ってもっと連携してるはずなんです。
地域によって土着した文化があるので、そこにしかないものはそこでちゃんと進化させて、それを世界に持っていく。テクノロジーの使い方の本質は、世界の真似をすることじゃなくて、それぞれに土着的に持っている文化をテクノロジーで進化させることなんじゃないかなと思っています。
そして、渋谷には魅力的な文化がたくさんありますから。

 

テクノロジーと場所性—渋谷データコンソーシアムに期待すること

谷田部 そうやって、データコンソーシアムによって渋谷の街が、いわば“XRシティ”みたいな、「XRを体験したければ渋谷に行け」と言われるような街になってほしいです。そういう街ってまだないんですよね。そのブランディングとともに、キャットストリートや宮下公園、代々木公園とか、いろんなところでXRが体験できる街になるといいですね。

久保田 そうですね。今の渋谷データコンソーシアムはまだ、様々なデータをどう取ってどう使いましょう、という議論のフェーズから、だんだん具体的なアウトプットとして出していくフェーズへの移行段階だと思っていますが、そのときアウトプットとして出していくものは、グラフなのかもしれないし、XRみたいなものかもしれないし、そこは並列だと思ってるんです。データの出し方の問題で。

たとえば、渋谷のデジタルツインをつくってみたけど、デジタルツインってあくまで環境だから、それがあるだけではまだあまり意味がなくて。
アウトプットをXRとするなら、リアルの地点のデータと結びついたデジタルツインの上にXRを掛け合わせると、それがリアルの現場で見えるっていう仕組みを構築できたりするわけで、そうやって基礎的な環境の上で「何をするのか」ということが重要なわけですよね。

渋谷データコンソーシアムは去年から今年にかけて、ようやく「何をするのか」という段階にきたところだから、それを世界中の人たちが使って、たとえば世界で何かやるとそれが渋谷のリアルの街なかにXRとして実現されるみたいなことが起こってくるとすごくいいなと思うんだけど。

谷田部 そうですね。デジタルツインとかXRって、「わあ、すごい」で終わっちゃうことも多いんです。そういうのを“出落ち”って僕は言ってるんですけど。ファーストインパクトがすごすぎて継続しないという事例が少なくない。
僕はそこに「人」とか「出会い」といった要素を掛け合わせていくことが大事だと思っています。あの場所で誰々と出会ったからこうなった、というような体験に価値があると思うんですよね。その意味で渋谷という「場所性」も重要になってきます。

久保田 リアルの世界でたとえると、ツアー中のミュージシャンとか、出張中のビジネスマンでもいいけど、行った先で地元のスタッフなんかにその街を紹介してもらえるから楽しめるっていうのがあるじゃないですか。

谷田部 目線が変わるんですよね。観光客の目線だけじゃなく、地元の人の目線がもらえるというか。そっちのほうが面白いんですよね。

久保田 そういうのがデジタルで提供できたらすごくいいですよね。デジタル上なんだけど、人肌があって、人のアクティビティがあって。

谷田部 そういうものが、渋谷という場所性によって起きやすいと思うんです。「面白いじゃん」って言って受け入れられるのがこの街の強みですよね。

久保田 そうやってテックとカルチャーを混ぜていったほうがいい。渋谷データコンソーシアムの責任者としての個人的な反省も含めて言うと、データを扱うプロジェクトはどうしてもカタくなってしまいがちなんです。基礎的な部分を構築するにはカタさは大事なんだけど、それだけだと「渋谷じゃなくてもいいんじゃん」ということにもつながってしまう。

谷田部 あえて渋谷を選ぶ理由の部分に、今後もいろいろなヒントがありそうですよね。

取材・文)天田 輔
写真)加藤圭祐

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