“Shibuya的な公共空間”、その未来図とは?|『都市のパブリックスペースデザインコンペ2018』公開審査会

レポート
Shibuya的な公共空間

成熟に向かう「これからの都市」において、「パブリックスペース」をどのような場としてとらえ、その場をどのようにデザインするのか。また、そこにはどんなアクティビティが生まれうるのか。

鋭い着眼と柔軟な発想、アイデアを募る『都市のパブリックスペースデザインコンペ』。第三回となる今回は、株式会社日建設計と渋谷未来デザインの共催、株式会社アカツキの協賛によって開催されました。

今回のテーマは「『Shibuya』的なパブリックスペース」。定義のしかたによって幅広い着想が得られそうなこのテーマ。

224点(応募登録495件)の応募案から1次審査を通過した10組によるプレゼンテーションと質疑応答による公開審査が行われました。

提案されたパブリックスペースの施策案やそのビジョンが、街に対してどんな“問い”を提示しているのか、またどんなスケールの未来像を描いているのか、といった議論も交えられながら、最優秀賞1点、優秀賞3点、佳作6点が決定しました。

都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018

都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018

2018年3月8日(金)
@渋谷ヒカリエ 8/COURT

<審査委員長>
日本大学理工学部特任教授/都市づくりパブリックデザイン センター(UDC)前理事長/計量計画研究所 代表理事
岸井隆幸

<審査委員>
横浜国立大学大学院Y-GSA教授/SANAA/西沢立衛建築設計事務所代表
西沢立衛

ロフトワーク代表取締役/渋谷未来デザイン FUTURE DESIGNER
林千晶

EVERY DAY IS THE DAY Creative Director, CEO/渋谷未来デザイン FUTURE DESIGNER
佐藤夏生

全10組のプレゼンテーションは、以下のとおり。

都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018

No.181 越智誠(神戸大学大学院)
「車道黒板化計画」

<参照|オフィシャルサイト

タイトルは「車道黒板化計画」。提案の前提として“渋谷とは、多様性のある街”と定義し、その“多様性のある空間”を、(有限のスペースで、様々な人やグループがアクティビティを行う)学校の休み時間に見られる黒板の落書き遊びに見出したと説明。その上で、自動運転化によって都市の車道の大部分が歩行者に解放された未来を想定し、“車道の黒板化”するというアイデアを提案しました。

街中に「ライン引き貸し出しステーション」を設け、利用者は、車道にライン(丸や資格などの落書き線)を引くことで、自分たちがアクティビティを行う領域を確保。そこで大道芸やオープンなシェアオフィス、AR水族館、フリーマーケットが同時多発的に行われ、またデジタルサイネージの案内板も用意することで、観光者や歩行者の自発的な参加者を促すと話しました。

― 審査委員コメント ―
「落書きで街の風景が変わっていくという発想は面白い」(西沢)
「ラインを引くという行為のあとに、利用者の想像力がイニシアティブをもつ良い企画だと思う」(佐藤)

都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018

No.236 大熊美菜子(みなこ建築設計事務所)
「人と虫と鳥とまち」

<参照|オフィシャルサイト

「人と虫と鳥とまち」と題されたこの提案は、人だけでなく生き物全体にとって重要なパブリックスペース(生きるためのインフラ)を整備するというもの。

特に“Shibuya的”=サブカルチャー=裏側という視点に立ち、都市の見えない部分を利用し、生物のための5つのインフラを構想。包括的に、小さな虫から鳥までが根強く住み着くための仕組みを提案しました。

具体的には、鳥たちの移動経路や休憩場を確保するために、屋上看板の裏側スペースを緑化。蝶々などの垂直移動をする生物のために、高さの異なる袖看板の上にプランター台を設置。ビルの隙間に階段を作り、てんとう虫など昆虫の移動経路を確保。また、落ち葉を腐葉土に変えるためのスペースとして、道のブロックの溝やビル間の隙間を利用するアイデアを提示しました。

― 審査委員コメント ―
「脱人間中心主義的な視点に、未来を感じる。“微生物の多様性も認める街”というメッセージを発信するのは、世界都市である渋谷だからこそ大きな意義がある」(林)。
「渋谷の街には、緑が点在している。すでにある緑や土をつなぐ仕組みも重要」(佐藤)

都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018

No.256 パブロ ルイズ ジュリー サエリー(東京大学大学院)
「REPERCEIVING SHIBUYA」

<参照|オフィシャルサイト

丁寧に渋谷の中心部をリサーチしたうえで、「REPERCEIVING」をキーワードに据え、すでに渋谷にあるスペースやものに新たな価値を付加するような6つのアイデアを提案しました。

たとえばガードレールに椅子やテーブルの機能を付け加えたり、坂の多い地形に注目し、通りの階段の一部に芝生を敷いて休憩スペースを設けたり、また電話ボックスを“1人カラオケボックス”に変えたり。

「渋谷を訪れる観光客の目的のひとつは“街を歩くこと”にある」と話し、こういったスポットを歩き、繋いでいくーーそこで生まれる“街の経験”に期待したい、と意図を説明しました。

― 審査委員コメント ―
「渋谷にあるさまざまなエレメントに着目して提案しているのがよかった」(岸井)
「ひとつひとつのアイデアにおいて、もうすこし“「Shibuya」的なもの”に着目しても良かったのでは」(西沢)

都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018

No.259 佐藤涼太郎 加藤誠士(東京工業大学大学院) 安藤祐次朗 邢絲琦(千葉大学大学院)
「GENE ―湿っぽさが生む無秩序空間の疑似体験―」

<参照|オフィシャルサイト

買い物客と大道芸人、オフィスワーカーとホームレス。そのような偶発的な出会い、多種多様な人が同じ空間に混在している状況を“「Shibuya」的なもの”とみなし、また“湿っぽい”という言葉でその特性を表現。

人と人が交わる場の空間的要素を抽出し、コード化したものを“GENE”と名付け、渋谷の地形などを配慮しながら、“GENE”を集中的でなく、分散させて配置させた建築物をひとつの例として提案しました。

― 審査委員コメント ―
「提出されている建築物には、渋谷の谷地型の地形が活かされている。その着眼点は面白い」(岸井)
「理念的なもの、概念的なものを、建築の構造で示そうとする態度はとても評価したい。が、完成した図はむしろドライな印象であり、“湿っぽい”という表現は伝わりにくい」(西沢)

都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018

No.315 Siqi Li(フリーランス) Xiaoting Chen(BYREDO)
「Invisible Cities―The Shibuya-ness of Activity-triggered Urban Spaces」

<参照|オフィシャルサイト

イタリア、ヴェネチアのサン・マルコ広場のように、建築要素によって明確に定義されているパブリックスペースもあるが、渋谷の場合は“人の活動”がトリガーになっているのではないか?
そういった仮説を元にした本提案は、東京におけるIT産業の集積地という渋谷の特性も参照しながら、ヴァーチャルな施策によって、パブリックスペースの要となる“人の活動”の醸成を促すというもの。

具体的には、渋谷の交差点にはインフォメーションセンターを、植物が比較的多い松濤エリアには生物学の学校を、竹下通りにはQ&Aスペースの機能を、テクノロジーを駆使して付加。ヴァーチャルな情報にアクセスすることで“新しいShibuya体験”を提供すると説明しました。

― 審査委員コメント ―
「行動によってパブリックスペースが生まれるのはその通り。都市の裏側にボタニカルガーデンのような要素がすでにあるという視点も共感できる」(林)
「情報が溢れる渋谷において、さらに情報を加えるという考え方に、若者らしい鋭さを感じた」(西沢)

都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018
都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018

No.322 Liu Ruo Chen  Lu Yao  Cui Shi Qin(北京工業大学大学院)
「”Ten” kilometers of urban Parkour」

<参照|オフィシャルサイト

オリンピック&パラリンピックを目前に控える東京のムード。また、ビルのファサードや隣接するビルの高低差、空きスペースといった、渋谷の街の“制限”を有効活用する方法として、パルクール(フランスの軍事訓練をルーツにもつ、走る、跳ぶ、登るといった移動動作を伴うアクティビティ)的な遊具装置を街中に設置するというユニークな提案。

高低差のあるビル間をU字の構造物で繋いでできるスケートスペース、既存の配管を拡張した迷路兼クライミングスペース、巨大なトランポリンなど、具体的な遊具のアイデアに触れ、詳細を深めました。

― 審査委員コメント ―
「野生的でもあるバルクールというアイデアを出したのが魅力。プロポーザルのために描いた全体図も、どこかSF的でユニーク。単なる遊具に止まらず、もう少し、渋谷の地形や自然に挑む要素があってもよかった」(西沢)
「“公園を都市空間のレベルまで拡張する”という視点は面白い」(佐藤)

都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018
都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018

No.337 Aurora Destro Petra Tikulin(SenseLab Milan)
Erika Grigis Lorena Palazzolo Flora Catellacci Yongmei Cui(ミラノ工科大学)
Giset Paola Pàez Cataco(フリーランス ミラノ工科大学)
「SHIBUYA KARAOKE DANCE」

<参照|オフィシャルサイト

本提案では、都市が持つ固有のリズムに着目し、提案の対象を渋谷の交差点にフォーカス。信号機が制御する時間軸、また直進だけではなく時に斜めに動く歩行者の動きを“自由度のある空間での動作”また“ダンス的”とみなし、地面一帯にLEDランプを敷き詰めた、ある種の舞台を作るというアイデアを展開しました。

歩行者信号が青になるとLEDランプがくねくねと線を描いていき、歩行者はそれを追うように歩いて横断する。その様子を、歌詞を追って歌うカラオケになぞらえ、「SHIBUYA KARAOKE DANCE」と名付けたとのこと。

― 審査委員コメント ―
「わかりやすく、具体的。歩く人がパフォーマーになりうるという視点も“Shibuya的”」(林)
「人のアクティビティがパブリックスペースの一部になるという提案でもある。逆に、人の後をLEDが追い、交差点の空間に、光のイメージを浮かび上がらせるような試みでも面白いと思った」(岸井)

都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018

No.351 殿前莉世(東京藝術大学大学院) 平井未央(日本女子大学大学院) 福留愛(横浜国立大学大学院)
「60分の近景 35kmの体験」

<参照|オフィシャルサイト

渋谷の交差点は、建物の上から眺めるだけでなく、実際に歩行者として参加者になれる場。そのように「身近な景色」と「参加できる風景」が一致する状態を“Shibuya的”と定義。そのビジョンを核に、東京という都市のランドスケープにまでスケールを拡張した提案を行いました。

「身近な景色」のひとつとして“電車から見える景色”をピックアップし、その景観に「参加」するため、山手線を囲うように線路脇にテーブルを設置するというアイデアを展開。車内で携帯に夢中になっている現代人に対して、都市の風景へ意識を広げるきっかけの提案でもあると説明しました。

― 審査委員コメント ―
「見る/見られる の関係がパブリックスペースの重要な要素になっていて、それを他に応用するという試みは納得できる」(岸井)
「街の景観に参加し、ここを使う人のユーザビリティに対する画期的な提案があるともっとよかったのでは」(佐藤)

都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018

No.406 吉野翔太(東海大学大学院)
「滲み出るささいな個性」

<参照|オフィシャルサイト

渋谷でフィールドワークを展開し発見したことは、建物が様々な方向を向いていること。そこから、渋谷は「無関心さ」「無関係さ」が感じ取れる街であると語ります。しかしそのことが人を解放し“本来、自分がしたかった行動”を取らせる効果があるのだと、ポジティブに説明。

これはその“街の個性”を体験できるように、そうした建物の向きの不均一性をよりはっきりと視覚化させようというアイデア。

南北を垂直とし、各々の建物の面がどのような角度にあるのかを算出、その数値によって建物の正面以外の面を色で塗ってしまう、というもの。いつくかのケーススタディも披露しました。

― 審査委員コメント ―
「色を塗ってしまうという行為は、ある意味ネガティブ。しかし、パブリックアートとして実施されたら、面白くなる可能性もある。ただ人の感情が色にどう影響されるか、色の選び方をもっと丁寧に考えるべき」(佐藤)
「プレゼンテーションのイメージ図では、色を塗る前と塗った後で、そこまで風景のインパクトとしての変化が見られなかったのが残念」(林)

都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018

No.462 早田大喜 田中勝(東京工業大学大学院)
「COIN-LOCKER JUNCTION ―都市と人間の結節点―」

<参照|オフィシャルサイト

着目したのは、駅前のコインロッカー。ハロウィンなどで人々が“着替え”として使うこのスペースを、日常と非日常が入り混じる“Shibuya的なもの”だと定義しました。

そこで、透明なコインロッカーを設置し、パブリックなオブジェまたはディスプレイとして存在させるというアイデアに至った、とのこと。そこに服や楽器など個人のリアルなものが置かれることで、“飾る”という具体的なファンクションが生まれる、と説明しました。

また、災害や事故が起こった際には献花台として使い、同時に利用金を寄付金に充てるなど、ロッカーの新しい可能性をも提示しました。

― 審査委員コメント ―
「単なるインスタレーションで終わらないように、それがあることで人々はどう幸せになれるか、笑顔になれるかを想像して、アイデアをさらにブラッシュアップさせればより良い企画になる」(佐藤)
「閉じた空間であるコインロッカーをオープンにして、共有化するという発想は面白い」(岸井)

以上のように、どのアイデアも非常にユニークで、独特な緊張感のなか進められたプレゼンテーションと質疑応答ですが、会場に集まった聴衆の皆さんからは、なるほどと笑みがこぼれたり、時には大きくうなずいたりと、都市のパブリックスペースについて、あるいはパブリックスペースを通して見える都市の未来像について、あらためて思いを凝らす場となりました。

都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018

選考の結果、受賞者は以下のとおり。

<最優秀賞>
No.236 大熊美菜子(みなこ建築設計事務所)

「都市のパブリックスペースデザインコンペ2018」 ⼤熊美菜⼦⽒「⼈と⾍と⿃とまち」が最優秀賞を受賞

<優秀賞>
No.322 Liu Ruo Chen  Lu Yao  Cui Shi Qin(北京工業大学大学院)

No.337 Aurora
Destro Petra Tikulin(SenseLab
Milan)Erika Grigis Lorena
Palazzolo Flora Catellacci Yongmei
Cui(ミラノ工科大学)

No.351 殿前莉世(東京藝術大学大学院)平井未央(日本女子大学大学院)福留愛(横浜国立大学大学院)

都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018
都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018
都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018
都市のパブリックスペースデザインコンペ 2018