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2019.11.12
SCRAMBLE STADIUM SHIBUYA|アーセン・ヴェンゲル氏 基調講演 第二部【レポート】

日時:2019年10月24日(火)
会場:ヨシモト∞ホール 
登壇者:
アーセン・ヴェンゲル
岡田武史(FC今治 代表取締役会長)


代々木公園エリアに3万人収容規模のスタジアムパークをつくる「SCRAMBLE STADIUM SHIBUYA」構想。
今回は、かつてJリーグ・名古屋グランパスエイトやプレミアリーグの名門・アーセナルで監督を務めたアーセン・ヴェンゲルさんを招いての基調講演会が催されました。

その第二部では、これまでW杯日本代表チームを2度に渡り率いたほか、横浜マリノスでも監督を務め、現在はFC今治 代表取締役会長を務める岡田武史さんを招き、「日本のサッカーを強くする方法」テーマにトークセッションが行われました。

ASモナコ監督時代から海外のサッカーを見ていたというヴェンゲルさんと岡田さんが語ったのは、選手の育成論や将来のサッカーはどうなるか? ということ。

岡田さんは、ヴェンゲルさんについて、「ヴェンゲルのサッカーは日本人に合っている。ショートパスで相手の組織を崩す。知的なサッカーのイメージ」があると最初に語り、「2010年のW杯前に日本はグループリーグを突破できないとヴェンゲルに言われたけど、もし突破したら日本にビッグスタジアムを作ってやる」と2人が交わした秘密の約束についてのエピソードを語るなど、会場の雰囲気を和やかにしながらトークは進みました。

岡田さんが代表監督を務めた2010年W杯出場時の日本サッカーについて、「パラグアイの選手の、審判から見えないところでのずる賢さにはやられたね」とヴェンゲルさんは発言。岡田さんはそれについて「日本のサッカーは進化してきたが選手が主体的にプレイすることが少ないし、そのせいで、計画が狂うと修正ができない。日本人はよく『この局面ではどうすればいいんだ?』と監督に聞くが、そもそもそれを考えるのがサッカーだ」と語り、

それに対して、ヴェンゲルさんは「チームを一人の人間だとしたら、最後の一歩を生み出す自信が日本には足りない。メンタルを強くするために今までの成功を糧に自己肯定感をもって、恐怖に打ち勝たなければならない。失敗したことによるトラウマを次の成功体験の糧に変えていく必要がある」と語りました。

続けて岡田さんは「98年W杯出場時は、世界との差を明確に感じた。その時の日本には海外でプレイしている選手はいなかった。しかし、2010年時は海外でプレイする選手が増えたし、アンダー世代ですでに世界との対戦経験がある選手も少なくなかった。フィジカルなど個人の力は劣るが世界と日本は戦える。ただ、主体的にプレイできるかどうかが鍵」と、世界との差が埋まりつつある中で、日本がいまだ抱える課題について語りました。

また日本サッカーにとって理想的な選手育成について、ヴェンゲルさんは「恐怖は個人の中に宿っている。怖さに目を向けるのではなく、自分が何をしたいかに目を向けるべきだ」との認識を示し、

岡田さんは「プレイヤーの環境だけでなく、”同調圧力”などがある日本の文化はスポーツに向いてないという部分もある」と日本という環境全体を捉えた問題点を指摘。

ヴェンゲルさんが「人間は基本的には楽がしたいもの。一般人とトップアスリートの違いは、それでも自分の現状と理想のギャップを埋めていける術を知っているかどうか」と語り、

岡田さんは「今の社会はどんどん困難を失くしているが、便利な生活の中では日本人が本来持つ、“危険を越えてきた遺伝子”にスイッチが入らない。その中ではメンタルが強い人間は出てこない。98年W杯の予選では世間からのバッシングで追い込まれた。それでメンタリティーのスイッチが入った。テクノロジーの発展は、確かに我々の生活を便利、安全にしてくれる。しかし人間の幸せはその中にあるのではなく、何かを乗り越えた時に生まれる。ヨーロッパの中にはまだそういった要素がある」と持論を展開。

それに対してヴェンゲルさんは「批判にさられるのは監督だけでなく選手もだ。どんなプレッシャーのなかでもやれることをやりきる、という考えが大事。これから勝負!という時にはプレッシャーがかかっていたとしても逃げるか向き合うかだけだ。負ける恐怖を乗り越えるために、結果がどうなるか予測して、そうならないように問題点を俯瞰して解決する必要がある」と語りました。

そして、トークセッションは選手育成に科学的な要素を取り入れることについても及び、岡田さんはヴェンゲルさんがプレミアリーグにおけるテクノロジー導入の第一人者であったことに触れながら、

「監督というは何かが分かったと思った時にその成長が止まる。常に新しいものを取りれなければならない。立ち止まった時や、同じことの繰り返しに陥った時に監督としてのキャリアは終わってしまうが、ヴェンゲルは長い間同じチームにあっても監督として前に進み続けてきたことがすごい」と賞賛。

ヴェンゲルさんは「監督として選手が良くなるためにモチベーションを与えるのが仕事ではなく、モチベーションがある選手がなりたい自分になれるように手を貸すのが監督の仕事」と語りました。

最後に2人はサッカーの未来についてトーク。岡田さんは「Jリーグが海外リーグと同じレベルになるためにどうやって選手や環境を育てていくべきか?」という問いに対し、「ヨーロッパと違い、日本は娯楽の選択肢が多い。その中で、チームが強いだけで観客を引き入れられるのか? という疑問も持っている。今後、日本のサッカーを盛り上げていくためにはそのことを踏まえて、もっと日本に合った“日本型のマーケティングビジネス”をやる必要がある」と回答。

またサッカーの未来について、「以前はW杯ごとに劇的な戦術が生まれきたが、最近はその傾向はない。今は“より早く、より強く”といったフィジカルな視点が主になっていて、それがしばらく続くような習熟期にある。その中で何らかのルールが変わった時にサッカーも変わってくる」と語り、ヴェンゲルさんも「サッカーは確かに習熟期であり、フィジカル、テクニカルな面では頂点に達している。でも大切なことはクリエイティビティだ。サッカーは魅せるスポーツであるべきで、我々監督はフィジカル、テクニカルだけでなく、クリエイティヴな面もあわせて選手に実践してもらうことを伝える必要がある」と、それぞれの認識を示したところで、トークセッションは終了。

ハッとする視点が示されることの多い、刺激的な時間となりました。またそれはスタジアムパーク構想の先に見える、市民が熱狂できるスタジアムの姿に重なり、期待が少し具体性を帯びて心に残ったように感じられました。


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👉🏻【前編】ヴェンゲルさんと、大金直樹(FC東京 代表取締役社長)さん、羽生英之さん(東京ヴェルディ 代表取締役社長)のクロストークレポート